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58組まない? いいえ、組みます!

「私と、組みたいの?」


 恋華はオウム返しをした。


「はい」


 和姫は首を縦に振った。差し出した右手はまだ下げていない。


「和姫ちゃん、何を企んでいるの?」


「企む、というのは……?」


 和姫は戸惑いの表情を見せた。先程といい、恋華に信用されてないことが余程ショックだったのか。


「だって、和姫ちゃんが私に共闘を持ちかけるなんてさ。どう考えたっておかしいじゃん」


「わたくしを、信用していないのですか?」


「少なくとも、額面通りには受け取ってないよ」


 恋華は訝しみながら返事をした。

 恋華がこれほどまで和姫を怪しむのには理由がある。和姫は1度、恋華を陥れようとしたことがあるのだ。その作戦は失敗に終わったが。危うく俊介との仲を引き裂かれそうになったのだから、恋華も無条件に信頼できないのだろう。


「だからさ。理由を話してよ」


「理由?」


「うん。私と手を組みたい理由。そっちにも、何かしらのメリットがあるから、この話を持ちかけてきてるんでしょ?」


 そう。恋華と和姫は、本来敵同士のはずなのだ。俊介と恋華が今「お試し恋人」という微妙な立場にあるのも、和姫が提示した条件だ。

 和姫はゆっくりと、慎重に言葉を紡いだ。


「……現状では、あなたよりも厄介なのは、むしろ緋雨の方ですからね。『敵の敵は味方』という言葉もあります。あくまでも、一時的な協力関係を結びたいということですわ」


 ピクリと。

 恋華は眉を動かして、


「それは、和姫ちゃんの本心なの?」


 和姫は心外だ、とばかりの表情で、


「ですから、言ったとおりですわ。2人で協力して、緋雨と戦う。それの、何が問題なのですか?」


「でも和姫ちゃん、今まで私のこと敵視していたじゃない」


「それは……。謝罪いたします。申し訳ありませんでしたわ」


 和姫は、ペコリと頭を下げる。その所作は、前非を悔いてるようにしか見えなかった。しかし、恋華はその謝罪を受け取らず、アイスコーヒーをすすった。空になったグラスからは、「カラン」と乾いた氷の音が響く。和姫はその様子を見て、


「まだわたくしのこと、疑っているようですわね?」


「まだ、ちょっと、ね」


 恋華は、和姫に向かって言った。

 実際には、和姫の言葉は真実だと思っていた。

 しかし、和姫の協力を受け入れない理由。それは……。


「私と組まなくたって、和姫ちゃんなら緋雨ちゃんへの対策は立てられるじゃない。それでも厄介なライバルである私と組みたがるってことは、私を利用しようとしてるから。そうじゃない?」


「そのとおりですわ」


 和姫は、恋華に気丈な視線を向けた。


「この際だから正直に申し上げますが、あなたを抱き込んでおけば、後々有利になると踏んだからですわ。緋雨と潰し合い、上手くすれば共倒れも期待できますし」


「……そっか。正直に言ってもらえて嬉しいよ」


 恋華は笑みを浮かべるが、どこか憂いを帯びたような、寂しげな笑みだった。


「でも、まだあるでしょ? 私に対して、何か言いたいことが」


「…………」


 気丈だった和姫の視線が、一瞬ではあるが背けられた。

 しかし、それもすぐのことで、和姫は恋華を見つめ直し、


「それでは、本当の本音で語りましょう。ただの興味本位ですわ」


「興味本位?」


「ええ。あなたが、あの緋雨を相手にどう立ち回るのか。どう立ち向かっていくのか。単純に、興味が沸いたからですわ。つまり……」


「つまり、ただ面白そうだったから、だと?」


「いけませんか?」


 和姫がまっすぐに視線をぶつけると。

 恋華の瞳に、喜びの色が浮かぶ。


「ううん――ぜんっぜんいい!!」


 恋華は勢いよく、和姫に向かって右手を伸ばした。


「組もう! 私達!」


「ええ。よろしくお願い致しますわ」


 ガシッと大きな音が、店内に響いた。

 恋華は最初から、和姫のことを信用していたのだ。待っていたのは、和姫から自分への信頼の言葉。


 それをただ、ハッキリと口に出してほしかったのだ。

 和姫が、自分に好意的な気持ちを持っていることは分かっていた。

 

 恋華が試すような物言いをしても、和姫から差し出された右手は、一度も下げられることは無かったのだから。 

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