57言う? いいえ、言いません!
「――やっぱり言わない! 絶対秘密!」
恋華はそう言った。
確かにそう言った。
これでついに恋華の正体がハッキリすると思ったのに。
和姫は、危うく椅子から転げ落ちそうになりながら、
「ひ、秘密ですの?」
「秘密だよ!」
恋華は何故か「えっへん」と胸を張った。
「だってさ。私の秘密を和姫ちゃんに話したら、和姫ちゃんから俊介君に秘密が漏れるかもしれないでしょ? 私、俊介君にだけは絶対に秘密を知られたくないの」
そう言われ、和姫は当惑した表情を見せる。
ここで信頼されなかったのは、予想外だったのかもしれない。
「わたくし、他人の秘密をバラしたりはしませんわ」
「でもさあ。ふとした所から情報が漏れる可能性は「0」ではないじゃん。私ね、俊介君には本気で怒ってるんだ。私がこんなにも俊介君のことを想い続けてきたのに。当の俊介君はそのこと忘れてるんだよ? だから俊介君には、少しのヒントもあげたくないの」
「だから、誰にも話さないと?」
「うん」
「では何故、自分からお兄様に告白をしたのですか?」
「……予定が狂った、としか言いようがないね。予定では俊介君は私のことを覚えていて『あなたはまさか、あのレンちゃんですか! 僕もずっとあなたのことを想い続けていましたよ! さあ、今すぐ結婚して子作りしましょう!』ってなるもんだと思ってたから」
和姫は「そうなんですの」とだけつぶやき、それ以上の追求はしてこなかった。
「だからね。俊介君には自分の力だけで、私のことを思い出してもらいたいの。それまでは悪いけど、誰にも秘密は打ち明けられない」
恋華は穏やかに、しかしキッパリと言い切った。
そこには、確固たる決意が感じられた。
恋華が心に秘めているもの。そして俊介への想いも。しっかりと伝わった。
「よく、分かりましたわ」
和姫は軽く息をつきながら、
「色々と推測することは出来ますけど。それは止めておきましょう」
「うん、ありがとう。ほんとにごめんね、和姫ちゃん」
俊介と恋華の年齢。そして俊介が井川家の養子になるまで、孤児院に入っていたこと。この2つを組み合わせれば、自然と答えは出てくるが。しかし恋華が秘密にしてほしいと言うならば、和姫は黙っていることにした。
「謝るのはこちらですわ。急に不躾なことを言って。申し訳ありません」
「何言ってるの。こっちこそだよ。はい、もう謝り合いは終わり!」
恋華のその一言で。
とにかくこの場は一件落着となった。
しかし和姫は、またもや真剣な顔つきになり、
「それでは恋華さん。また緋雨の話に戻らせていただきますが」
「うん。念のためにもう一度言っておくけど、私から引く気はないからね」
「大丈夫ですわ」
和姫はニヤリと怪しく笑った。
これは何かを企んでる顔だ、と瞬時に恋華は警戒する。
「そんなに構えないでくださいまし。わたくしの話というのは、むしろ恋華さんのことを応援する形になりますわ。少なくとも、あなたにとってそれなりにメリットのある話ですわ」
「……メリット?」
「つまりですね」
和姫は恋華に対して右手を差し出した。
そして、まっすぐに恋華の顔を見つめながら、
「瀬戸内恋華さん。わたくしと組みませんか?」




