53本当? いいえ、嘘です!
翌日の放課後。
「ごめん俊介君。今日は一緒に帰れない」
「そうなんですか。珍しいですね」
校門の前で謝る恋華に、俊介は不思議そうに返事をした。
特別な用事がない限り、俊介と恋華は行動を共にするようにしていた。何しろ俊介がいない場所で、懲りずに恋華へアプローチをする輩が増えているのだ。四六時中とまではいかないが、偽装恋人としてなるべく一緒にいるようにしていた。
なので今回のように、恋華の方から別行動を取ることは珍しい。
「実はね、これからブルーアップルで、和姫ちゃんと会うことになってるの」
「和姫さんと?」
ますます不思議そうに首を傾げながら、俊介は聞き返した。恋華と和姫は水と油のように合わない存在だと、そう思っていたからだ。事実、恋華を一度家に招いた時にも、和姫は恋華を敵とみなし、かなり攻撃的な態度を取っていた。
「うん。なんか大事な話があるんだってさ」
何の用かはまだ聞いていないんだけどね、と恋華は付け足した。
俊介は唇に手を当て、少しの間考えるポーズをすると、
「多分また、よからぬことを企んでるんじゃないですかね?」
「うん」
私もそう思うよ、と恋華は答える。
何せ、和姫には前科があるのだ。恋華の弟、瀬戸内勝を利用して、俊介との仲を裂こうと画策したのも彼女だ。疑うなと言うほうが無理だ。
「何なら、僕もついていきましょうか?」
「え? どうして?」
「いえ、念のために。別に同席しようとかいう話じゃなく、店の外で待ってるだけでもいいですし。和姫さんが何か悪巧みしてるとしたら、牽制になります」
今度は、恋華が考える番だった。俊介より思考時間は短かったが。
「気持ちは嬉しいけどね。和姫ちゃんとは、私1人で会うよ。だって、『大事な話がある』って言ってきてるんだよ? 俊介君がいたら話しにくいことかもしれないじゃない」
「でも、和姫さんがまた何かしたら――」
俊介がそう言いかけると、急に恋華は真剣な目つきになり、
「ねえ、俊介君? 俊介君に大事なのは、妹さんを信じることと、何より私を信じることじゃないのかな?」
「恋華さんを、信じる……ですか?」
「そう」
恋華はそこでフッと笑みをこぼし、
「私は、俊介君の彼女なんだよ。彼氏だったら、彼女を信じなさい!」
「……はい」
「ごめんね」
恋華は、両手を顔の前で合わせ、申し訳なさそうに謝った。
「心配してくれてることは、すごく嬉しかったから。それじゃ、帰ったらメールするね!」
「分かりました。それじゃあ」
そう挨拶を交わし、2人は次の道で別々に帰った。
恋華は今の会話で、1つだけ嘘をついていた。「何の用かはまだ聞いていない」という言葉だ。恋華は、あらかじめ和姫からの用件を聞いていた。
なのに、俊介には秘密にしていた理由。
それは、和姫と会うこと自体が、俊介との約束を破ることになるからだ。
昨日のことだ。喫茶店で俊介と別れ、家に帰ったあと。
和姫から携帯に電話がかかり、突然こう言われたのだ。
『我が家の3女――緋雨について。話しておきたい大事なことがあります。明日の放課後、少々お時間をいただけますか?』




