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52知らせる? いいえ、知らせません!

 井川家の3女――緋雨が、日本に帰ってくる。その事実は、4姉妹に衝撃を与えた。最初に口を開いたのは、和姫だった。


「まさか……もう、そんな時期ですか?」


 その言葉が皮切りとなって、他の妹たちもざわつき始めた。自らの手で、震える両腕を抱きながらレイラは、


「ついに目覚める時が来たようね……暗黒の魔神が」


 美鈴が、険しい顔で、


「そうだよ! どうするみんな!? こんな状態で緋雨ちゃんが帰ってきたら、今度こそ本当に血の雨が降っちゃうよ!」


「ひさねーねー、かえってくるんだー。たのしみー」


 驚愕する和姫に、警戒するレイラ、恐怖する美鈴、喜ぶましろと。

 4人の反応は様々だが、幼いましろ以外は、緋雨に対してあまり良い感情を抱いてないようだ。


 和姫は、美鈴に向かって、


「美鈴。本当にお母様は、緋雨が日本に帰国すると。そう仰ったのですね?」


「う……うん。本当だよ」


「もう少し詳しい説明をお願い出来ますか? お父様やお母様はどうなさるの? それによって、対応が変わってきますわ」


「分かった……全部話すね」


 美鈴は母親――井川麗子から電話で言われたことを、皆に説明した。


 緋雨は、両親のいるアメリカに留学していたのだが。1年間という短期留学期間を終えたので、日本に帰国することが決まったらしい。


 ついでに私達も――という話になったらしいが、あいにく両親は仕事が忙しく、もう少しアメリカに留まるので、緋雨だけ先に帰国する形になったのだという。空港から帰国し、自宅に向かうまで2、3日ほどかかるということだ。


 麗子は電話口で、最後にこう言ったという。


『緋雨ちゃんだけどぉ~。お尻ペンペンしといたから~。ちゃんとイイ子になってると思うわよん。でもまあ、またおイタしたら、すぐ連絡してねェ~ん♪ ママ、地球の裏側からだって駆けつけるから♡』


「なるほど……よく分かりましたわ」

 

 口元に手を当て、考えるそぶりを見せながら、和姫はつぶやいた。


「あの緋雨が更生したなどとは……にわかには信じられませんわね。まあ、お母様の前では演技してたのでしょうけど。今度こそ、わたくし達にも牙を向いてくるかもしれませんわね」


「そうだよ! なんとかしないと!」


「――待って。そんなことは後よ。問題は、瀬戸内恋華の方だわ。彼女をどうするかを考える方が、先だと思わない?」


 和姫と美鈴の話に、レイラは人差し指をピッと天井に向けながら割り込んだ。


「そう……でしたわね」


 和姫は呟いた。


「確かにそうですわ。瀬戸内恋華のことを、正直に緋雨に伝えるべきでしょうか?」


「そんなことをしたら、世界の破滅が起こるだけよ」


 レイラは、和姫の言葉にフンと鼻を鳴らして、


「兄さんと瀬戸内恋華は、『お試し恋人』になってるのよ? たとえお試しといえども、あの暗黒の魔神が、そんなことを許すとは思えないわ。それこそ、血の雨が降ってもおかしくないわよ」


「そう、それだよ! あたし達はともかく、恋華さんにまで危害が及んじゃうよ。でも、会わせないなんてわけにはいかないだろうし……」


「えー、みんなどうしてひさめねーねーこわがるのー? ましろには、とってもやさしくしてくれるのにー。みんな、なかよくしようよぉ」


 美鈴、ましろと。

 口々に皆意見を言い合い、リビングは騒然となった。

 和姫は目をつむりながら、その議論に耳を傾けていたが、やがて目を開くと、


「分かりましたわ。この件は、とりあえずお兄様にはまだ伏せておきましょう。幸い、まだ少し猶予があるようですし。瀬戸内恋華については、わたくしが何とかしますわ」


「何とかって、どうするの?」


「とにかく、一度話をしてみます。あの瀬戸内恋華といえど、人の子ですからね。緋雨の正体を知れば恐れおののき、自分からお兄様に別れを切り出すことも期待できます。まあ、上手くいけばの話ですけど」


「そうかなぁ……。あの恋華さんが、そう簡単に引き下がるかなあ」


 和姫の提案に、美鈴は苦い顔を見せた。

 もちろん、瀬戸内恋華が、俊介を諦めることなどあり得ない。

 

 それは和姫自身が、一番よく分かっていることだった。

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