51電話? いいえ、緊急連絡です!
「――妊娠というのなら、わたしも兄さんの子を身ごもってるわ」
レイラは、静かな口調でそう言った。
眼帯をしていない方の、赤い右目で一同を見つめながら。
「そういえば貴方。風邪で倒れた時、一日中お兄様から看病をしてもらっていたのでしたね。まさか、その時に……!」
和姫は鋭い眼差しをレイラに向けながら言った。
一方のレイラは、物憂げに目を細めて、
「そう……。あの夜、兄さんは魔力を暴走させたの。そしてわたしは、兄さんを静めるために、兄さんの魔力櫃から放たれる純白のエナジーを、この身で受け止めた。おそらく、その時に……」
自分の世界に浸るレイラに、和姫は呆れたように呟く。
「妊娠したというわりには、貴方は元気じゃありませんか。何か、初期症状などはあるのですか?」
「そんなもの、あるわけないじゃない。わたしが体内に宿しているのは、偉大なる王の魂なんだから」
つまりレイラは、受胎はしているが身体にかかる負担は全くないのだという。妄想は妄想でも、何とも都合のいい妄想である。もちろん、レイラと俊介の間に、そのような事実は皆無である。
和姫は、めんどくさそうにため息をつきながら、
「たとえ魔族だろうが神の子だろうが、お腹を大きくして産むことに変わりはないじゃありませんか。レイラ、貴方の厨二設定、最近少し雑になってるのではありませんこと?」
「厨二じゃないわ。わたしが兄さんの子を孕んでいるのは、わたしが生まれる前から決められていた運命。そう、古から続く輪廻の血を受け継ぐさだめなのよ」
対してレイラは涼しい顔で、和姫の指摘に反論していた。
その時。
「あ、電話だ」
突然、廊下に置いてある固定電話から、けたたましい電子音が鳴り響き、美鈴がそう言った。
「そうですわね。すみませんが美鈴、出ていただけますか?」
和姫にそう言われ、美鈴は席を立ちながら、
「うん、ちょっと行ってくるね!」
美鈴はドタドタと大きく床を踏みしめながらドアを開け、廊下へと向かった。
するとましろがテーブルの上に肘をつき、両手で顔を挟みながら、
「ましろも、にーにーの赤ちゃん、うみたいなー」
「……な」
突然のましろの発言に、言葉を詰まらせる和姫。
しかし、すぐに柔らかな笑みを浮かべると、
「ましろ、貴方は子供ではありませんか。まだ早いですわよ」
「んー、そうかなー」
「そうですわよ。赤ちゃんというのは、ましろがもう少し大人になったら、コウノトリさんが運んできてくださるのですよ?」
「えー、赤ちゃんって、男の人の『キリンさん』を、女の人の『アワビさん』に入れて白いの出さないとできないんでしょ? ましろ、知ってるんだよ?」
「…………」
大人っぽく肩をすくめ、やれやれとため息をつくましろを、レイラと和姫は絶句しながら見下ろしていた。その時であった。2人の耳に、騒々しい足音が迫るのが聞こえてきたのは。
美鈴が、困惑した表情で扉を開け乗り込んできた。
「みっ、みんな! 大変大変!」
「どうしたのですか美鈴。迷惑電話でもかかってきたのですか?」
「そっ、そんなんじゃないってっ! ほ、本当に大変なの! とにかく聞いてっ!」
美鈴はむきーっと両腕をブンブン振り回す。
和姫は冷ややかな目つきで、
「まあ、落ち着きなさいな、はしたない。まず、どなたからの電話でしたの?」
「お母さんからなんだけどね。それでね、それでね……!」
美鈴は電話口で言われたことを、3姉妹に伝える。
「緋雨ちゃんが、あと2、3日で日本に帰ってきちゃうって!」




