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49冗談? いいえ、冗談ではありません!

 東条奏は、俊介達のすぐ後ろのテーブル下にいた。

 床に落ちた紙ナプキンを拾っていた為だった。決して、俊介達の会話を盗み聞きするつもりはなかったし、テーブル清掃さえ終われば、すぐにでも立ち去る予定だった。こういったことは、ウエイトレスをしていれば特に珍しいことでもない。お客同士の会話が聞こえてしまうなどということは。


 ただ、今回はその人物が顔なじみだったというだけで。


『じゃあ、俊介君。明日も偽装恋人として、よろしくね?』


 恋華は、確かにこう言ったのだ。

 そして、その発言に対して俊介の返事が、こう。


『僕らの関係が本物の恋人じゃなくて偽装恋人だっていうことは、僕らだけの秘密じゃないですか』


 この会話から導き出される答え。


 ……ただの冗談?


 などということは、ありえない。もしそうなら、周りを気にしていたのは何だったということになる。


 瀬戸内恋華は、井川俊介の「彼女」ではなく。

 井川俊介は、瀬戸内恋華の「彼氏」ではない。


 奏から見て、2人の関係はほぼパーフェクトに近かった。偽装の恋人関係だなどと、微塵も疑っていなかった。

 片や、「学園のアイドルにして絶世の美少女」。片や、「学園1の秀才」。これほどの理想的なカップルが偽だなどと、疑えというほうが無理だ。


 人の物を取ったら泥棒。

 しかし、それが他人の物ではなかったとしたら?


 偽装恋人ということは、互いに何らかの利益を生み出すビジネスライク的な付き合いなのだろう。俊介は話を聞く限りブラコンな妹に頭を悩まされているようだし、恋華は学内1と言っていいほどにモテまくっている。どのようにして偽装恋人になったのかは容易に想像がつく。


 問題なのは、ここからどうするか。である。

 奏は、顎の下に手を置き考えた。

 井川俊介。

 自転車の鍵を失くして困っていた自分にわざわざ声をかけ、一緒に探してくれた人。恩人であることに変わりはない。


 もちろん、奏が俊介に抱いてる気持ちはそれだけではないが。


 2人が本物の恋人同士ならば、奏は潔く身を引くつもりであった。

 しかし、実際は違ったどころか、偽装の恋人関係であったという。ならば、自分にも入り込む余地はあるだろう。ないなんてことはない。


 なぜなら、あの2人は本当の恋人同士ではないのだから。

 ならば……。


「私にも、まだチャンスはあるですね……?」


 2人のいなくなった店内で、奏は一人呟くのであった――。

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