表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝2000PV】魔王軍の法務部  作者: 月待ルフラン【第1回Nola原作大賞早期受賞】
第11編:原点回帰編「真壁の心の負債」
38/39

第38話 "自分"との契約

医務室から追い出されるようにして、真壁は自らの執務室に戻った。

ボルガの怒声、ゼグスの指摘、アーカーシャの失望、クラウスの嘆き。

そして、リアナの突きつけた、自分自身の「法」。

ガチャン、と内側から鍵をかけた。

羊皮紙の塔がそびえ立つ、見慣れた机。

だが、彼は椅子に座ることさえできなかった。

壁に背を預け、ずるずると床に座り込む。

(なぜだ)

ペンを握らなければ。計画書を修正しなければ。仕事が、止まる。

なのに、指一本動かない。

(なぜ、こんなことに)

脳裏に、あの蛍光灯の明滅するオフィスが蘇る。

あけるように笑う、上司・鈴木の顔。

『真壁くんはさあ、"価値"がないよね』

『お前のかわりなんて、いくらでもいるんだよ』

『成果を出せ。成果で示せ。それ以外のお前に何の意味がある?』

(……ああ、そうか)

真壁は、自分の震える手を見つめた。

(俺は、怖かったんだ)

この世界に来て、魔王に、ボルガに、ゼグスに、仲間たちに「必要」とされた。

それが、どれほど嬉しかったことか。

だが、もし、この成果を出し続けられなかったら?

もし、俺が完璧でなくなったら?

また、捨てられるんじゃないか。

また、「価値がない」と、言われるんじゃないか――。

「……俺は、最低だ」

自己嫌悪に、膝に顔を埋める。

その時、静かに扉がノックされた。

「部長。私です、リアナです。……入ります」

鍵はかけたはずだった。だが、リアナはアーカーシャから預かっていたという合鍵で、静かに入室した。

彼女は、床にうずくまる真壁を見ても驚かなかった。

ただ、その隣に、そっと腰を下ろした。

執務室に、重い沈黙が流れる。

やがて、リアナがぽつり、と語り始めた。

「私も、ずっと怖かったんです」

真壁が、ゆっくりと顔を上げる。

「私は、没落貴族の娘です。聖法神王国では、私の"価値"は、より高い地位の貴族と結婚するための道具でしかありませんでした。だから、"価値"を証明し続けなければ生き残れないと、ずっと思っていました」

彼女は、先ほど医務室で突きつけた羊皮紙を、真壁の手にそっと握らせた。

「でも、あなたがここで作った法は……"全ての人には、生まれながらの尊厳がある"と定めている。それは、能力や成果とは関係なく、そこに"いる"だけで保証されるものだと」

リアナは、真壁の目をまっすぐに見つめた。

「その法は、あなた自身にも、適用されるんですよ、真壁部長」

その瞬間、真壁の中で、硬く張り詰めていた何かが、堰を切ったように壊れた。

「う……ぁ……」

声にならない嗚咽おえつが漏れる。

前世で過労死した時も、この世界に転生した時も、一度も泣けなかった。

「価値のない自分」が泣くことなど、許されないと思っていた。

だが、今は違った。

「すまない……すまなかった……!」

彼は、握りしめた羊P氏に顔をうずめ、子供のように声を上げて泣いた。

涙が枯れる頃、真壁は顔を上げた。

その目には、もう前世の怯えはなかった。

「リアナさん、ありがとう。……決めたよ」

翌朝。

魔王城の大広間に、緊急の将軍会議が招集された。

やつれ、しかしその目だけが異様なほど澄んだ真壁が、魔王の前に進み出る。

集まった将Nたちのいぶかしむ視線が、彼に突き刺さる。

真壁は、魔王と全員の前で、深く一礼した。

そして、宣言した。

「私は、聖法神王国の再建依頼を、辞退します」

ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、他にも作品を連載しているので、ご興味ある方はぜひご覧ください。HTMLリンクも掲載しています。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話等更新しています。

作者マイページ:https://mypage.syosetu.com/1166591/

Xアカウント:@tukimatirefrain

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ