第31話 攻城兵器と“正義”の刃
地平線を埋め尽くす、白銀の軍勢。
掲げられた無数の旗には、聖教会と、それを庇護する聖法神王国の紋章が、誇らしげにはためいている。
人間特区を完全に包囲したその軍勢は、規律の取れた、まさしく精鋭だった。
その中央、白馬にまたがった一人の騎士が、ゆっくりと剣を抜き放ち、城壁を睨みつけた。
敬虔なる騎士団長、フレデリク。その瞳には、狂信的なまでに純粋な、歪んだ正義の光が宿っていた。
「見よ! あの忌まわしき街を!」
彼の、朗々とした声が、戦場に響き渡る。
「魔に魂を売り渡した裏切り者どもが、悪魔と交わる不浄の地だ! 我らが聖なる炎は、あの街を焼き尽くし、囚われた同胞の魂を苦しみから解放するためにある!」
彼は、天に剣を突き上げた。
「慈悲はない! 神の御名において、全ての不浄を滅せよ!」
「「「オオオォォォッ!!」」」
神に祝福されたと信じる兵士たちの、鬨の声が大地を揺るがした。
戦闘は、熾烈を極めた。
巨大な投石機が火球を放り込み、城壁のあちこちで爆炎が上がる。
だが、魔王軍の防衛もまた、完璧だった。ゼグスが率いる兵站部隊は、俺が事前に算出した予測データに基づき、矢の一本、薬草の一葉に至るまで、寸分の狂いもなく前線に供給し続ける。
「――来るぞ! 中央城門だ!」
見張り台からの絶叫。
地響きと共に、巨大な破城槌が、十数体のサイクロプスに押され、城門へと迫っていた。
俺は、城壁の内側で指揮を執るドワーフの工匠長カルドに、最後の羊皮紙を渡した。
「カルド殿、お願いします!」
「ふん、任せておけ!」
それは、「城門内防衛区画・緊急増設工事仕様書」。俺が、この日のために用意した、血も涙もないキルゾーンの設計図だった。
ゴォォォン!という、腹の底に響く轟音と共に、ついに中央の城門が砕け散った。
騎士団長フレデリクは、勝利を確信し、その白銀の剣を前方に突き出した。
「突撃ィィッ! 神の正義を、愚か者どもに示せ!」
崩れた城門から、聖法神王国の精鋭騎士団が、怒涛の如く殺到する。
だが、彼らがそこで見たものは、想像を絶する光景だった。
彼らの前に立ちはだかったのは、恐ろしい魔族の軍勢ではなかった。
かつての同胞――ボロボロの鎧をまといながらも、鉄壁の盾の壁を形成する、人間義勇兵たちの姿だった。
その先頭に立つのは、騎士クラウス。
フレデリクは、クラウスの鎧に、かすかに残る旧騎士団の紋章を認め、怒りに顔を歪ませて絶叫した。
「裏切り者め! 神と祖国を捨て、魔物の犬に成り下がったか!」
クラウスは、故国の軍に刃を向ける、その悲壮な覚悟を瞳に宿し、言い放った。
「俺は、民を見捨てる王にも、盲目な神にも仕えん!」
「俺が忠誠を誓うのは、種族を問わず、万人に尊厳を認める“法”だ!」
その言葉が、合図だった。
城門の内側、騎士団が足を踏み入れたその地面で、カルドが率いるドワーフ部隊が構築した、恐るべき罠が作動した。
地面が、轟音と共に陥没する。
左右の壁からは、無数の鋼鉄の槍が、恐ろしい勢いで突き出す。
頭上からは、煮えたぎる油と、オークたちが抱えた巨岩が、雨のように降り注いだ。
そこは、計算され尽くした、完璧な殺戮空間だった。
先頭にいた精鋭騎士団は、抵抗する間もなく、その恐るべき罠の餌食となった。
自分たちの掲げた「正義」が、かつての同胞たちの、新しい「正義」によって、無慈悲に打ち砕かれていく。
その悪夢のような光景を前に、騎士団長フレデリクは、ただ愕然と立ち尽くすことしかできなかった。
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