表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝2000PV】魔王軍の法務部  作者: 月待ルフラン【第1回Nola原作大賞早期受賞】
第6編:初の転職者(キャリアリクルート)編
23/39

第23話 真の“同僚”

「――やはり人間が、我らの仲間を手にかけたぞ!」


訓練場に響き渡った、憎悪に満ちた叫び。

それが、魔王軍全体を揺るがす、新たな嵐の始まりだった。


崖下に転落したオーク兵は、幸い一命を取り留めたものの、全身を強打し、重傷を負った。

この一報は、瞬く間に城内を駆け巡った。

「あの人間は、模擬戦にかこつけて、我らの仲間を殺そうとしたのだ!」

「人間の本性は、やはり裏切りと欺瞞に満ちている!」

一度は鎮静化したはずのクラウスへの不信と敵意が、抑えきれない濁流となって、再び噴出する。


オーク兵たちは、クラウスの身柄を拘束し、「反逆者」として即刻処刑するよう、魔王に詰め寄った。

現場に駆けつけたボルガは、血気にはやる部下たちと、一人静かに佇むクラウスとの間で、苦渋の決断を迫られていた。


「…法務部長を呼べ」

ボルガは、そう短く命じると、クラウスを“保護”という名目で、一旦、営倉へと入れた。 lynchingを防ぐための、彼なりの精一杯の判断だった。



報告を受けた俺は、直ちに魔王ザイレムに謁見し、進言した。

「魔王様。本件、感情による裁定は、必ずや軍内に亀裂を生みます。どうか、私に“法”に基づく、公正な調査を行う許可を」


魔王は、静かに頷いた。

「許す。貴様の法が、この難局を乗り越えられるか、見せてもらおう」


俺は、直ちに「公正調査委員会」を設置した。

メンバーは、俺と、中立な立場のゼグス。そして、オブザーバーとして、魔王軍の軍規を司る古参の将軍にも加わってもらった。


調査は、困難を極めた。

オークの兵士たちは、誰もが口を揃えて「クラウスが、卑劣な手で仲間を崖から突き落とした」と証言する。彼らの目には、もはや偏見というフィルターがかかっており、客観的な事実が見えなくなっていた。


俺は、調査の基本に立ち返った。

徹底的な、現場検証だ。

訓練場の地面に残された、無数の足跡。崖の縁の、土の崩れ方。それらをつぶさに検分していくうち、一つの仮説が浮かび上がってきた。

崖の縁に残された足跡は、クラウスのものではなく、重傷を負ったオーク兵のもの一つだけだった。しかも、その踏み込みは、明らかにバランスを崩した、前のめりのものだ。


(…クラウスは、突き落としていない。むしろ、これは…)


仮説を裏付けたのは、意外な協力者たちだった。

ゴブリンの情報部隊が、俺の元へ、こっそりと一つの情報をもたらしたのだ。

「…旦那。俺たち、聞いてたんだ」

「あのオーク、試合の前に仲間たちに、『見てろよ。あの人間の化けの皮を、俺が剥がしてやる』って、息巻いてたぜ」


功を焦った、無謀な突撃。

全てのピースが、繋がった。



数日後。調査委員会による、最終報告の場が設けられた。

ボルガを含む、全部隊の兵士たちが見守る中、俺は、淡々と調査結果を報告した。


現場の状況証拠。

目撃者たちの証言の、僅かな矛盾。

そして、ゴブリンたちがもたらした、決定的な証言。


「――以上の事実から、委員会は、以下の結論に達しました」

俺は、一度言葉を切り、法廷にいる全員を見渡した。


「本件は、クラウス殿による、敵意に基づいた傷害事件ではありません。訓練中に発生した、偶発的な“労働災害”にあたります」


“労働災害”。

その、聞き慣れない言葉に、オークたちがざわめく。


俺は、続けた。

「よって、軍規に基づき、負傷した兵士には、治療費全額と、十分な見舞金が支給されるべきです。そして、無実の罪を着せられ、精神的苦痛を受けたクラウス殿には、軍として、正式な謝罪がなされるべきである、と結論いたします」


その、あまりに公平で、そして誰も予想しなかった裁定に、訓練場は静まり返った。


その沈黙を破ったのは、担架で運ばれてきていた、当事者のオーク兵だった。

彼は、自らの過ちを悟り、そして、それでもなお自分を切り捨てなかった、俺の裁定に、涙を流していた。

「…クラウス殿。皆。…悪かったのは、俺の方だ。あんたを認めようとせず、功を焦った、俺が…」


その言葉が、全ての雪解けの始まりだった。


ボルガが、ゆっくりとクラウスの前に進み出ると、その肩を、今度は信頼のこもった力で、強く叩いた。


「…悪かったな。お前の剣は、本物だ」


そして、彼は全部隊員に向き直り、雷鳴のような声で、宣言した。


「今日から、お前は俺の部下だ! 文句のある奴は、前に出ろ!」


その言葉に、今度は、万雷の拍手が湧き起こった。

クラウスは、魔王軍という、新しい“職場”で、真の“同僚”を得たのだ。


その噂は、尾ひれがついて、瞬く間に人間領全土に広まった。

「魔王軍では、人間でも、能力さえあれば、公正に評価されるらしい」

「それどころか、退職金や年金まで出る、とんでもない“ホワイト”な職場だそうだ」


そして、数週間後。

俺の法務部のオフィスは、新たな、そして、さらに深刻な問題に直面していた。


「ま、真壁部長! 大変です! 城門の前に、また…!」

ゴブリンの部下が、悲鳴のような声を上げる。


俺のオフィスの前には、魔王軍への“転職”を希望する、人間たちの、長蛇の列ができていた。

その数は、もはや個人の採用でどうにかなるレベルを、遥かに超えていた。


それは、もはや単なる人事問題ではない。

魔王軍の、そして、この世界のあり方を、根本から変えかねない、新たな時代の、幕開けだった。

ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、他にも作品を連載しているので、ご興味ある方はぜひご覧ください。HTMLリンクも掲載しています。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話等更新しています。

作者マイページ:https://mypage.syosetu.com/1166591/

Xアカウント:@tukimatirefrain

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ