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【祝2000PV】魔王軍の法務部  作者: 月待ルフラン【第1回Nola原作大賞早期受賞】
第6編:初の転職者(キャリアリクルート)編
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第22話 “職場”という名の戦場

人間の騎士クラウスは、契約に従い、オークの将軍ボルガが率いる重装部隊に、三ヶ月の「試用期間」として配属されることになった。

しかし、彼を待ち受けていたのは、あまりにもあからさまな敵意と、根深い偏見の渦だった。


「…ちっ、人間の裏切り者め」

「いつ、俺たちの背中から刺すつもりだ?」


オークの兵士たちが駐屯する、巨大な野営地。

そこに足を踏み入れた瞬間から、クラウスは侮蔑と敵意の視線に晒され続けた。

共同訓練では、誰も彼と組もうとしない。食事の時間には、彼の周りだけが、ぽっかりと空白になる。夜になれば、彼の寝床に汚物が投げ込まれていることも、一度や二度ではなかった。


だが、クラウスは、ただ黙々と耐えた。

誰に文句を言うでもなく、与えられた任務を完璧にこなし、一人、黙々と剣を振るい続ける。

その卓越した剣技――銀獅子騎士団で叩き込まれた、無駄のない、実戦的な剣捌き――は、遠巻きに見ていた一部の若いオーク兵士たちに、驚きと、わずかな畏敬の念を抱かせ始めていた。


だが、状況が好転する兆しは、まだ見えない。

このままでは、組織の規律そのものが乱れる。

報告を受けた俺は、すぐに行動を開始した。


俺は、ボルガ将軍の執務室を訪ね、一枚の新しい羊皮紙を提示した。

そこには、こう記されていた。

『職場における、人種、種族、その他一切の出自に基づく、ハラスメント行為の禁止について』


「…は、はらすめんと?」

ボルガが、怪訝な顔で聞き返す。


「嫌がらせ、という意味です」

俺は、きっぱりと言った。「部下の管理も、将軍の重要な職務です。クラウス殿の能力を正当に評価せず、ただ“人間”という種族を理由に不利益を与える行為は、我が魔王軍の軍規に違反します。これは、その事実を、全部隊に改めて通達するためのものです」


俺の言葉に、ボルガはしばらく唸っていたが、やがて、その豪快な顔に、ニヤリと笑みを浮かべた。

「…面白い。気に入ったぜ、その“はらすめんと”ってやつ。よし、マカベ。それは、俺が預かろう」



その夜。

野営地の隅で、一人、固いパンをかじっていたクラウスに、小さな影が近づいた。

ゴブリンの情報部隊の者たちだった。


「…にいちゃん、腹、減ってんだろ? これ、やるよ」

彼らは、自分たちの食事の中から、焼きたての肉や、果物を差し出した。

俺の改革で、真っ先に正当な評価を受けた彼らは、俺が連れてきたクラウスに対し、他の種族のような偏見を持っていなかったのだ。


「…なぜ、私に?」

戸惑うクラウスに、ゴブリンは悪戯っぽく笑った。

「法務部長の旦那に、恩があってな。あんたの話も、いろいろ聞いてるぜ。人間界の話、もっと聞かせろよ!」


種族を超えた、ささやかな交流。

それは、クラウスにとって、この魔王軍で初めて感じる、人の温かさだった。



翌日。

ボルガは、重装部隊の全員を訓練場に集めると、俺が作成した「ハラスメント防止規定」を、高らかに読み上げた。

そして、雷鳴のような声で、一喝した。


「いいか、てめぇら! こいつは、まだ“仲間”じゃねえ。だが、魔王様と、法務部長が認めた“客分”だ! 今後、こいつに不当な扱いをする者は、この俺が許さん!」


その一言で、野営地を支配していた陰湿ないじめは、ピタリと鎮静化した。

だが、燻っていた不満の炎が、完全に消えたわけではなかった。


その直後に行われた、模擬戦。

クラウスの相手として名乗りを上げたのは、古参のオーク兵の中でも、特に彼への敵意を剥き出しにしていた、一人の戦士だった。


試合開始の合図と共に、オーク兵は、憎悪を込めた雄叫びを上げ、クラウスに襲いかかった。

その一撃は、訓練とは到底思えない、殺意のこもったものだった。


クラウスは、冷静にその攻撃を見極め、最小限の動きで、ひらりとかわす。

功を焦ったオーク兵は、勢い余って、大きく体勢を崩した。


その、瞬間だった。


バランスを失ったオーク兵の巨体が、訓練場の端――切り立った崖へと、一直線に吸い込まれていく。

咄嗟にかわしたクラウス。

そして、崖下へと転落していく、オーク兵。


「グルァァッ!」

断末魔のような叫び声が、崖下に響き渡った。


訓練場は、静まり返っていた。

誰もが、信じられないものを見る目で、崖の縁に一人佇むクラウスを見ている。

その手には、まだ剣が握られていた。


静寂を破ったのは、誰かの、憎悪に満ちた叫び声だった。

「――やはり、人間が、我らの仲間を手にかけたぞ!」

ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、他にも作品を連載しているので、ご興味ある方はぜひご覧ください。HTMLリンクも掲載しています。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話等更新しています。

作者マイページ:https://mypage.syosetu.com/1166591/

Xアカウント:@tukimatirefrain

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