第20話 門前の“敵性人材”
国境都市リベルタスの魔王軍駐屯地は、前代未聞の事態に見舞われ、大混乱に陥っていた。
原因は、たった一人の人間。
ボロボロに傷ついた「銀獅子騎士団」の鎧をまとい、門前に崩れ落ちたその騎士は、駆けつけたオークの衛兵に対し、震える声でこう告げたのだ。
「――転職、したい」と。
報告は、瞬く間に魔王城の中枢、最高幹部会議にまで達した。
「馬鹿も休み休み言え!」
玉座の間に、ボルガの怒声が響き渡る。「問答無用で斬り捨てろ! スパイに決まっているだろうが!」
彼の意見に、多くの将軍が頷いた。
「人間など、信用できん」
「我らの同胞が、どれだけ奴らに殺されたと思っている」
長きにわたる戦争の記憶が、彼らの心に根深い拒絶反応を刻みつけている。
「ゼグス、お前の意見は?」
魔王ザイレムが水を向けると、リザードマンの将軍は、冷徹な目で答えた。
「…生かしておくリスクと、殺すリスク。どちらも不明瞭です。ですが、一人を受け入れれば、第二、第三の者が現れる可能性は否定できません。管理コストが増大します」
誰もが、この“敵性人材”の受け入れに否定的だった。
その中で、魔王は、ただ一人、沈黙を守っている男に視線を向けた。
「法務部長マカベよ。貴様の意見を聞かせよ」
全ての視線が、俺に集まる。
俺は、静かに立ち上がり、一同を見渡した。
「皆様。これは、好機です」
その一言で、会議室の空気が変わった。
「敵対組織から、人材が流出してくる。それは、我々の組織が、彼らの組織より優れているという、何よりの証拠ではありませんか?」
俺は、冷静に続けた。
「彼を、正当な手続きをもって受け入れる。そして、その事実が人間領に広まった時、何が起こるか。それは、人間社会を内側から揺さぶる、これ以上ない“広報戦略”となり得ます。剣を交えずして、敵の組織を弱体化させるのです」
ボルガが「しかし、スパイだったらどうする!」と食い下がる。
「そのために、“面接”をするのです」
俺は、きっぱりと言い切った。「彼の持つスキル、そして、彼の忠誠心を、我々が見極める。そのための、初の『中途採用面接』の実施を、ここに提案いたします」
“広報戦略”、“中途採用面接”。
将軍たちが、聞いたこともない単語に戸惑う中、玉座の魔王ザイレムが、初めて愉快そうな笑みを浮かべた。
「…面白い。実に面白い発想だ。よかろう、マカベ。その人間、貴様に全て任せる。我が軍にとって、益となるか、害となるか。その目で見極めてみせよ」
◇
会議の後、俺はリアナ・フォルセに呼び止められた。
彼女は、その謎めいた瞳で、俺に告げた。
「…銀獅子騎士団、ですか。人間たちの間でも、悪名高い組織ですよ」
「悪名高い?」
「ええ。上官の手柄のために、部下は使い捨てにされる。補給は常に滞り、兵士たちは自腹で装備を整えているとか。騎士団というより、巨大な傭兵崩れの集団…“ブラック”な組織、とでも言いましょうか」
彼女は、俺にしか分からない言葉で、小さく笑った。
「彼の話には、聞く価値があるかもしれません。…あなたの、その目で」
リアナの情報は、俺の仮説を裏付ける、重要な追い風となった。
◇
そして、運命の面接が始まった。
場所は、玉座の間に隣接する、静かな一室。
そこには、ただ一つのテーブルと、二つの椅子が置かれているだけだ。
緊張した面持ちで椅子に座る、人間の騎士。
その向かいに、俺は静かに腰を下ろした。
前世で、何度も、何度も、屈辱を味わわされた光景。
だが、今、俺は、力なく俯く側ではない。
相手の未来を、その手で左右する側にいる。
俺は、前世の記憶をなぞるように、静かに、そしてプロフェッショナルに、彼に告げた。
「――では、始めましょう」
「当軍を志望した動機と、あなたの持つスキルについて、具体的に説明してください」
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