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第15話 逆転の最終弁論(リーサル・ディフェンス)

魔王軍初の弾劾裁判が、開廷された。

玉座の間は、法廷と呼ぶにはあまりに荘厳で、そして冷たい緊張感に満ちていた。

被告人席に立つ俺を、突き刺すような視線が囲んでいる。


裁判は、告発者である骸骨の魔術師アーカーシャの、悲痛な訴えから始まった。

彼は、魔力不足で崩れゆくアンデッド兵士の映像を魔法で映し出し、よどみない口調で、俺の改革がいかに彼の軍団を窮地に追い込んだかを訴える。その主張は、データに裏打ちされ、軍団を想う彼の純粋な怒りに満ちており、聞く者の心を強く揺さぶった。


そして、告発者側の証人として、元・補給部長のミノタウロス、タウルスが証言台に立った。

「…あの人間は、魔王軍の伝統を軽んじ、我ら古参の者を追い出した! そして、己の息のかかったボルガやゼグスといった、声の大きい者たちだけを優遇しているのだ!」

タウルスは、自らを「改革の被害者」として雄弁に語り、俺を「己の欲望のために軍を私物化する、危険な独裁者」だと断じた。


場の空気は、完全に告発側へと傾いていた。

ボルガが「嘘をつけ!」と野次を飛ばすが、魔王の静かな一瞥で黙らされる。

俺は、ゼグスが徹夜で集めてくれたデータ改竄の証拠や、ボルガが集めた兵士たちの証言を元に、改革の正当性を論理的に説明した。


だが、一度燃え上がった不信の炎は、容易には消せない。

タウルスは、データの改竄を「旧システムの些細なエラーだ」としらを切り、俺たちの証拠さえも「奴らが結託して作り上げた、捏造だ」と一蹴した。

俺は、完全に手詰まりだった。


魔王ザイレムが、静かに俺に問う。

「…被告人マカベ。最後に、何か言い残すことはあるか」


これが、最後のチャンス。

俺は一度、強く目を閉じた。そして、ゆっくりと開く。

恐怖も、焦りも、もうない。ただ、真実だけを見据える。


俺は、法廷にいる全ての者たちに、聞こえるように言った。

「――本件の真の争点は、物資の量の多寡ではありません」


「アーカーシャ殿が提示された、その“情報”そのものに、全ての答えがあります」


俺は、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

先日、この場で、人間側と締結されたばかりの、あの休戦協定書だ。


俺は、その中の一文を、高らかに読み上げた。

「休戦協定、第7条:『契約当事者は、相互の内部統治に関する、いかなる情報収集活動、および干渉行為を、これを厳に禁ずる』」


そして、俺はアーカーシャが提示した、光るデータボードを指さした。

「アーカーシャ殿。あなたがお示しになった、この見事なデータ。このグラフの書式、そして、ここで使われている“魔力純度”という独自の単位…。これらは、我が魔王軍では一切使われておりません。しかし、人間側の“聖教会”が、献金の統計を取る際に用いる、独自の様式とは、完全に一致する」


「いったいなぜ、人間側の内部資料が、この法廷に提出されているのですかな?」


俺の指摘に、アーカーシャは「なっ…!?」と絶句した。

彼は、俺を睨みつけながらも、そのデータの出所について、思い当たる節があるようだった。


俺は、静かにアーカーシャに問うた。

「アーカーシャ殿。失礼ながら、このデータは、誰から受け取られたのですか?」


アーカーシャは、しばし逡巡した後、悔しそうに、しかし正直に答えた。

「…元・補給部長、タウルス殿からだ。『軍を憂う者からの、匿名の告発だ』と」


全ての視線が、証言台のタウルスに突き刺さる。

タウルスは、脂汗を流しながらも、「俺は、ただ情報を渡しただけだ! 何も知らん!」と叫んだ。


その時だった。

それまで、傍聴席で小さくなっていた、アーカーシャの弟子、リッチの少女ノインが、何かに耐えかねたように、震える声で叫んだ。


「う、嘘です…!」


全ての視線が、彼女に集まる。


「わ、私は…見ました…! タウルス様が、あの…いつも鈴木様の隣にいる、フードの人間と、裏の通路で、こっそり会っているのを…! そして、この…この紙と同じものを、受け取っていました…!」


彼女の、純粋で、そして勇気ある証言。

それが、全てのパズルを繋げる、最後のピースだった。


場は、騒然となる。

タウルスが、人間側のスパイと接触していた。その事実は、もはや誰の目にも明らかだった。


俺は、静かに、顔面蒼白になっているタウルスに向き直った。


「元・補給部長タウルス」

「あなたは、魔王軍の法と、人間との協定、その両方を破ってでも、私を貶めたかった」


「その行動は、果たして、誰の利益になるのですか?」


タウルスは、わなわなと震え、一言も発することができない。

傍聴席の隅で、あのフードの側近が、音もなく席を立ち、逃げ出そうとする気配がした。


その瞬間。


玉座から、地響きのような、魔王ザイレムの声が命じた。


「――動くな」


「我が法廷から、何者も逃がしはせん」

ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、他にも作品を連載しているので、ご興味ある方はぜひご覧ください。HTMLリンクも掲載しています。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話等更新しています。

作者マイページ:https://mypage.syosetu.com/1166591/

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