第13話 魔王軍、法廷に立つ
「――魔王軍への反逆者として、断罪を要求いたします!」
骸骨の魔術師アーカーシャの、厳粛な告発が玉座の間に響き渡る。
彼が魔法で映し出した、アンデッド軍団への「物資供給70%削減」という衝撃的なデータは、その場にいた全ての者の心を凍り付かせた。
これまで俺の改革を支持してくれていた将軍たちの間にさえ、疑念と動揺が走る。
「馬鹿な! マカベがそんなことをするはずがない!」
最初に沈黙を破ったのは、オークの将軍ボルガだった。「これは何かの間違いだ! そうだろう、マカベ!」
彼の必死の擁護も、アーカーシャが提示した「事実」の前では虚しく響く。
冷徹なゼグスは、黙して語らない。ただ、光の板に映る絶望的な数値と、俺の顔を、厳しい表情で交互に見ている。彼の専門分野である兵站を、俺が私物化したと捉えられても仕方のないデータだった。
古参の幹部たちに至っては、もはや隠そうともせず、疑惑と敵意の目を俺に向けている。「やはり、人間などを信用するから…」という囁きが聞こえた。
俺は、完全に孤立していた。
全ての視線が、玉座の魔王ザイレムに集まる。
かつての魔王軍であれば、魔王の裁定は、即決だっただろう。どちらかを、あるいは両者を、その場で処刑する。力こそが、この軍の唯一の法だったのだから。
しかし、魔王は違った。
彼は、ゆっくりとその真紅の瞳を開くと、静かに、だが威厳に満ちた声で言った。
「我が軍に疑義が生じた以上、その真偽もまた、“法”の下で明らかにされねばなるまい」
その言葉に、将軍たちが息を呑む。
「マカベよ」
魔王は、俺をまっすぐに見据えた。
「貴様は、我が軍に“法”という新しい秩序をもたらした。ならば、その秩序をもって、自らの潔白を証明してみせよ」
「…と、申されますと?」
「被告人である貴様自身に、この一件を裁くための『手続き』そのものを、設計するよう命じる」
それは、あまりにも過酷で、そしてあまりにも信頼に満ちた、前代未聞の勅命だった。
魔王は、俺が不正を働いていないと信じ、そして、俺が公平なルールを設計できると信じて、全てを俺に委ねたのだ。
その期待を、裏切るわけにはいかない。
絶望的な状況の中、俺の脳は、法務家として、再び高速で回転を始めた。
数時間後。俺は、魔王と将軍たちの前で、この魔王軍の歴史上、誰も経験したことのない、新しい戦いの形を提案した。
「これより執り行われるべきは、『弾劾裁判』です」
「告発者アーカーシャ殿と、被告人である私が、それぞれ対等な立場で主張と証拠を提示する。そして、中立な判事として、魔王様と、本件に直接利害関係のない将軍方が、最終的な裁定を下す。いかがでしょうか」
それは、力ではなく、知性と言葉、そして証拠だけが支配する、魔王軍初の“法廷”の誕生だった。
◇
裁判の準備が進む中、城内の空気は、日に日に重くなっていった。
アーカーシャは、自らの主張を裏付けるデータをさらに集め、告発の準備を着々と進めている。彼の側には、常に一人の弟子が付き従っていた。
リッチの少女、ノイン。確か、以前アーカーシャが、魔術の才覚があると紹介していた、物静かな少女だ。
彼女は、師であるアーカーシャのローブの裾を、何度も怯えた様子で引いている。何かを訴えようとしているようだが、鬼気迫る師の横顔と、周囲の緊張感に気圧され、その言葉は、いつも声になる前に消えてしまう。
その様子が、俺の心の隅に、小さく引っかかっていた。
そして、裁判の三日前。
魔王ザイレムの名において、新たな布告がなされた。
「弾劾裁判における、告発者側の重要証人として、元・補給部長タウルスを、魔王城に召喚する」
その布告を聞いた瞬間、俺は背筋が凍るのを感じた。
追放されたはずの、ミノタウロス。今回の陰謀の、間違いなく中心にいる男。
そいつと、公開の法廷で、直接対決せざるを得ない。
味方は、いない。
敵は、軍の重鎮と、陰謀の首謀者。
俺は、完全に、四面楚歌の状況に追い込まれていた。
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