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【祝2000PV】魔王軍の法務部  作者: 月待ルフラン【第1回Nola原作大賞早期受賞】
第3編:合同調停委員会・内政改革編
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第11話 補給部の“敵対的買収”

鉄塊のようなミノタウロスの拳が、俺の顔面に振り下ろされる――その、寸前。


ガギンッ!と、金属同士が激しくぶつかり合う、甲高い音が響き渡った。

間に割って入ったのは、いつの間にか剣を抜いていた、リザードマンの将軍ゼグスだった。


「…タウルス部長。貴殿のその行いは、魔王様への反逆と見なすが、よろしいか」

ゼグスの、氷のように冷たい声が、洞窟倉庫に響く。


「なんだと、ゼグス! 貴様、この俺に逆らうか!」


「逆らうのではない。法を執行するだけだ」

ゼグスの背後から、さらに地響きのような声が続く。振り向けば、いつの間にか、オークの将軍ボルガが、その巨大な戦斧を肩に担いで立っていた。


「おいおい、タウルス。法務部長に手を出すなんざ、いい度胸じゃねえか。そいつは、俺の“ダチ”でな。つまり、この俺と、俺の率いるオーク部隊全員を敵に回すってことだぜ?」


ボルガの言葉に、周囲で様子を窺っていたミノタウロスの一族たちが、明らかに動揺する。

魔王軍の中でも、最強の武力を誇る二人の将軍が、公然と俺の後ろ盾になったのだ。その意味は、誰の目にも明らかだった。


「ぐ…っ、き、貴様ら…!」

タウルスは、憎悪に顔を歪ませながらも、振り上げた拳をゆっくりと下ろす。

だが、彼はまだ諦めてはいなかった。


「ふん、いいだろう! だが、忘れるな! 俺の一族は、500年もの間、この補給部を仕切ってきたんだ! その功績と伝統は、魔王様とて無視できん! 俺をクビにすることなど、誰にもできはしない!」


その、既得権益にしがみつく、醜い叫び。

それは、前世で、俺が何度も聞いてきた言葉だった。


「…そうでしょうか?」


俺は、静かに一歩前に出た。

そして、懐から一枚の、ひどく古びた羊皮紙を取り出した。それは、この数日、補給部の書庫ではなく、城の最深部にある、忘れ去られた「古文書保管庫アーカイブ」で探し出したものだった。


「タウルス部長。あなたの言う通り、あなたの一族が、この部署を長年支えてきたのは事実でしょう。ですが、その“伝統”もまた、法の下にあります」


俺がその羊皮紙を広げると、骸骨の魔術師が、どこからともなく現れ、その隣に立った。

「…なんと。それは、魔王軍創設時に定められた、“組織法”の原本ではないか。よくぞ、これを見つけ出したな、マカベ殿」

彼の声には、純粋な感嘆の色が滲んでいた。


俺は、古文書の一文を、ゆっくりと指でなぞった。


「魔王軍組織法、第72条。『各部隊の長たる者の任期は50年とし、再任には、軍団の半数以上の前線指揮官による、信任投票を必要とする』」


俺がそう読み上げると、タウルスの巨大な顔から、血の気が引いていくのが分かった。


「この規定、ここ200年ほど、忘れられていたようですね。あなたも、そしてあなたの一族も、正式な再任手続きを経ていない。つまり、法的に言えば、あなたの現在の地位は**“無効”**。違法な占拠状態にある、ということです」


玉座で、この一部始終を黙って見ていた魔王ザイレムが、その口元に、全てを楽しんでいるかのような、不敵な笑みを浮かべた。

「…ふっ。面白い。実に面白いぞ、マカベ」


俺は、タウルスに最後通告を突きつけた。

「今この場で、『前線指揮官会議』を招集します。議題は、タウルス部長の“再任”の可否について」


俺は、ボルガとゼグスに向き直る。

「ボルガ将軍、ゼグス将軍。お二人のご意見は?」


ボルガは、ニヤリと笑い、戦斧を床に突き立てた。

「無論、“否決”だ!」


ゼグスもまた、静かに、しかし力強く頷いた。

「同意見だ。異論はない」


過半数の反対。

その瞬間、タウルスの500年にわたる支配は、暴力ではなく、ただ一枚の古文書によって、あっけなく終わりを告げた。



こうして、俺は魔王軍補給部を、合法的に掌握した。

敵対的買収リーガル・テイクオーバー”の成功だ。


俺は、旧体制を一掃し、全ての物資の流れを、近代的な契約書と台帳に基づいて管理する、公平で効率的な新物流システムの構築に、直ちに着手した。

これで、全ての問題は解決するはずだった。


――だが、俺はまだ知らなかった。

追放され、全てを失ったミノタウロスのタウルスが、その夜、密かに一人の人物と接触していたことを。


それは、人間側の“オブザーバー”として、今も魔王城に滞在を許されている、あのフードの側近だった。


「…法務部長マカベに、一矢報いる手伝いをしていただける、と?」

タウルスの問いに、フードの男は、その影の下で、静かに、そして深く頷いた。


「ええ、もちろん。我々の“利害”は、完全に一致しておりますから」

その声は、甘い蜜のように、復讐に燃える獣の心を、ゆっくりと蝕んでいった。









ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。HTMLリンクも貼ってあります。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話を更新しています。(Xアカウント:@tukimatirefrain)

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― 新着の感想 ―
面白い。 チートで無双するんじゃなく 前世の経験で対応してるのがいい。 鈴木がちょっと不気味だが・・・ 骸骨魔術師は名前ないんですか? 幹部で彼?だけ名前ないのは不憫。 ヒロインも出てほしいな。 応援…
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