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14話 言霊の影響が現れる

 

『レイミアちゃんのおかげでヒュースの顔色がちょっと良くなったよ! ありがとう!』

『レイミア様、流石でございます』

『『流石レイミア様です! あの旦那様を休ませるだなんて!!』』


 ──そう、レオやシュナ、その他の使用人から感謝されたのは、レイミアがヒュースの部屋で爆睡した次の日だった。


 結局昨日、レイミアは起きたら自分の部屋のベッドの上だった。経緯の全てはシュナから聞かされ、周りからの感謝を素直には受け取れなかったのは致し方ないだろう。


 ヒュースに対しても寧ろご迷惑をおかけして……という気持ちの方が強く、レイミアは現在、同じテーブルで食事を摂っているヒュースに昨日の話題を切り出したところだった。


「ヒュース様、昨日は言霊を使って強制的に休ませただけにとどまらず、私まで眠りこけてしまうという失態……しかもお部屋まで運んでいただくなんて……申し訳ありません」


 着席した状態で頭を下げれば、目の前に美味しそうな食事が並んでいる。

 以前のレイミアの一日分以上のボリューム──サラダにオムレツ、ポタージュにふかふかのパン。

 それらを視界に収めながら謝罪したレイミアは「頭を上げてくれ」とヒュースに言われ、おずおずと指示に従った。


「レイミアが謝る必要はない。寧ろ、昨日も言ったが、私の身体を気遣ってくれてありがとう」

「ヒュース様……」

「君が眠ってしまったことに関しても気にする必要はない。言霊の加護を使用したことで疲れていたんだろう。……というより」


 穏やかだったヒュースの声色が、少しだけ低くなる。

 何を言われるのだろうと、レイミアはゴクリと固唾を呑んだ。


「昨日、無理をしていたんだろう? 私が無理をしないよう口酸っぱく言ったから、我慢をさせてしまったんだな。気が付かなくて済まない」

「……! ヒュース様のせいではありません……! それは私が勝手に……」


 心配をかけたくないと思った。幻滅されたくなかった。

 ヒュースが悪いのではなく、そう、勝手に思っただけだというのに。


「婚約者の体調を気遣うのは当然のことだ。私はレイミアに気遣ってもらって嬉しかった」

「……っ」

「疲れているのに、言霊の加護を使ってくれてありがとう、レイミア。あんなに良く眠ったのは久しぶりかもしれない」


 少しだけ口角を上げて、ふんわりと微笑むヒュース。

 その姿には一切の冷酷さは感じられず、レイミアの胸の辺りはじんわりと温かくなってくる。


(嬉しい……ヒュース様が笑うと、どうしてこんなに嬉しいんだろう)


 その理由はまだ分からなかったけれど、ヒュースと共に食事を食べ始めると、その疑問はいつの間にか、少しずつ頭の端へと追いやられていた。


 理由を知りたくないと本能的に思ったからなのか、それともこの多幸感に浸っていたいと思ったからなのか。

 どちらにせよ、ヒュースと共に食した朝食は、レイミアの胃袋だけでなく心まで満たした気がした。



 ◇◇◇



 嫁いできてから十日が経った頃。


 定期的にバリオン森林へ同行し、言霊の加護を使用していたレイミアは一日に使える言霊の数はどんどん増えていった。

 魔力の使い方が上手になり、言霊を使う際の集中力にも慣れてきたからだろう。


 そんなレイミアは朝食を終えて自室に戻った後、自身の手を見て「わぁっ」と声を上げた。


「レイミア様、どうされました?」

「ああ、うん。久しぶりにこんなに綺麗な手を見たなって、吃驚しちゃった」


 神殿では使用人以下の扱いをされてきたため、常に手が荒れていた。

 けれどメクレンブルク邸に来てからはその生活が一転し、レイミアの手はみるみるうちに綺麗になっていったのだ。


 レイミアが嬉しそうに話す姿にシュナは一瞬切なそうに眉尻を下げてから、身支度中のレイミアの髪の毛にサラリと触れる。


「レイミア様、髪の毛も大変美しくなられましたね」

「え? 本当に? 毎日シュナがお手入れしてくれるおかげね、ありがとう」

「いえ、そんなことは。元が良いのでしょう」


 シュナにそう言われ「ふふっ、シュナのおかげよ、間違いないわ」なんて言いながらレイミアは笑う。

 すると、姿見を見て、レイミアはハッと気が付いた。


「なんだか私、少し太った……?」

「レイミア様、その表現は不適切かと。レイミア様は少々痩せ過ぎでいらっしゃいましたから、幸せが体に付いたのでございます。喜ばしいことです」

「幸せかぁ……そう言われると、ふふ、そうかもしれないわね」


 頬が少しふっくらし、以前よりも健康的に見えるその姿に、レイミアはなんだか嬉しくなってくる。湯浴みのときも肋が少し見えづらくなったし、太ももにも肉──否、幸せがついて、骨っぽさがかなりマシになったことは、大変喜ばしいことだ。


「ふふ、けれど、このまま幸せが付きすぎてしまったらどうしましょう……?」

「その時はその時でございます。どんなお姿でもレイミア様は可愛らしいと存じますし。それに、旦那様はどんなレイミア様でも受け入れてくださいますから、気にせずに幸せを付けてまいりましょう」

「あははっ……シュナったら……ヒュース様は別に私のこと好きでもなんでもないんだから、何でも受け入れてくれるってことはないわよ、きっと」

「………………。はい?」


 レイミアの発言に、しっかり者のシュナとは思えないような抜けた声が漏れた。

 レイミアの身体のことについてヒュースに報告した際、どれだけ彼がその事実に怒っていたか、シュナは知っていたからである。

 それに、ヒュースがレイミアに向ける眼差しや声色、言葉がどんな感情から現れるものなのか、シュナは理解していたから。


 ──旦那様、残念ながら伝わっておりませんね……。


 ヒュースに同情しつつ、一介のメイドが口を出すべきではないだろうと口を噤んだシュナ。


 じーっと見つめてくるシュナに、レイミアは「どうかしたの?」と問いかけた。


「いえ、少しぼんやりしておりました。申し訳ございません」

「そうなの? 大丈夫? 疲れているのなら休んでね?」

「ありがとうございます。旦那さまとは違い適度に休暇を頂いてますのでご心配には──と、そういえばレイミア様、お聞きになりましたか?」

「……? 何をかしら?」


 そうしてシュナが話してくれる内容は、レイミアにとってこれ以上なく喜ばしいものだった。


「レイミア様が言霊の加護で定期的に魔物たちを森林の奥へ追いやってくださるお陰で、最近では魔物の出没頻度は大幅に少なくなったのですよ」

「あ……そういえば、そうね」

「それに伴い、森林へ見回りへ行っても魔物と出くわす機会が減ったので、見回りや討伐の頻度をこれから減らしていくそうです。代わりに休暇が増えるそうなので、これで旦那様も気兼ねなくお休みできますね」

「本当に……っ!? 良かったぁ……!」


 ヒュースが休めなかったのは、単に忙しいからだけではない。部下たちが働いている中で自分だけ休むのは……という考え方のせいでもあった。

 しかし、部下や側近たちの休みが増えれば、ヒュースだって少しは休むようになるだろう。


 レイミアはヒュースの役に立ちたい──そして彼に休んでもらいたいとそう思っていたので、シュナからの報告に心の底から喜びを噛み締めていると、ヒュースの休暇の日は思いの外早く訪れた。



「レイミア、一つ頼みがあるんだが」


 それは、シュナから報告を受けた次の日。

 朝食時に「今日は一日休暇を取る」と言ったヒュースに満面の笑みを見せたレイミアだったが、頼みがあると言われて、もちろんと首を縦に振った直後のことだった。


「今日一日、私とデートをしてくれないか?」

「デート……?」

「一緒に街へ行こう」

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