11話 さて、すれ違いに気付くのは
バリオン森林に同行したいというレイミアのお願いはその後、とある人物の助言によって叶うこととなった。
「レイミアちゃん、疲れてねぇ? 大丈夫か?」
──その人物とは、ヒュースの側近である魔族のレオだ。
バリオン森林の道すがら優しく問いかけてくれた、八重歯がトレードマークの明るいレオのおかげで、レイミアは今この場にいられるのである。
というのも、当初ヒュースはレイミアがバリオン森林へ同行することを良しとしなかった。昨日倒れたばかりだったことと、環境の変化に対するストレスもあるだろうから、しばらくは無理をせずに屋敷でゆっくりしてほしいとの配慮からだった。
しかし、レイミアがヒュースの元に嫁いできた最たる理由は聖女の力で魔物の処理に当たることだ。
運良く加護が目覚め、屋敷の環境も神殿とは比べ物にならないほどに良いし、何より良くしてくれるヒュースの役に立ちたいという感情は、当然といえば当然だった。
『お願いしますヒュース様! 一日でも早くお役に立てるようになるには、直接魔物と対峙して言霊の能力を把握するのが一番だと思うのです……!』
『だが──』
『そこまで言ってくれてるなら良いだろ、ヒュース。同行してもらおうぜ? 心配なのは分かるが、ここまで頑張りたいって言ってる気持ち無碍にするのはどうよ』
そうして、ヒュースに報告があるからとダイニングルームに入って来たレオが偶然レイミアたちの話を聞いており、助言してくれたというわけである。
そのおかげもあって渋々折れてくれたヒュース。言霊能力を使うに当たって魔力がどれくらい必要となるかは分からないため、魔力切れにならないよう無茶だけはしないという約束の上、レイミアは同行を許可されたのだった。
──話は現実に戻る。小枝をポキっと踏む音に意識を捕らわれることなく、レイミアはレオの質問ににっこりと微笑んだ。
「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「加護が開花したことはヒュースから聞いてるけど、まだ発現したばっかなんだから無理しなくていいからなー。にしても、レイミアちゃんは頑張り屋で偉いな!」
まるで太陽のような笑顔を見せるレオに、レイミアは首を横に振る。
そして、ヒュースと同じくらいの位置にあるレオの顔を、じっと見上げた。
「聖女として、最善を尽くすのは当然のことですから。それに、屋敷の皆さんやヒュース様が本当に良くしてくださるので……頑張らないと!」
キラキラとした笑顔を向けるレイミアに、レオは顎に手をやって問いかけた。
「……ヒュースから聞いてはいたけどさ、レイミアちゃんって本当に俺ら魔族に対して偏見がないんだな」
「……そうですね。昔は魔族と魔物の違いが分からなくて無闇矢鱈に怖がったこともありましたが、きちんと理解すればそれがどれだけ愚かなことだったか分かりました。それにほら、レオさんもシュナもヒュース様も、とーってもお優しいですから! 私も、その優しさに報いたいのです」
「…………なるほどなぁ」
うんうんと頷いて、何やら前方に視線を寄せるレオ。
「そりゃあ、ヒュースが惚れるわけだ」とポツリと呟いた声は、レイミアに届くことはなかった。
「そういえばレオさん、屋敷の皆さんって魔族の方が多いですよね?」
まだ魔物が出てきたという報告はないので、ふと思ったことを尋ねたレイミアに、レオはおもむろに口を開いた。
「ああ。多いっつーか、ヒュース以外は純粋な魔族ばっかりだ。人間はレイミアちゃんだけ」
「えっ!? あ……言われてみれば今日見かけた方は全員魔族でしたね」
魔族が少ないということを知っていたレイミアだったが、「この国の魔族の殆どはあの屋敷に集まってる」というレオの説明に合点がいった。
(なるほど。だから屋敷には結構な数の魔族がいるのね)
そして、それからレオの話を聞いていくと様々なことを知ったのだ。
人間との共生を認められている魔族だが、中には人間側の都合でそれが叶わない魔族がいること。
そんな魔族をヒュースは雇い、人間に対する敵対心を生まないように関わりを持っていくこと。
聞けば聞くほどヒュースの優しい人柄を知ることができ、レイミアは自然と頬を綻ばせた。
「ヒュース様、なんて素敵な方なんでしょう」
「……お、レイミアちゃん、早速ヒュースに惚れたか?」
「はい?」
(惚れたって……恋愛的に好きになったかってことよね?)
自問自答したレイミアは、楽しそうな表情で見てくるレオに、負けないほどの笑顔を返した。
「いえ、ヒュース様にそんな恐れ多い感情は持ちませんよ」
「ん?」
「確かにヒュース様は私を大切にしてくださると仰ってくれましたし、結婚式を提案してくれたり、今日だって同行することに心配してくださいました。……けれど私には分かっているのです……! その全ては私が言霊聖女で、公爵領や民の役に立てるかもしれないからだと!」
「………………。嘘だろ」
ヒュースの心境を知っているレオは、もはやヒュースに合掌するしかなかった。
「──おいレオ、レイミアにあまり近付くな、減る」
そんなとき、レオと話していると、数人の部下を先導していたはずのヒュースがいつの間にかとなりに来ては、レオに対してしっしっと手を振る。
レオはそんなヒュースに対して哀れみの瞳を向けており「お前も苦労すんなー面白そうだから言わねぇけど」「は? 頭が湧いたのか?」なんてやり取りをする二人。
自身に見せてくれる姿よりもやや少年のようなヒュースにほっこりしつつ、穏やかな空気に包まれていた、のだけれど。
前方から聞こえてきた「魔物が現れました!」という切迫した声に、レイミアはゴクリと固唾を呑んでから、目的を果たすために魔力を集中させた。
「ヒュース様、言霊を使ってみて宜しいでしょうか? 強制力や範囲を確認したくて」
「ああ、分かった。もし言霊の能力が上手く使えなくとも我々が対処するから、気負わずにやるといい」
「レイミアちゃん頑張ってな!」
「ヒュース様、レオさん、ありがとうございます……! フォローをお願いします……!!」
そうして、レイミアは群れと思われる魔物たちを視界に捉える。
そしてその魔物たちに伝えるのだという意識を持ち、魔力を込めた言葉を口にしたのだった。
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