8話 「魔女には使い魔がつきもの」
1******
魔女「……おみそ汁……和食、の匂い……?」
兎女「そうなの! 今日は和食なの主様! おはようなの!!」
魔女「……は?」
兎女「もう少しで朝ごはんができるから、そろそろ準備なの」
魔女「……はあ?」
兎女「うーちゃんは仕上げがあるから戻るけど、主様は二度寝せずにちゃんとダイニングに来てくれたら嬉しいなの!」
魔女「……はい?」
兎女「それじゃあまたあとで! ……あ、寝起きの主様、野良猫みたいに髪がボサボサでかわいいなの!」
魔女「…………」
少女「……うーん。どうしたのティアお姉ちゃん? なんかさわがしくて目が覚めちゃったよ」
魔女「――わたしの家に変なグラマラスバニーガールがいるわ!」
2******
兎女「今日は基本的なおみそ汁なの」
魔女「…………」
兎女「昆布とカツオで二番だし。お味噌とのバランスが大事なの。主張しすぎることもなく、隠れすぎることもなく、調和なの」
魔女「…………」
兎女「喉を通ったときに出汁と味噌の香りがふわっと鼻を通り抜けるなの」
少女「わー、美味しいねこのスープ!」
兎女「ありがとうなの。こっちの漬物もよくできたからどうぞなの。時間がなかったから、浅漬けなの」
魔女「……美味しい」
兎女「よかったなの!」
魔女「……ってわたしはなんで馴染んでるのよ!」
兎女「テーブルに突っ伏してどうしたの主様!? 頭いたいいたいなの!?」
少女「よくあることだから気にしなくていいよ」
3******
魔女「美味しいからって、落ち着いておみそ汁飲んでる場合じゃないのよ!」
兎女「わっ! 急に大きな声出すとびっくりするなの!」
魔女「あ、ごめんなさいね。それでアンタは何なの。どうしてわたしの家に勝手に入って朝ごはん作ってるのよ」
兎女「うーちゃんは主様に召喚されたウサギなの!」
魔女「……この前の!?」
兎女「そうなの! よろしくなの!」
魔女「あの白い毛は!? 赤い目はどこにいったのよ!? 真っ黒な髪に碧眼じゃない!」
兎女「健康になりましたなの!」
魔女「……なるほどね」
少女「そこ納得するんだ」
4******
魔女「アンタ、どうして人間の姿なのよ。しかもうさぎだからバニーガールだなんて安直すぎでしょ」
兎女「うーちゃんはそんなの知らないの。さっき気付いたらこの姿になっていて、主様の家にいたのなの」
少女「誰かが新しく召喚したんだろね。どうしてティアお姉ちゃんが主になってるかはわからないけど」
兎女「それで頭の中に声が聞こえたの。おみそ汁です。今すぐおみそ汁を作るのです。キッチンは好きに使っていいですから……って声なの」
魔女「そんなのアイツに決まってるじゃない! すぐにメルウを呼ぶ――」
聖女「おはようございます! さあ今日も元気に悪魔を召喚しましょう! まずは美味しい朝ごはんを食べてから!」
魔女「――必要なんてあるわけなかったわね! どうせ来るし!」
5******
魔女「さあ、説明してもらいましょうか」
聖女「何をです? あ、やっぱりおみそ汁美味しいですね」
魔女「そうね。兎が作ったものとは思えないわ」
聖女「上手に作れるようにって頑張っちゃいましたからね、私!」
魔女「ふん、なかなかやるじゃない」
兎女「……主様がすごく簡単に話を逸らされたの」
少女「いつものことだから気にしなくていいよ」
兎女「ふーん……主様はちょろ主様なの!」
魔女「いきなり大声で失礼ねこの子!?」
6******
聖女「私にはわかっていたのです。ウサギちゃんがいなくなると、ティアがとても悲しむって」
少女「ティアお姉ちゃんって意外と可愛いもの好きだもんね。でもどうやって召喚できたの? あんなに弱くちゃ同じ個体を呼び出すなんて難しいんじゃない?」
聖女「聖女的な神秘パワーです。できないことはありません!」
魔女「ちょっと待ちなさいよ。わ、わたしは別に悲しんでなんかいなかったわ! あんなウサギがいなくなったくらい……!」
兎女「主様……?」
魔女「ちょ、ちょっと泣かないでよ! ほらもう……体は大人なんだから、涙をふいてしっかりなさい」
兎女「……主様」
魔女「……まあ、アンタがここにいたいんだったら、しばらくいていいわよ。急にメルウのヤツに召喚されて大変だったでしょ」
兎女「ちょろ主様!」
魔女「次そう呼んだら絶対に追い出してやるんだから!」
7******
少女「今回もメルウお姉ちゃんの思惑通りだったってわけだね」
聖女「思惑だなんてそんなー。私は単にティアを喜ばせてあげたかっただけですよ。それに、少し失敗してしまいましたし」
魔女「失敗? アンタが失敗? そんなことあるの? いったい何をやったってのよ」
聖女「それがですね。うーちゃんは基本スペックが完璧使い魔。お料理はもちろん。掃除洗濯からお裁縫まで、最高峰の技巧を持ったウサ耳メイドです。なので――」
兎女「これからは主様はうーちゃんが守るの! だから安心してほしいの!」
聖女「私並に強いんですよね。この子」
魔女「……!」
8******
魔女「勝ったわ! 頭のおかしな聖女が自滅したわ!」
聖女「ティアったらすごく嬉しそうですね」
魔女「これでメルウの好き勝手にはさせないわ! 変なことをすれば、叩き出してやるんだから!」
少女「どうせ上手くいかないんだよね。お約束?」
聖女「しっ。ダメですよフェル。せっかくティアが楽しそうなのに」
魔女「さあ、うーちゃん! この自称聖女の悪魔を叩き出してちょうだい!」
兎女「それより主様、ごはんを食べたらまずは歯を磨くの。ほら、一緒に綺麗にするの!」
魔女「なーんーでーよーー!!」
聖女「ふふ。うーちゃんの素晴らしさは何よりも真面目という点です! 可愛らしいほど自然に洗面台へと連れて行かれましたね! 禁呪を試した甲斐がありました!」
少女「教会の今期の聖人認定基準ってすごいよね。なんていうか、度胸が」
9******
兎女「聖女様、うーちゃん聞いたの! 聖女様が主様を困らせてるって。うーちゃん良くないと思うの!」
魔女「ふふ、アンタが何したって無駄よメルウ! この子がわたしを主と定めている以上、最終的にはわたしの思う通りに動くのよ!」
聖女「残念でしたね。うーちゃんはとってもいい子ですから。こういう手もあります」
魔女「な、何よ」
聖女「……うう、私は単にティアと仲良くしたいだけなのに……ティアが私を追い出したくて殴ったり蹴ったり酷いことをするんです……とっても悲しいです……」
兎女「……!」
魔女「…………」
兎女「主様。うーちゃんは暴力反対なの。やっぱり仲良くするのが良いと思うの」
魔女「チョロいのはアンタじゃない! よく見なさいよ! アイツの口元笑ってるから!」
兎女「えへへー。使い魔は主様に似るのー!」
魔女「わたしはチョロくなんてないってば!」




