きよし、ぱお~ん危機一髪
リアルに余裕が出てきたため、不定期ですが執筆を再開します。読んでいただいていた方、ほんとうにすみません。
「オイオイ、なんだあれは」
「アヌヌヌ帝国? 大河を隔てた今奴らに攻め手はないと聞いたが……」
「ひゅー、やるねえ、こんな手の混んだ芝居とはなぁ!」
会場の空を覆うようにパオンの邪悪なオーラは紫色に艶かしく蠢く。突然の出来事に混乱した観衆たちは各々に叫び声を上げたり、なにかの特別なイベントだと勘違いして歓声を上げたり混沌を極めた様相だ。
「ヒヒヒっ、これだよこれぇ! お前ら俺を恐れ、アヌヌヌ帝国ぅに頭を垂れよ! イーーヒッヒッヒ!」
パオンは虚空で高笑いをする。こいつ本当に悪魔かなにかなのか? あの哀れに虐待されていたパオンが? にわかに信じがたい、が、想定外の自体に硬直している場合でないことだけは理解できた。
「ぱ、パオン? ひぐっ……これはどういうことだワン!?」
目元を真っ赤に腫らしたワオンは遥か上方のパオンに問いかける。パオンはまるでゴミを見るかのような視線で彼女を見下ろすとこう言った。
「ハッ! 駄犬風情が。このパオン様を呼び捨てとは。今まで良くも俺様をいびってくれたよなぁ! あぁん?」
「うるさいうるさいうるさい! お前はガオンさまがこんなピンチなのに何言ってるワン! 力があるなら早く助けるワン!」
はにゃーんと蕩けているガオンとニャオンを指差して必死に訴えるワオンだが、その言葉が届くはずもない。
「俺がお前らを助ける道理がどこにあるのか、よーーーく考えてみるんだなこのクソ犬。毎日毎日毎日毎日、俺の踏み、なじり、こき使い……はーーー、涙が出そうになってきた。ってか、ひぐっ、涙出てきたはw」
宙で圧倒的な魔力を帯びた怪物パオンが目元をうるませる。威厳の中の、どこかコメディ風味な面白さを感じる。浅黒い肌、紫の翼、飛び出た八重歯、切れ長の目元、頭に輝く黄金の象をモチーフとした冠……でも、やはり威厳はない。──やはりこいつ、間違いなくパオンだ!
「それはお前が奴隷だからだワン!」
「奴隷にも基本的人権はありますぅー! そんなことも知らないんですかぁー?w っていうか、俺の場合は基本的悪魔権ですー! やれやれwこれだから土人は。全く帝国人の爪の垢を煎じて飲ませてやりたくくらいだぜ」
パオンは目元にありったけの皺を寄せ、めっちゃムカつく笑顔でワオンを見下ろし、ほくそ笑む。
「がるるるる! お前私達のことを土人と言ったなぁ! 許さないワン!」
「やーいw 土人!土人!」
「くたばれ象さんち○こやろう!」
「さすが土人のボキャブラリーは貧困ですねぇ!」
「うるさいうるさいうるさい!」
バンバンバンと地団駄を踏むワオンと今までの鬱憤故か煽りに煽りまくるパオン。
俺が元いた世界。そこにはスマホもPCもあり、万人がインターネッツにアクセスできる世界ッ!そこの、電脳仮想空間の最奥、日本国で最も有名は電子掲示板の住人たちはこう言い残している。
『──争いは同じレベル者同士でしか発生しない』
どう考えてもそれじゃん! 言い合いのレベルが低すぎるよ! 俺はパンパンに目配せする。パンパンもまたポリポリとこめかみを掻いて苦笑していた。
「このち○ぽこ象さんクソダサ冠魔人~!」
「ぐぬぬぬぬ! 発情糞猫の手下ー!」
「ちん○こ冠に比べたらましだも~ん」
「ぐぬぬぬ……」
「やーい、ち○こ、ち○こ!」
「ち○こって言うなぁ! 俺だってちょっと気にしてるんだぞ。まったくこれでは埒が明かんなくそが。こうなったら主ともども死んで詫びろ」
そう言い残したパオンはブツブツと不可解極まりない詠唱を始める。
「輝く二双の象の耳介、耳介につどりし黄金の双玉は夢の奔流への前舞台。ついに解き放たれし帝国の威光、固く逞しく知らしめよ!」
「象鼻の金色の聖水!」
パオンの頭部に顕現した象の鼻を模した黄金の冠が光り輝く。両翼を彩る金色の耳たぶ、逞しく太い鼻、その姿はまるで……。──じゃない! 魔力の集まり方がどう考えても尋常じゃない。あれは魔力を行使した能力の予備動作に違いない。
「「……きよしッ!」」
まずい空気を感じ取ったパンパンとエーリカがとっさに臨戦態勢になる。
「くたばれ犬っころぉ!」
「パオンんんん~!!!」
怒りにまかせてただただ睨みつけるワオン。象さんの冠の鼻先に集中するまばゆい白色光。あまりの魔力の集中に直視することすらはばかられる。おれが直撃すれば確実にワオンは即死すると確信できる。
「ワオンッ、逃げろ!」
そう感じた瞬間、俺は声を発し、すでに体は動いていた。いかに対戦相手といえども、死にゆく女の子を放ってはおけないからな! そう、俺は紳士、決して腐れ外道なのではなく、アルティメット紳士たる御手洗清なのである。
間に合えッ、ワオンに手を伸ばし小さな手を無理やり引っ張りこちらに引き寄せる。ワオンの驚きと怒りの入り混じった瞳が俺の姿を鏡のように映し出す。白色光の中でスローモーションになる世界。
「──煉・獄・斬」
そう、男のつぶやくような声が聞こえた。刹那、観客席から発せられた赤い閃光が迸る。閃光はパオンの頭部へと突き進み、橙と白色のありえない光量に会場全体が包み込まれる。何も見えない、そう思考が追従した時間と連続して爆音で鼓膜がつんざけそうになる。
キーーーンという耳鳴りと、チカチカした視界から解放されたとき目の前にあったのは、灰色と黒色の立ち上る煙、そしてその中心で大太刀を背負う真紅の特攻服、リーゼントの男。そして、ぷすぷすと焼け焦げ、地面に頭部をめり込ませているパオン。
俺の脳裏に一人の人物が浮かび上がる。
紅蓮抜刀隊、緋金階級冒険者、若き特攻隊長、またの名を不知火ムサシ。
「悪いな小僧、これ以上はご法度でな」
その男はニヤリと笑ってそう言ったのだった。
◇
「あっ、ひぎっ! あっ、ラメぇ! 象さん鼻いじっちゃだめぇ~!」
「おらッ、バッキバキの象さん鼻逞しくさせてよがってんじゃないわよぉ! おらっ、あんたの! 逞しい! 象さん鼻で、そのイノセンス証明してみなさいよッ!」
「あああっ、象さん鼻ビクビクしちゃう、さっき鼻水出たばかり、あっ、かんじゃう、象さん鼻かんじゃうぅぅー!」
「オラッ、象さん鼻かめっ、なんどでもかめッ、何度でも、無限に、あんたが本当のこと言うまでかみ続けなさいよッ!」
「らっ、らめぇ~~~~! 象さん鼻かんだばかりッ! またかんじゃう!あっ! かむ! またかむ! あああっ」
ジュルルるるるるるるるっ。
「はぁはぁはぁ、またかんじゃった……」
「あんたこれが終わりだと思ってないわよね。あんたは、無限に、かみつづけるのよッッッ!」
「ヒギィィィィィィ!」
固く閉ざされた奥の部屋からホモとパオンの酷すぎる掛け合いが聞こえてくる。
「流石にこれはR18クマ」
「でた俺の世界風の表現。なぜパンパンお前がその表現を知っているかについて俺はもう突っ込むまい、だが大いに同意はする」
「はぁ、もう3時間だぞー」
呆れたようにエーリカたんが机に突っ伏す。今何が行われているか、それを説明するのは至って簡単だ。ただ一言、パオンがホモにファック(?)されている。
しかしその過程が大切なのだ。どんなに奇妙な物事、ストーリーにも然るべき蓋然性というものがあるものだ。象さん鼻とホモのきったねぇ盛り合い、ならぬ盛り愛。この汚い絵面にどう至ってしまったか、それを順に追って説明しようじゃないか。
まず、パオンに関して。やつは、技の発動前に不知火ムサシによってボコされた。まったく、あのリーゼントの兄ちゃん、緋金級は伊達じゃないえげつない速さだった。事態が試合という枠を超えた問題と判断、また観客を巻き込むことを確信できた次の瞬間、パオンは丸焦げで地面に叩きつけられていた。その姿はまるでこんがり焼かれたソーセージ……ということはさておき、事態が事態だけに試合は中断となった。
結果的に試合は没収試合となったが、パオンが大会の参加規約に違反していたという扱いになり、俺たちアナルパンダぶるぶりーずの不戦勝として収められた。戦い方が戦い方であったこともあり、一部の観衆は納得しなかったようだが、実質的にガオンとニャオンが戦闘不能であったこともあり、多くの人々には俺たちの勝利として自然に受け入れられた。
そして現状。パオンは帝国の尖兵、そして戦争犯罪人として身柄を冒険者ギルドに引き渡され、ホモことルアーナによる執拗な鼻攻め?により自白を強要されている状態だ。現段階で、パオンが吐いた情報は二つ、帝国は未だトト王国に攻め入ろうとしていること、これはにらみ合いであるものの長年戦争状態であることからも自明の理であった、しかし、もう一つ、アヌヌヌ帝国初代肛帝ザヌス・イレネバにより帝国が肛具を収集しているということに関しては、それが何を意味しているかも含め、ルアーナや不知火といった上位の冒険者も今まで知りえない重大な新事実であったようだ。
それを示唆する様相として、ルアーナは尋問中の活力と喜びに満ちた表情から一転、真剣な口調と眼差しで、おそらく王国の役人?だろうかその人物に肛具収集の件について情報共有を行い、それを伝え聞いた役人もまたひどく急いだ様子で尋問室前から去っていった。
「ひゃっ、ひゃだ! 金耳さわさわきもちぃぃぃぃ! ひぎぃ!」
「オラッ! あんたの金耳握りつぶしてやるわよっ!」
「ひぎぃぃぃぃ!」
背景に流れる汚すぎるBGMを右の耳穴から入れて、左の耳穴から垂れ流す、そんな気分で俺は頬杖をつく。その視線の向こうには、部屋の角に3人固まって涙目でこっちを睨みつけるケモノ耳少女三人。ライオン、いぬ、ねこ、うん、例の三人だね、うん。
「ハハハ、汚すぎる音のせいでなんかやりにくいなあ!」
パオンの猥声、少女たちのじっとりとした視線、さまざまな複合的な要因が絡み合って究極に居心地の悪い空間が今ここにある……!
「……はぁ、きよし、この三人、どう責任とるクマ?」
「……」
なにも考えてなかったなんて死んでも言えない。死んでも言える雰囲気ではなかった。エーリカたんも呆れたようにため息をついて目を合わせてくれない。俺のおかげで勝った(?)ようなものなのになんでそんなに冷たいわけ!?




