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花言葉ものがたりより「ムスカリ」
紙テープと紙吹雪に背を向けてタラップを歩く。
たった一人で日本国を旅立つ私に見送りはいない。
「佐奈。今度ばかりはお前のわがままを聞いてやるわけにはいかんぞ」
「いいえ、お父様。今度ばかりはわがままなどではありません」
「鷹司家のご長男、和眞様との縁談を断るなんて、できるわけがないでしょう」
「お母様、親友の柊子様の思い人と結婚なんて、できるわけがありません」
不安がないといえば嘘になる。
満州鉄道で働いている尚久お兄様のところへ家出をする計画を打ち明けたときの、忠久お兄様の顔を思い出した。
「力を貸していただけないなら。私一人で家を出ます」
そう宣言した時の情けない兄の顔を思い出したら、ほんの少し勇気が出た。
背後で一段と大きな歓声が上がり、汽笛が青空いっぱいに鳴り響いた。
いよいよ出港。これは、私のためのファンファーレ。
そう自分に言い聞かせた。
了





