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花言葉ものがたりより「梅」
虎二に連れられて、高台の新興住宅街をあちこち歩いた。
「人通りが少ないだろ? みんな車で下界にあるショッピングモールに行くのさ。おかげで居心地がいい」
虎二は新参者の僕に、街の様子をいろいろ教えてくれる。
と、その時僕は、白い梅の枝の向こうに、日の光を浴びて黒々と輝く一匹の猫をみつけた。
「あいつはそこの家の飼い猫だよ。ときどき庭に出してもらうらしいが、こちら側には降りてこない。お高く留まってやがるのさ」
よかったら夜の集会に来いよ。そう言って虎二は去っていった。
「こんにちは」
虎二を見送ると、僕は勇気を出して黒猫に声をかけた。
黒猫はしばらく返事もせずにじいっと僕を見下ろしている。
僕も負けずに見つめ続けていると、ようやく黒猫は口を開いた。
「あんた、虎二の子分?」
「違うよ。虎二はいろいろ教えてくれたけど、子分じゃないよ。だって僕、捨てられたばかりで、ここのことよく知らないんだ」
金色の目を細めた黒猫は「ふん」と鼻を鳴らすと、塀の向こう側へと消えてしまった。





