零の惑星
本当に練習な感じです。
以前書いた零シティ冒頭部を短編として書き直したものです。
ノベルアッププラスにも同じものを投稿しています。
崩れ、傾むきながら砂に埋もれるビルの残骸。
昔々この辺りには、整列するビル群と、アスファルトに覆われた街並みがあったのだろう。
今ではもう、限りなく続く砂の大地に、かつての文明の遺物として何棟かの巨大な建物が、その無残な姿を晒しているだけである。
見渡す限りの砂漠には人間の姿は見えないが、一番大きなビルの残骸からは、断続的に連射される銃声が響いていた。
建物の中にも入り込んだ砂は、落ちた天井の上にも降り積もり、砂丘のように盛り上がる。
そして充満する、血の匂い。
死体に囲まれ、かつてキャビネットだったと思われる遺物の影にコードネーム、βとωは身を隠していた。一瞬訪れた静寂に息をひそめて……。
人数の多かったターゲットを、何とか後数名と言うところまで追い込んだ。しかし、荒い息と上下する肩は、疲れを隠せてはいない。
二人とも、フードの付いた上着をきっちりとかぶり、口元を覆い隠すマスクも着用しているために、その表情はわからない。
フードとマスクの間からは、目だけが、ぎらぎらと光っていた。
長身のβがキャビネットの影の中で目を閉じる。後ろの気配に神経をとがらせ、息を整えている。
βより幾分小柄なωは、そっと、キャビネットの影から後ろをうかがった。
ωの瞳が頭上に大きく開く天井の穴へ向けられる。きゅっとその目が細くなった。
ωはトントン、とβの肩を指先でたたいた。
目を開いたβとωの視線が瞬間交わる。
それが合図だった。
ωはキャビネットを飛び越えると走り出す。βが身を起こし、キャビネットに乗り出して、後方からの援護に回る。
傾いたビル内に連続する銃撃音がこだました。
まだ生存しているターゲットが、走るωに向かって雨のような銃弾を撃ち込む。
そのとき、天井に大きく空いていた穴の中から、第三の人物が銃を構え飛び降りてきた。
棚陰に隠れていたターゲットはこの第三の人物、コードネームαの、存在にまったく気付いていなかった。
あわてて振り返った一人が何とかαに照準を合わせるが、為す術もない。
男の手にしたサブマシンガンは火を噴くことなく、砂の上に転がった。
銃声は止み、あたりは驚くほどの静けさに包まれる。
ターゲット殲滅。
任務完了。
天井から降ってきたαは転がったターゲットの絶命を確認しながら、キャビネットに座るβの隣へと歩いて行く。
ωは転がった男たちの身体を改め、金目のものを剥ぎ取る作業に夢中だ。
「今回の仕事、男ばっか。つまんねえな。大した実入りもねえし」
ωは面白くもなさそうに大声を出し、フードとマスクをずらしながら仲間を振り返った。
現れた男の顔は、浅黒く日に焼けて、精悍だがどこか狡猾な光を目にのせている。
その男の声にキャビネットに腰を預けていたβが眉をひそめて銃口を向けた。
「なんだ、やろうってのかβ……」
つい数分前まで共に戦っていた仲間の銃口に狙われたオメガは、挑発するようにβに向き直る。
フードからわずかに銀色の髪をのぞかせたβは、微動だにせず男に銃口を向け続けている。
「やめろ」
αの声に、βの指はピクリと震えた。
「おまえがそいつを殺したら、俺がおまえを殺らなくちゃならない」
αはβの手から、銃をもぎ取った。
「だとよ、β。残念だったな」
ωは唇をゆがめた。
「なあα、お前、ボスとツーカーなんだろ? 言っといてくんねえか? 今度俺に回す仕事は女子どものいる仕事がいいってさ」
「ω、お前の趣味に合わせて仕事は来ない。おまえがどんな下種野郎でも知ったこっちゃないが、俺やβの前ではやめてもらいたいもんだな」
αの眼光に、ωは肩をすくめながらホールドアップしてみせる。
「へいへい、仕事さえこなしゃ、あとはどうとでもと言うのが俺たちレッドスコーピオンの決まりだったはずだけどな。え? 違うか?」
αはωの不平には取り合わず、被っていたフードを取り払うと、軽く頭を振る。汗で頭皮に張り付いていた髪が空気をはらむ。
「あー、めんどくせ」
遺跡の出口へ向けて歩を進めながら、通り過ぎる一瞬、ωのぎらつく瞳がβをひと舐めした。その瞳から逃れるようにβは顔をそむける。
建物に扉はなく、抜けた天上からは燦々と日の光が降り注ぐ。
光の中には、一台のノンカウルタイプのモーターバイクが停まっている。
「ω! 銃と残ったマガジンを寄越せ」
αの声が飛んだ。
ωはちっ、と舌打ちをするとまずはサブマシンガン、続いて腰に巻いたバックを取り外し、αへ投げる。
「あばよ! β、α! またよろしく頼むわ!」
勢いよくエンジンをかけると、壊れ崩れた入口からωは外の世界へと飛び出して行く。
ωがいなくなると、一層静寂が深くなったようだった。
「α」
今まで、一言も声を発しなかったβがαを呼んだ。その声は柔らかく低めではあるが明らかに女性の声音だ。
「私は二度と、あの男と組んでの仕事は引き受けないぞ! 胸糞悪くなる!」
βは乗っていたキャビネットから飛び降りた。
「私がレッドスコーピオンと契約するとき、気に入らない仕事は引き受けないという、条件だったな?」
「はいはい、かしこまりました。次からはお前とωは同じ面子には入れないよ」
ふんと鼻を鳴らしつつ、βがフードを脱いだ。
男としても通じるほどの体格だが、その顔立ちは思いの外に女性らしい。
「さて、行こうか。血なまぐさいところにいつまでもいるのは趣味じゃない。β、一番近いシティまで送っていくよ?」
「ありがとう」
「なんなら一緒に宿をとる?」
「やなこった! お前もωと同類?」
βの碧眼が吊り上る。
「いやだなあ。あいつみたいに誰彼かまわずじゃあないよ」
αは軽く笑い声をあげ、その笑い声にβは小さい舌打ちで返した。
二人は歩きながら、崩れ落ちた建物の前に止まったオープンタイプの小型四輪駆動車に向かう。
「耳が腐る」
ベータが眉間にしわを思い切りよせながら助手席に乗り込んだ。
了





