第99話 これはまた登録者が増えてしまう
早朝五時に迷宮崩壊発生の一報を受けた迷宮管理庁・北海道地方局は、すぐさま登録している探索者たちに緊急強制招集をかけた。
同時に、いち地方局だけでは扱えない案件と判断し、管理庁本部にも応援を要請。
それから間もなく、五稜郭ダンジョンの入り口を閉鎖していた部屋の扉が破られた。
だがそのときには管理施設全体が封鎖されていた。
このために各ダンジョンの管理施設は、窓のない堅牢な建物にされているのである。
そして六時前にはすでに五稜郭公園を警察が取り囲み、内外への警戒態勢を構築すると共に、近隣に居住している探索者たちが集結していた。
緊急強制招集の対象となっている、Cランク以上の探索者たちである。
午前六時過ぎ。
ついに管理施設の壁が破壊され、魔物が溢れだしてきた。
この時点で上層の魔物の大部分は食い殺されており、現れたのは主に中層の魔物だ。
「撃てえええええええええ!!」
当然、探索者たちは、ただ指を咥えて魔物が姿を見せるのを待っていたわけではない。
開いた穴から施設内へ一斉に攻撃魔法が放たれ、中にいた魔物を殲滅する。
魔法の余韻が収まると、今度は近距離戦闘を得意とする探索者たちの番だ。
次々と飛び出してくる新手の魔物を、取り囲んで蹂躙した。
そして再び攻撃魔法の準備ができると、彼らはその場から素早く離れ、魔法が魔物を飲み込んでいく。
この繰り返しによって、出てくる中層の魔物は一匹たりとも打ち漏らすことがなかった。
しかしこのやり方がいつまでも通用はずもないことは、その場にいる誰もが理解していた。
午前七時前。
ついに下層の魔物が姿を現し始めたのだ。
中層とは比較にもならない凶悪な下層の魔物によって、管理施設の壁という壁があっという間に破壊されていく。
下層の魔物と対するには、最低でもBランク以上の実力がなければならない。
だがここまでに集結できた約40名の探索者のうち、Bランクは僅か10人程度で、他はCランクばかりだ。
しかも下層の魔物が続々と溢れ出してきているのである。
「ダメだっ……数が多すぎる!」
「この人数では捌き切れないぞ!?」
「応援はまだか!?」
もちろん同じ北海道の各地から、すでに招集に応じた探索者たちがこちらに向かってきているところだろう。
しかし何せ広大な北海道である。
道内で最も探索者の数が多い札幌から函館まで、車でも4、5時間はかかる距離があるのだ。
そのとき頭上から轟音が聞こえてきた。
「っ……ヘリだ!」
「救援か!?」
「きっとそうだ!」
ヘリコプターである。
これなら札幌から函館まで一時間半ほどなので、応援の探索者たちが乗っていてもおかしくはない。
「いやあのヘリ、HKTって書いてるじゃねぇか!?」
「北海テレビかよ!?」
「消えろよマスゴミ!」
どうやら報道のヘリだったらしい。
探索者たちが怒りの絶叫を上げる。
「グルアアアアアアッ!」
「マンティコア……っ!」
そんな彼らに躍りかかってきたのは、下層の中でも凶悪な魔物、マンティコアだ。
人面を持つ獅子を前に、Bランク探索者が三人がかりで対峙するが、それでさらに苦境に陥った。
このままでは全滅――誰もが絶望した、そのとき。
バリバリバリバリッ!!
「アアアアアアアアアアアアアアッ!?」
突如として天から落ちてきた雷が、マンティコアの巨体を焼いた。
「な、何だっ!?」
「雷魔法!? だが、この凄まじい威力はっ……」
「っ、見ろ、誰かいるぞ!?」
地面に倒れ込んだマンティコアの上。
そこにいたのは一人の青年だ。
「みんなっ、この僕が来たからにはもう大丈夫だぞっ!」
手にした剣を天に向かって掲げ、宣言する謎の青年。
彼の頭の上にはドローンらしきものが飛んでいた。
「見たことがあるっ……まさか、ダンジョン配信者のっ……高橋竜牙!?」
探索者の一人が彼の正体に気づいてその名を口にする。
「ふっふっふ! ご名答! 僕の名は高橋竜牙! 登録者数230万人、ドラゴンチャンネルを運営しているAランク探索者だ!」
おおおおっ、と苦戦を強いられていた探索者たちが湧く。
この厳しい局面で、Aランク探索者の加勢はあまりにも心強い。
一方、その高橋竜牙はというと、
「(……決まった! 我ながらこれ以上なくカッコいい登場シーンだったな! これはまた登録者が増えてしまう……)」
心の中で自画自賛していた。
〈微妙にタイミングを見計らってたぞwww〉
〈それでこそ高橋竜牙だよな〉
〈カッコつけてないで早く他の魔物を倒せよー〉
……もっとも、配信の視聴者たちは彼の魂胆などお見通しのようだが。
〈けど、持ってるよなー。まさかこのタイミングでちょうど羊蹄山ダンジョンに挑むために北海道に来てたなんて〉
〈朝から緊急配信し始めるから何かと思ったw〉
〈テレビでも報道され始めてるけど、探索者目線の配信とか、確実にバズるだろ〉
実は管理庁から緊急応援要請が来たとき、彼は翌日の羊蹄山ダンジョン探索に備え、札幌市内にいたのである。
もし拠点にしている都内にいたら、仮に要請に応じ、他の探索者たちと合流して専用機などを使ったとしても、こんなに早く辿り着くことはできなかっただろう。
〈しかし報道ヘリで他の探索者たちに先行して移動するとは考えたよな〉
〈さすが竜牙くんだよね、ほんと頭いい〉
〈札幌市に丘珠空港なんてあったんか〉
〈すでに同接50万超えてる! おい竜牙、新記録狙えるぞ!〉
そして実は先ほど探索者たちから顰蹙を買った、北海テレビのヘリに乗せてもらってきたのだ。
「さあ、みんな、僕に続くといい!」
刀身に電流を纏わせながら宣言した高橋竜牙は、率先して凶悪な下層の魔物に躍りかかるのだった。
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