第77話 だったら倍斬ればいい
左右から迫りくる魔物の大群。
俺たちがいるのは巨大な水晶のトンネルで、どこにも逃げ道はない。
「右から突破するぞ」
「え、突破ですか!? ままま、まさか、あそこに突っ込んでいくつもりじゃないですよね!?」
「そのつもりだ。挟まれるよりずっといい。相手する魔物が半分で済むんだからな。すぐ後ろをついてきてくれ」
〈確かに半分で済むな〉
〈さすがニシダ賢い〉
〈賢いのか?〉
〈相変わらずの脳筋で草〉
俺は地面を蹴り、襲いくる魔物の群れへ正面からぶつかっていった。
「……むう、さすがに地下44階の魔物だ。一撃では仕留めきれないやつも多いな」
魔物を包丁で斬って斬って斬りまくるが、なかなか前進することができない。
このままでは後ろからの魔物が追い付いてきて、挟撃されてしまう。
〈やばいニシダですら苦戦してる〉
〈このレベルの魔物になるとさすがのニシダも厳しいか〉
〈ニシダどうするんだ!?〉
「だったら倍斬ればいい」
俺はもう一本、包丁を取り出した。
〈包丁の二刀流w〉
〈なるほど、一本じゃ一回しか斬れないけど二本なら二回斬れるもんな!〉
〈めっちゃ賢い〉
〈だから脳筋だってwww〉
「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
二本の包丁を振り回し、押し寄せてくる魔物の壁をガンガン抉っていく。
「後ろちゃんとついてきてるか!?」
「頑張ってついていっていますうううううううううううううううっ!」
残念ながら飯島氏のことを気遣い、後ろを確認する余裕もない。
そうしてついに俺たちは魔物の壁を貫き、水晶のトンネルから脱出することに成功したのだった。
「よし、どうにか出られたな」
「い、生きてる心地がしなかったです……」
だが俺たち以外も同じような状況に置かれている可能性が高い。
「休んでいる暇はないな。すぐに助けに――」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
どこからともなく響いてきた咆哮。
距離があるためか音自体は小さなものだったが、それでも明らかに声の主は並みの魔物ではない。
「今の雄叫び……まさか……」
脳裏に過去の記憶が蘇り、最悪の想像が過った。
◇ ◇ ◇
アークメイジの転移魔法によって、メルシーズもまた別の場所に飛ばされていた。
「みんな、大丈夫か?」
「は、はい! 二宮、無事です!」
「三好も大丈夫だ!」
「四谷……生きてます……」
「五条は元気! でも、びっくりしたー」
幸い彼らは全員が同じ場所に転移させられたらしい。
「他のみんなは……別のところに飛ばされてしまったみたいだな」
「……そのようですね」
「地下44階で、俺たちだけってことか」
「そ、そんな……もし、魔物に襲われたら……Aランクの僕たちだけじゃ……」
「大丈夫だよー、うちの索敵スキルで魔物を回避していけば……あっ、索敵が通じない魔物も出るんだった」
彼らは若手ながら何度も高難度ダンジョンを攻略している優秀なパーティだが、それでも彼らだけでの最高到達階は地下35階までだ。
地下44階は完全に未知の領域である。
もちろん彼らだけでこのフロアを探索するのは、非常に危険だった。
「Sランク探索者の誰かと合流するまで、どこかに身を潜めておくしかない。きっと僕たちを見つけてくれるはず……」
と、リーダーの一ノ瀬新之助が口にした、そのときだった。
ドオオオオオオオオオオオオンッ!!
轟音と共に巨大な水晶柱が突如として崩壊し、盛大に倒れ込んだ。
「な、何がっ……」
破壊された水晶の向こう側から、それが姿を現す。
身の丈5メートルに迫る巨体だ。
筋骨隆々の人型の上半身に、馬を思わせる下半身。
半人半馬で知られるケンタウロスによく似ているが、しかし頭部は悠然と黄金色の鬣を靡かせる獅子のそれだった。
「こ、こいつはっ……まさかっ……」
一ノ瀬新之助は目の前の凶悪な魔物の正体に思い至り、震える声で口にする。
「ダンジョンのボス、キングレオタウロス……」
「ちちちちち、地下45階にいるはずのボスが、何でこんなところにいるんだよおおおおおおおおおおおおぉっ!?」
ほぼ同時に絶叫したのは四谷幸助だ。
今回の救援チームへの参加にあたって、あらかじめ新宿歌舞伎町ダンジョンの情報を仕入れていた彼らは、当然ボスのことも頭に入っていたのである。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
強烈な咆哮を轟かせる獅子頭のボス。
サイズこそ大きく下回るものの、その威圧感はサイクロプスの比ではない。
「こ、こんな化け物と……僕たちだけで、戦えるわけがない……」
一ノ瀬新之助は愕然と呻く。
足がガクガクと震え、思うように動かない。
「リーダーっ、しっかりしてください……っ! ここで固まっていては死ぬだけです! 勝ち目がないなら、逃げる一択です!」
「っ……」
サブリーダーの二宮アンナの声で、ハッと我に返る一ノ瀬新之助。
「そ、そうだなっ……同じフロアのどこかに、きっとSランク探索者たちがいるはずっ……彼らと合流さえできればっ……」
「で、でも、どう見ても足速そうだよねええええっ!? どうやって逃げるんだよおおおおおおっ!?」
顔を真っ青にして悲観する四谷幸助へ、一ノ瀬新之助は力強く訴える。
「だがあの巨体だ! 狭い場所に入るのは簡単じゃないはず! 水晶を上手く利用しながら逃げるんだ!」
「確かに! 新ちゃん頭いい!」
「あそこに私たちなら通れそうな隙間があります! そこに逃げ込みましょう!」
そうして彼らは一目散に走り出す。
キングレオタウロスもまた強靭な後足で地面を蹴った。
「「「は、速えええええええええええええええっ!?」」」
凄まじい速度で追いかけてくるボスモンスターに、一行は思わず悲鳴を上げる。
まさに死が後方から迫る恐怖で推し潰されそうになりながらも、懸命に足を動かし、どうにか水晶が生み出す隙間へと滑り込んだ。
「た、助かった……?」
「ここならやつも追ってはこれ――」
ドオオオオオオンッ!!
「「「~~~~~~ッ!?」」」
背後から聞こえてきた轟音。
振り返ると、キングレオタウロスが手にした棍棒のようなもので殴りつけ、水晶を破壊していた。
「もっと奥へ逃げろおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
メルシーズの面々がボスモンスターに襲われている頃。
別の場所に飛ばされていた天童奈々と本願良子の二人は、
「おい、こいつらって……行方不明になってた連中じゃねぇか!」
「そうだねー」
探索者たちを発見していた。
水晶で囲まれたちょっとした空間。
そこに倒れていたのである。
「生きてるだろうな?」
「待ってー、あんまり近づかない方がいいかも」
「あ? どういうこと――っ!?」
天童奈々は咄嗟に後方に飛んだ。
一瞬遅れてその場に剣が振り下ろされる。
「おいおい、どういうことだよ? 今の完全に殺す気で来てたよな? 何であたしを攻撃してくるんだ?」
彼女の首を狙って斬撃を放ってきたのは、救助すべき探索者の一人だった。
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