第63話 大きな横やりが入りまして
その日の定休日、俺は霞ヶ関にある迷宮管理庁本部に呼び出されていた。
「本当はまた金本美久とのコラボ配信をやる予定だったんだが……まぁ那乃葉に頼まれたのなら仕方がない。恋音もそっちを優先してほしいと言っていたし」
要件はどうやらオークションのことについてらしい。
具体的な日程が決まったら連絡するとは言っていたが、まさか今の時代、対面でそれを伝えてくるなんてことはないだろう。
色々と疑問を抱きつつ、本部の受付で名乗ると、
「こちらが長官室となります」
「は?」
案内されたのは最上階にある、明らかに他とは雰囲気の違う高級なフロア。
長官?
長官って……管理庁のトップ?
「待て待て待て。何で長官室?」
「長官がお待ちだからです。どうぞ」
秘書か何か分からないが、案内人の女性は戸惑う俺を余所にドアを開け、入室を促した。
仕方なく中に入ると、待っていたのは三人。
一人は本部の職員で、俺も面識のある水沢氏。いつになく緊張の面持ちである。
さらに姪っ子の那乃葉も一緒だ。水沢氏とは対照的に、俺を見て軽く手を振ってくるほど余裕があった。
そして最後の一人が、恐らく迷宮管理庁の長官だろうが……思っていたよりずっと若い。
見た目的にはまだ30代くらいに見えるが、さすがにその若さで省庁のトップはないだろう。
となると、若く見えたとしても実際には40歳……俺とそう変わらない年齢くらいか。
俺の姿を認めた彼女は執務机の向こうで立ち上がった。
「西田賢一さんですね。私は長尾凛子。迷宮管理庁長官を務めています」
名前に違わず、凛とした声が響く。
……なるほど、この女性、探索者だな。
それも相当な修羅場を潜ってきていると見える。
彼女の僅かな立ち居振る舞いから、俺はそれを確信した。
この若さで長官の地位まで上り詰めたのは、恐らく探索者としての実績ゆえだろう。
「わざわざお呼び立てしてしまい、大変申し訳ございません。どうしても直接お伝えしなければならない要件が生じてしまったのです」
彼女自ら説明してくれた。
「西田さんが入手された当該アイテムについて、当初は予定通りにオークションにかける予定でした。ただ……大きな横やりが入りまして」
「横やりですか?」
「はい。アメリア大帝国からです」
「アメリアから……?」
アメリア大帝国。
名実ともに現在、世界最大にして最強の国家だ。
「政府から直接、当該アイテムを買い取りたいとの連絡があったのです」
「マジか。まさか……」
「ええ。どうやら噂は本当だったようです」
噂。
それはアメリアのトップに君臨する大統領が、迷宮産のアイテムを使うことで若返りをしている、というもの。
決して荒唐無稽な噂などではない。
なにせ実年齢はすでに90歳を超えているというのに、ごく平然と現役大統領の激務をこなしているのだ。
見た目も90代とは思えず、下手をすれば60代にも見えるかもしれない。
「ご存じの通り、我が国とアメリアはかつての世界対戦以降、よきパートナーとして友好関係を築いてきましたが……それは表向きの話。実際にはかの国に逆らうことができず、従属的な立場を強いられてきました。特にそれはこのダンジョン時代となってから、より顕著なものとなっています」
何か彼女自身が過去に煮え湯を飲まされるような出来事でも経験したのか、悔しそうに語る長尾氏。
「正直、向こうの要求に唯々諾々と従うのは癪ですが……当庁としては致し方なしと考えております。どうか西田さんにもご理解いただけないでしょうか? 元々オークションということでご了承いただいていたにもかかわらず、大変心苦しい限りですが……」
「いえ、別に俺はそれでも構わないです」
「一応、所有者への報酬は200億とのことでございました」
「200億……」
仮にオークションで入手しようとしていたら、もっと高値で売却できた可能性もあるというが、正直そんなにお金が欲しいわけではないので十分すぎる金額である。
「すごいね、賢一おじさん! 大金持ちじゃん!」
200億と聞いて、鼻息を荒くする那乃葉。
「そうだな……まぁ使い道なんてないんだが。もし何か欲しいものとかあれば何でも買ってあげるぞ」
「ほんと!? じゃあ、車とか欲しいかも! できれば外車で!」
「車か。おじさんも持ってないんだが……今度見にいってみるか」
那乃葉の要求に「新卒の娘がねだるにしてはかわいくない品物ですね……」と長尾氏が呆れ、水沢氏は「相変わらずの激甘……この場に彼女を連れてくるべきではなかったかも……」と呻いている。
「お金の使い道は好きにしていただくとして……西田さん、これからお時間は?」
「定休日なので空いていますけど……」
「では今からアメリア大使館に向かいましょう」
「い、今から?」
そういうことになった。
「私も行ってみたい~」と言っていた那乃葉とは、水沢氏と共に迷宮管理庁で別れ、俺は長尾氏と二人きりで車に乗り込む。
二人きりと言っても運転手はいるが……。
「急に行って大丈夫なものなんですか?」
「あちらに連絡したところ、ぜひ歓迎するとのことでしたので」
やがて車は赤坂にあるアメリア大使館に辿り着く。
本来なら厳重なセキュリティチェックがあるはずだが、長尾氏がいるからか、車のまますんなりと敷地内に入ることができた。
「探索者相手に一般的なセキュリティチェックをしても意味ないですから」
「……なるほど」
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