ネオ・ブリザードの午後8時半劇場 ⑩
ある片田舎に、ひとりの少年がすんでおりました。
その少年は、何時もは家の中に引きこもっているのですが、窓から見えるお日様の光がとても心地良く感じられたのでしょうか? なぜか、その日だけはガラにもなく、外に出てみようと思い立ったのです。
何日ぶりの外出でしょうか? 空には雲一つなく、少年は太陽から降り注ぐ陽射しを右腕で目を守るように覆いながら、人出の少ない道路を歩き始め、道端に落ちていたバナナの皮を踏んで盛大にすっ転んでしまいます。
「ぎゃああああぁぁぁぁ!!!!」
地面に頭を強打し、あまりの激痛に両手で後頭部を押さえながらのたうち回る少年……
「……うう……慣れない事はするもんじゃない……」
そう言いながら、痛みの引いてきた後頭部を擦り、立ち上がった……その時でした。
「……あれ?」
少年は、回りの景色が一変しているのに気づきます。
現代風の家屋が建っていた場所は、石造建築になり変わり、先程まで人通りの無かった道並みには、多くの人が行き交っており、その中には、耳の長く長身美形の女性や、短身で筋肉質の男性、更には二足歩行をするとかげまでおりました。
しかも、良く見ると、今少年が踏みしめている地面も、石畳に変わっているではありませんか。
「これは……もしかして……異世界転移……?」
その手の小説を読んでいた少年は、一瞬だけそう思いましたが、現状を把握するため、道行く人から話を聞き、情報を集める事にしました。
最初に声をかけたのは、耳の長い、長身美形の女性でした。
「……す……すみません……ここは何処ですか……?」
「¥々仝@#$%?」
こう見えて、日本語以外に5ヶ国語をマスターしている少年でしたが、耳長女性の言葉は、聞き取る事が出来ませんでした。
いえ、聞いた事が無い、と言うのが正しいかもしれません。
ですが、少年はくじけず、情報収集を続けます。
「あの……ここは何処でしょうか……?」
次に話かけたのは、短身で筋肉質の男性でした。
「@)(+|:;\・,仝¥ゝゞ!」
……ですが、先程と同じく、話を聞き取る事が出来ません。
少年は、いよいよもって、異世界転移が現実味をおびてきた事に、不安と焦りを感じ始めます。
その後も、少年は二足歩行するとかげや、足の裏に毛の生えた短身の女性にも声をかけてみましたが、結果は全て同じでした。
「……ま……まさか……本当に……異世界転移が……?」
目の前の現実に、ただ呆然とし、ふらふらと歩き出す少年……
……と、そこに、頭にターバンを巻き、身体に白いパジャマ風の衣服を纏った、ひとりの男性が現れます。
その男性の体型は、少年と良く似た……いわゆる人間種でした。
少年は、こちらの世界に来て初めて会った人間に、一縷の望みを託し、話かけてみます。
「……あ……あの……ここは何処でしょうか……」
頭にターバンを巻いた男性は、少年の方を振り向くと、口の回りに立派に生えた髭を、右手でもしゃもしゃといじりながらこう言いました。
「ワ・ターシ、ニ・ホーンゴ、解りませーん」
オ・シマイ・デース。




