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第19話 それくらいはわかるよ、流れで


 若い女との会話を終えてから数分、街の中心部に入る橋の前でおれは車を停めた。

 

 反対側の車線にはドアが開いた乗用車が道路を塞いでおり、渡った先にある高層ビルにはいくつか明かりが灯っているのが確認できる。


「このまま逃げるんじゃないの?」

 助手席に座る木崎さんの言葉には抑揚が一切なく、どういった感情かは読み取れない。


「逃げるよ。結果としては逃げる」

「嫌なんだけど。考えのない行動って」

「そうだよな。うん、その通りだよ」

 おれはハンドルに額をつけた。


 多分マツザキ達はこっち側から来た。ここで待っていればやつらに会えるかもしれない。おれの能力は現状雨じゃないと使えないんだ。今しかないんだよ、次の雨なんていつ来るか。それまでに、おれは。しかし、でもそうすると。


「ごめん、木崎さん。戻る」

 エンジンをつけ、おれは車をUターンさせた。


「当然でしょ。あ、これ貸しだから」

 相変わらずの無表情で木崎さんは言った。


 木崎さんの家に向かうため市街地を抜けて山道を走っていると、住居一体型のコンビニを見つけたので木崎さんの了承を得て駐車場に車を停めた。


「木崎さん、今何時?」

「3時過ぎ」

 木崎さんは助手席のシートを倒し体を伸ばした。


「一旦ここで休もう。眠くはないけどちょっと疲れた」

「うん、わたしも疲れ、え? なんか後ろからスマホのバイブが」

 木崎さんは車から降り後部座席に移動した。


「……最悪。これさっきのでしょ」

 木崎さんは液晶が割れた端末をおれに見せる。


「木崎さん今能力切ってる?」

「うん、駐車場に着いた時に」

 

 おれは木崎さんから端末を受け取りスピーカーに設定して通話通知を受けた。


「お疲れ。ごめんね、何回も。ほんとさあ、びっくりするよね。マツザキのチーム。普通に 逃げられてんじゃんっていう。ここはやりあうとこ見たいでしょ」

「それはお前らの都合だろ」

  おれは一度地緩しかけた意識をもう一度立て直し、ドリンクホルダーに端末を置いた。


「マツザキが言ってたのよ、死ぬ前にね。 女はいい能力を持ってるって」

 

 助手席に戻って来た木崎さんは無言のまま割れたモニターを見ている。


「監視系のいくつか使ってたんだけど全然捉えられなくてさ。何したの? というか今どういう状況?」

「あなたにそれを言ってこっちに得がある?」

 木崎さんはシートを戻して座り直した。


「ごめんごめん。深い意味はないから気にしないでよ。あ、そうだ。報告しとくね。さっきね、混乱に乗じてっていうの? 上手くやれそうだったから、えいってやってみたらマツザキチームを1人を除いて殺せた。だから今すごく気持ちよくて。ようやく溜まってた段ボールを捨てられたみたいな。そのお礼ってわけじゃないんだけど、ある場所に1人置いてるんだ。まだ生きてるからそっちでやる? なんだっけ、そっちの人1人死んだでしょ。その恨み? みたいな感じで」

「勝手にやって。死んでくれればそれでいい」

 木崎さんはリュックからペットボトルを取り出した。


「男性はどう? ちなみに女だよ。まあまあかわいいし、もうやりたい放題だよ。ちょっと周りが引くようなこともできるし。あー、大丈夫。わたしたちは見ないから」

「どうでもいい。そっちでやっといてくれ」

 おれは息が荒くなっているのを自覚しながらも、できるだけ平静を装って言った。


「あらー、そうなの。じゃあ別のお礼にするね」

「だからいらないって言ってるでしょ」

 木崎さんはリュックを抱えて外に出た。


「あれ、女性車から出ちゃった。それ正解かなあ、正直微妙なとこだと思うけど」


 ちょっと待て、こいつ近くに。え、あれか? おれはサイドミラー映る2人に気付き、木崎さんに続いて車を降りた。


「ほら、ここー。来たよ、おおー。すごい眺めいいねえ」

 

 赤いキャップを被った女がこちらに手を振り、横にいた同じく若い女はきょろきょろと辺りを見回している。


「二司君、あれ」

「近くにいたのかよ」

 おれはリュックにある水で鉄パイプを作ろうかと思ったが、明らかに無駄なので止め、コンビニの灰皿が置いてある場所に移動した。


「ねえ、二司君って煙草吸うの?」

 木崎さんはおれの横で座り込んだ。


「なんとなく。特に意味はないよ」

「あ、そうだ。さっきのトマトをやったのって、なんていうの鉄を下から出したの?」

「そうだな。あいつの足裏に円錐を作るイメージだ」

「いつのまにそんな操作を」

「なんていうか水びたし? みたいな床ならできる。水と水が離れていてもその間を鉄でつなぐことができれば」

「ここでは?」


 ここで、か。おれはコンクリート舗装された足元を見た。


「無理だな。雨も上がってるし」

「何の相談? あ、このコンビニ生きてる。物もあるかも、いいとこ見つけたね」

 赤いキャップの若い女は駐輪場の車止めに座り、もう1人の黒のアディダスのジャージを着ていた女もその横に腰かけた。

 

「今後の対応について話してたの」

 木崎さんはおれの目をちらりと見て言った。


 これは無効化を使ってるな、じゃあこっちで。おれは指先で服の上から銃に触れる。

 いや、やっぱり駄目だ。こいつらの得体が知れないうちは動かない方がいい。


「うーん、寒いねえ。せっかくコンビニあるしさ、なんかあったかいの飲もうよ。えー、そうだ。じゃんけんで負けた人が4本持ってくるということで」


 おれと木崎さん、ジャージを着ていた女は黙っていたが、赤いキャップの女の、じゃああんけええええん、という言葉に反応した結果赤いキャップの女が負けた。


「ええ、わたしかあ。おっし、じゃあ選んでくるかな」


 おれは店内に入っていく赤いキャップの女を目で追ってみたが、特に得られるものはなかった。


「ねえ、これなに?」

 不機嫌そうに木崎さんは呟く。


「わかるよ。でも木崎さんもわかってるだろ? こっちが何かをしたらそれで終わりだよ」

「そう、それであってる」 

 ジャージの女は小さく笑いながら呟いた。


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