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第18話 会話内会話

 

 通知を求める端末のモニターを見ながら数秒迷った後、木崎さんも聞こえるようスピーカーにして通話を受けた。


「どうも。さっきの2人は死んだ?」

 

 女?若いな。おれはワゴンに気付かれるのを避けるためライトを点けずゆっくりと車を発進させた。


 道路に出て数メートル進んだが、降り続く雨によりフロントガラスからの視界が悪く、ワゴンどうこうではなく、このまま走るほうが危ないという当たり前のことに気付いたおれは、ごく自然にライトを点けた。


「そっちはあいつらの知り合いか?」

 おれはまずこのスマホ何?と尋ねたかったが、明らかに能力に関わっていると思われるので止めた。


「うん、同じ集団だよ。最初の2人、そっちの家に行ったバカとも一緒。先に言っとくとあなたの家に行ったバカ2人、マツザキ達の行動はわたし達の総意じゃないから。あくまであいつらの単独。ごめんね。こんなことになっちゃって」

「別に謝ってほしいわけじゃないから。今の2人はそっちの意志でわたしたちを追ってきたの?」

 木崎さんは苛立ちを隠さずまくし立てるように言った。


「今の2人はそう。見たでしょ?わかったでしょ?あれはあれでバカなのよ。だからいい機会だと思って。マツザキ達いけたんだったら、あいつらもついでに殺してもらえるかも?チャンスがあるかも?みたいな。あ、ちょっとわかりづらいかな。えー、詳しい状況説明いる?」

「じゃあ頼む」

 おれはシートを調整しつつ市街地に向かって車を走らせる。

 

 通り過ぎていく家、マンションに時折明かりは点いているものの、走り始めてから車とすれ違うこともなく、当然人の気配もない。


「わかった。簡単にいくよ。わたし達の集まりがMLBだとすると。あ、メジャーリーグね、野球の。マツザキはその中のチームの一つなのよ。強さ的には、あー、わかりづらいからここはNPBでいくね。日本のプロ野球。それでいくとあいつらはそうだね、感覚的に、あくまでわたしの感覚的に西武ライオンズかな。それでオーナー会議みたいなのがあって、そこでいっつもさあ、マツザキのチームがさあ、あいつ武闘派だからさあ、やれFAの期間を短くしろとかさあ、人的保障がどうとかさあ、わかってるけどできないっつーのっていうね。ごめん、FAとかは例えね。それで、あなた達はいってしまえば下部組織的な独立リーグなわけ。そこに練習試合を」

「全然わかんないんだけど」

「ねえ女性、黙ってよ。そっちが説明して欲しいって言ったのに」

「ああ、すまん」

 おれは前を見ながらまあまあという仕草で木崎さんを制した。


「今の探索の2人はマツザキ達のチームじゃないんだけど、正直ここで浮きまくってたの。クレームも結構あって。要は『ねえ、あの人とあの人の隣嫌なんですけど!早く席替えして欲しいんですけど!』みたいな感じね。だから一緒に行くように仕向けた」

「探索はいてもいいんじゃ。しかもランク別みたいなこともできるって言ってたぞ」


 えー、また言ってんの。あはは。スピーカーからの音声が割れる程度の音量で若い女は笑った。


「そんないい能力じゃないって!あいつ毎回それ言うのよ。みんな知ってるのにさあ。だから誰にも相手してもらえないんだよ。もう1人の方はねえ、なんだろ割とみんなトマト嫌いだから能力自体がいらないっていう」

「あのさ。お前らが来てる防護服ってな」

「この通話の目的は?」

 おれの問いを遮って木崎さんは尋ねる。


「いくつかあるよ。まずわたし達に敵対の意志はないってことを伝えたくて。いわゆるあれよ、あれ。『敵も一枚岩ではないようだ』って状況。あくまでそっちの視点からね。それと最初の2人、マツザキとコシダはちゃんと死んだよ。これは本当にありがとう。あいつら本当に、本当にね。これまで何回もくだらないことをやってきてて。その中で今回の騒動。わたしはかなりむかついてたの。でもマツザキもさ、バカはバカなりに『もしおれから何時までに連絡なかったら来てくれ』みたいに言ってたみたいだから、マツザキの仲間がそっちに行くことになって。あ、これいい。この状況は使える。と思ったから探索たちを呼び出したの。『色々あってね、今こういうことになったみたいだからね、一応全体の問題としてね、君たちも行ってきなさい、貢献しなさい』って送り出したっていう流れ」

「マツザキの仲間を引かせることはできないのか?」

「それは無理かな。バカの下だよ?もっとバカだもん。あと集団のね、方針というかある程度の自由は認めてるのがあって。これが面倒なんだけどさ」


 こいつ、なんていうか。会話の中でのセリフっぽいの多いな。おれは女の話し方が気になったが、

「そもそも探索とかマツザキをお前が排除すればいいだろ。雰囲気的には出来そうな話ぶりだけど」

 そう言った後、ばれるときはばれるだろうとライトをハイビームにした。


「わたしやわたしに近い人が直接やるわけにはいかないの。ほら、他の人の目もあるし。『くそが。あの女は仲間を切り捨てるタイプだ。いつかおれ達も切られるぞ』って思われると色々やりにくいじゃない」

「追ってきてるやつの能力を教えて。わたし達はそっちの揉め事に巻き込こまれたようなもんでしょ」

 

 言うなあ、木崎さん。それはいいぞ。おれは心の中で拍手を送りつつ、道路に停車している車を避けながら片側一車線の道を進む。

 

「能力ね。いいよ。あ、誰がどれかまではなしね。説明しづらいから。うーんと、1人は暗くても周りがよく見えるやつ。ほんとうにバカだよね。せっかくいるんだから探索と組めよって。なんで車2台でわかれるの?バカなの?ねえ、バカなの?えー、あとは、指からインクいや墨汁かな、がでるやつと、プリントしている文字、厳密には違うけど雰囲気としてね、をちょっと、なんて言うの?変えれるっていうか、そういうの。あー、わかると思うけど、指からインクとプリントしてる文字の2人は仲がいいよ。その3人が追ってる」

「なるほど。大体わかった」

「それとあいつら基本的に銃持ってるから。こういうことになった時に真っ先に銃を取るようなやつらなのよ。ね、そういうことするの。意味はあるけどあの状況では優先度は低いよね?こういうエピソードめちゃくちゃあるんだから。あ、それとあなた達の知り合いの女は死んだ。一応言っとくね、ほんとうにごめん。だから『畜生、あいつらからあの人を取り返すぞ!』みたいなのでわたし達のとこには来ないでね。ちなみに殺したのはマツザキ達の仲間。今来てるやつら」


 高橋さん、が、あいつらに……。おれはハンドルを強く握りアクセルを踏んだ。


「もう十分だ。切るぞ」

「うん、じゃあ頑張って。あとさあ、うーん。こういう、うーん、なんだろう」

 若い女は、えー、あー、もう、うーん。一通り唸り続けた。


「何が言いたい?」

「聞いていい?耐えられなくて。わたしもう1人の方の能力トマトって言ったけど。それ知ってた?ごめん、言えないよね。うん、いいんだ。イメージではさあ、トマトってわたしが言った後に、そっちがいい感じで釣られるはずだったんだけどなあ。でさ、わたしがこう言うのよ『え、わたしトマトとは言ったけどそれを成長させるとは言ってない。あなた達能力を探れるの?』って」

「能力がわかったらマツザキ達の仲間のをわざわざ確認しないだろ」

「ええー、それは無理だよ。だって聞かないと会話の流れ上、不自然だしさー。今まで生きてるんだから、そっちも最低限の知性はあるんじゃないかと。あと報告と言うか、状況から見てどっちかそういう方面の能力かなって。それだったら今知っときたいという素直な気持ちだよ」

「二司君、もういいよ。終わろう」

「わかった、これだけ。お前らが防護服を着ている意味は?」

「男性、それ長くなるよ。女性は早く終わりたそうだけどいいの?」

「そういう大事な情報をあなた達に与えてもらうつもりはない」

 木崎さんはそうはっきりと告げ、窓を開けて端末を道路に投げ捨てた。

 

 高橋さんが死んだ、か。そうか。おれは改めてその事実を飲み込もうとしていると、

「ねえ、これからのことなんだけど」

 おれが飲み込む前に木崎さんが話しかけてきた。


「何もしないよ、逃げるだけだ。マツザキ達に関してはただ幸運だった。さっきの探索達はあいつらが極端にあほだった。普通ならおれ達は死んでたよ。ただ」


 フロントガラスに落ちる雨が気になったおれはワイパーの動く速度をを1段階早め、やはり違うなと思って戻した。


「ただ?」

「ただ、おれが少し感じたのは」

「躊躇しなくてもいいことに対しての不安?」


 なんだろう。全然関係ないんだけど。おれは横目で木崎さんを見た。

 

 木崎さん住み始めたころに比べると伸びたな、髪。肩に届きそうだ。パーカーのフードをかぶったままでもわかる。というか単純に。


 本当にこの人がいてよかったよ。おれは心の底からそう思った。


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