第17話 大丈夫な方
文字にするのが困難な叫び声と共に、おれが刺した男、語尾がうるさい男がその場で倒れこんだ。
また防護服か。こいつら全員これ着てんの?というか顔のとこ開けてたら意味が。
「あ、ああ。すまん。悪かった。おれは、おれはやる気はないんだ。最初から。ただ着いて」
その場にへたり込んだトマトは上着のポケットに手を入れながら後退る。
今、それを言われても。あ、いた。リビングに入るドアの後ろに何かを持って隠れている木崎さんに気付いたおれは、転がっている語尾、木崎さんと交互に視線を移す。
おれの意図を察した木崎さんが持っていたダイソン風の掃除機を振りかぶり、倒れている語尾がうるさい男の頭部を殴ると、語尾がうるさい男は呻き声をあげて体を丸めた後その場で嘔吐し、動かなくなった。
「や、やめろよ!そいつはもう駄目だろ!」
トマトの方は後退りしつつ上着のポケットに手を入れ、出す、と言う行為を繰り返している。
なんか持ってたんだろうな、でもあの感じだと使えないっぽいけど。おれは左手に持っていたもう1本の鉄パイプを右手に持ち替え口を開く。
「なんで追ってきてるんだ?」
「す、すまん。おれたちは言われて、来ただけなんだ。悪いな、帰るから」
「帰る?これを連れて?」
木崎さんは動かなくなった語尾の男をちらりと見た。
「いや、おれは。そんなにそいつと、そんなに、別に。本当だよ。たまたま、おれと2人で行けって言われた、だけで」
「そうか、わかった。もう少し落ち着いて話そう」
おれはゆっくりとしゃがみながら鉄パイプをトマトの方に転がした。
「あ、ああ。終わったら、おれはすぐ行くからな」
「二司君。だめだよ、わたしたちのことが知られてる」
「いいんだ。ほら」
トマトと目を合わせたおれは、座ったまま両手を開いて見せる。
「おお、わかった。何が訊きたいんだ?」
後退るのを止めたトマトは強張った笑顔を見せた。
「お前らは何人ぐらいで」
そう言うと同時におれはイメージを持って水浸しの床に触れた。
すると次の瞬間、トマトは自分の足元を見た後、やはり文字にするのが難しい叫び声を上げて床に倒れこんだ。
「木崎さん。早く逃げ」
「ごめん、ちょっと待って」
木崎さんはダイソンの掃除機を両手で握りしめ、その意図を察したおれは小さく息を吐いた。
「こいつらはこのまま置いておこう。あほだ、芯からあほだ。むしろ生きていたほうがいい」
「本当にそう思ってる?」
「ああ、本当にそう思ってるよ」
「ならいい」
木崎さんはダイソンの掃除機を壁に立てかけて玄関に向かう。
「おれは、なあ、おれはどうなるんだ。こんなに、血が。いてえよ、なあ、いてえんだよ。駄目だよ、なあ、おれはどうなるんだよ。頼むよ、なんとかしてくれよ……」
どうかしてるな。この状況でおれに頼むのか?
床に顔を付けたまま嘆願するトマトを無視して、おれは木崎さんを追った。
「ねえ、これ」
玄関にいた木崎さんは車の鍵と思われるものを手におれを見た。
「車か」
「二司君って運転できる?」
「一応は」
「じゃあお願い」
木崎さんから鍵を受け取ったおれは久しぶりの運転に緊張しながら外に出て、そのまま家の前に停まっていた車に乗り込んだ。
「とりあえず移動するから。場所は適当に」
走っている所を500回ぐらい見たことがある軽自動車の車内は、何度か乗ったことがある車の雰囲気に近くおれは少し安心した。
「うん……。お願い」
リュックを抱えて助手席に座った木崎さんはそう言って俯く。
「木崎さん、しょうがないよ。こういう世界になっちゃったんだから」
「それはわかってるんだけど」
「大丈夫だった方でしょ。多分」
エンジンを点けたおれはライトとワイパーの確認後、ギアをドライブに入れる。
「うん、さっきの正当化の話。あの場ではわたしも納得したんだけど、まさかここまで……」
「後から来るんじゃないかっておれは思ってるけど。だからその時に悩めばいいよ」
「そうだね、そうする。あ、なんか音しない?」
「音?」
そう言われればそんなような感じも。気になったおれは上着のポケットを探ると、端末が振動している感触があった。
なんだよ、これ。いつ誰が入れたんだ。
見たことがない端末のモニターは通話の通知を表示していた。




