第14話 ワゴン
「もう12月半ばだよ。今年もすぐ終わるね」
横を歩く木崎さんの吐く息は白く、おれはいくつかの記憶がいくつか呼び覚まされる。
近隣住民しか通らないこの道路でも、夕方から夜にかけての時間は多少車両の行き来はあったが今は気配すらない。
しかし街灯が機能していること、視界に入るいくつかの住宅に明かりが点いていることでおれは少し安心していた。
「今年というかもうすぐ世の中が終わるよ。まあ全部元に戻す能力もあるだろうけど」
最高だよ、このブーツ。そして防水スプレーの威力もばかにできない。おれは心の底からマギーが履いていたブーツを買ってよかったと思いつつ、小さめの水溜まりはあえて避けず足を踏み入れていた。
「その考えって、死んだら全部終わり、と同じじゃない?」
「まあその辺はね、拠点でゆっくり考えれば。どこにあるのかわからないけど」
「そっか拠点探さないといけないんだ。うーん。じゃあ、とりあえずわたしの家にする?」
「なるほど、木崎さんの家か」
おれは、あー、それがあったか。ぐらいの感情で返したが実際はもう少し興味はあった。
「二司君の家と比べるとね。普通のマンションだし」
「いやあ、そんなことは。で、間取りは?」
おれの家に非常用リュックを取りに戻った頃から、先程の一連の出来事、マツザキ、足ばか、怜子さんの話題は止めよう。という木崎さんからの強い意志が感じられていたので、おれはその辺の話を避けながら木崎さんが住んでいるマンションの確認作業に入り、広さ、階数、築年数、家賃等の情報を聞きだしながら木崎さんの様子を伺ったが、雨とパーカーのフードの影響で表情は読み取れなかった。
「大体わかった。楽しみだよ、人の家に行くのは好きなんだ」
「でも途中にいい場所あったらそこにするから。あ、そうだ。あいつらの集団。紫のワゴンってさ、何か口に出すの嫌じゃない?」
話を避けていたのではなかったのか……?おれは今の言動を踏まえて話の方向を修正する。
「わかるよ、結局あれだな『紫の』の部分に恥じらいポイントがあるよね」
「そう、長いし」
「じゃあ、えー、ワゴンにする?」
「ワゴンね。うん、それでいい。そうだ」
木崎さんは思い出したように続ける。
大丈夫かな、冷蔵庫の中。はいはい、数か月振りだからね。何かやばそうなものあるの?あるとは思うんだけど覚えてなくて。炊飯器は大丈夫なのはわかってるんだけど。じゃあいいんじゃない。冷やしとけば大事にはならんよ。でもこの上下優秀だよな。全然寒さを感じない。そうだよね、値段の割に。8千円ぐらいだっけ?そうそう、これを早い段階で買ってたおれと木崎さんって凄いよ。でも二司君は季節操作の能力でずっと夏の可能性もって。まあね、うん。その可能性も踏まえておれは通気性のいいものも揃えてはいたけど。そうだ、木崎さんの家に湿布あるかな?ない。途中で買っていけばいいんじゃない。そっかあ、開いてたらいいんだけど。でも湿布ってアメリカには無いらしいよ。え、まじで!じゃあどうすんの。鎮痛剤を皮膚から入れるのも飲むのも一緒だから貼る必要はないでしょ。そうなんだあ、他の国はどうなんだろう。西欧諸国は似たような感じだったと思うけど。どこか痛いの?ちょっと腰がね。鎮痛剤飲んだ?いや、飲んでない。飲めばいいのに。うん、そうなんだけどね。それで感覚がなくなるのがちょっと怖いというか。じゃあ湿布も同じだと思うけど。いやあ、あれはまた別だよ。幼少期から培われた安心感が。そういう人が高齢者になって永遠に湿布を処方してそれで医療費が。まあそうなんだけど、ん?
おれは話を中断し明かりが点いていないことを確認してから、近くの住宅の敷地内に入るよう木崎さんを促す。
「木崎さん。いま車の音しなかった?」
「あ、したかも」
おれと木崎さんはカーポート内に駐車していた車の後ろに身を潜める。すると数秒後、目の前を車が通過した。
「ねえ、あれワゴン車じゃない?」
中腰の木崎さんは声を潜めて言った。
「色ちょっとわからないけどワゴン車だったらワゴンかもな。この交通量だし、何か目的があっての」
家を出てからどれくらいだ?5分、10分?どのみちそんなに時間は経っていない。もしあれがワゴンだったら。
ワゴン車が通り過ぎてから数秒待って、おれは中腰まま動こうとしたが、腰がまずいことになりそうな雰囲気があったので、小走りで隣家の敷地に移動し、建物の影からワゴン車が向かった方を見ると、数百メートル先で停車している車が見えた。
止まってるのおれの家の辺りだ。あー、だめだ。あのワゴン車は多分ワゴンだわ。おれは反射的に腰を強く揉んだ。




