第13話 階段からの視点
木崎さんが前、必然的におれが後ろ、という状況で階段を降りたこともあり、怜子さんが書き残したであろうメモ見つけたのは木崎さんだった。
「ごめんなさい、か。これどういう意味かな」
玄関に落ちていたキッチンペーパー拾い、おれは他に情報が得られるか確かめたが、ごめんなさい、という文字しか確認できなかった。
「どうって?」
「いや、何に対してごめんなさいなのかっていう」
「普通に考えれば、『あんなやつらを連れてきてごめんなさい』だし、それ以外にも理由はあったかもしれない」
木崎さんは淡々と言い、玄関のドアノブを掴んだ。
「木崎さん、ちょっと一旦待って。外に紫のワゴンがいるかもしれないだろ。そう言った意味でごめんなさい、っていうの、も?」
え!おれの靴は!?玄関に自分の靴がないことに混乱したおれは、自分が靴を履いていることを思い出し、ゆっくりとドアノブを離している木崎さんに気付かれないよう、少し背伸びをしてから、一応そういう考えもね、と小さく呟いた。
「それなら『気を付けて』になると思うけど。でも、二司君の言った可能性も多少はあるかも」
「だからちょっと探してみよう。怜子さん服もまともに着てなかったし」
「家の中からだけね。高橋さんと紫のワゴンが近くにいるかどうかだけ」
「わかった。じゃあおれ2階行ってくるから、木崎さんは一応1階に怜子さんがいないか確かめてもらえれば」
「うん。あ、そうだ」
ふと思い出したように言い木崎さんはおれを見た。
「わたしの無効化の範囲から出ても大丈夫だったね」
「あー、それね。正直忘れてたよ。でも特に問題はなかったな」
「よかった。じゃあ予定通り1階と2階に分かれて、時間は、5分で。あんまりやっても意味ないから」
「だよな。遠くに行ってるかもしれないし」
おれは腰を軽く揉んでから2階に向かった。
5分後、玄関前に戻ったおれと木崎さんは互いに収穫がなかったことを報告。そして雰囲気に飲まれたおれは、無言で注意深く玄関のドアを開け、辺りを確認しながら木崎さんに、いいよ、ということを身振り手振りで伝え、小走りでおれの家に戻った。
家の電気は点けないほうがいいという木崎さんの意見のもと、停電に備えてリビングに置いていた懐中電灯を使って地下室まで辿り着いたおれと木崎さんは、部屋の真ん中に懐中電灯を置いてそれぞれ端で着替えを済ませ、あらかじめ用意していた避難用品が詰まったリュックに必要なものを追加した。
「忘れ物はない?」
木崎さんは肩にかけるベルトを調整しながら言った。
「どの範囲までを含めるかによるけど、おれとしてはある種忘れ物だらけだよ。ヨギボーは特に思い入れもあるし」
「またいつか戻ってくるから。ローンも残ってるんでしょ」
「ローンはなあ。銀行の人は悪くないけどさ、払えって言われたらおれ笑ってしまうかもしれない。この状況で10年後のことわかりますかねえ、みたいな」
「でもローンが残ってる世界のほうがいいよ」
木崎さんは中央に置いていた懐中電灯を取り、1階へ続く階段に向かった。
「それはローンが無い人間の言い分だよ。そしてちょっと待って。鉄用の水のペットボトルを、うお!」
階段から向けられた光におれは反射的に目を閉じた。
「え、フラッシュ?というか何撮ったの?」
「部屋。特に意味はないけど」
「暗闇の撮影は事前に申告を」
「わかった。先行ってる」
お、あったあった。水が入ったペットボトルを2本見つけたおれは木崎さんを追いかけている途中、同じように階段を数段上った所で振り返った。しかしフラッシュによるダメージを受けた目には暗闇しか映らなかった。
玄関に戻り新しい靴を用意したおれと木崎さんは、家にある透明の傘は目立つんじゃないか。鉄の変換の関係上、両手を空けていた方がいいんじゃないか。この2点から、現在着用している防寒と耐水性に優れていると評判のアウトドア用ウエア(上下セット黒)を信じ、パーカーのフードで雨をしのぎ切ることにした。
「ねえ。ちょっと大きい気がするんだど?」
木崎さんは着用している防寒と耐水性に優れていると評判のアウトドア用ウエア上下セット(黒)の上をパタパタと揺らす。
「逆におれはちょっと小さい気がするな」
するんだど?思いっきりかんでたよな、言わないけど。まったく同じウエアを着用していたおれはどの靴を履いていくか迷った結果、一時期集中して観ていたときに激しく影響を受けて購入したブーツ(ウォーキングデッドでマギーが履いていたものと同じタイプ)を選んだ。
「やっぱりこれLだ。二司君、取り換えよう」
「別にいいんじゃない。着れてるし」
「何かあったときに嫌なのよ。サイズが合わないことでの不利益が」
サイズが合わないことでの不利益?おれはいくつかの状況を考えたが、かなり強引なこじつけすら浮かばなかった。
しかし今後のことを考えて、間を取って上だけにしておこう。と言ったが、リュックを担いでる以上むしろ上を取り換える方が面倒だ、と返され、おれはブーツを履いて靴紐をしめている最中だったこともあり、ここから靴紐をやり直す時間がもったいないから、どうかお願いします。と頼み込んだ。
結果的に木崎さんが折れる形で上だけの交換は認められ、木崎さんは下(L)上(M)おれは上(L)下(M)の状態で家を出た。
思いっきり降ってるなあ。雨は弱まる気配がなく、玄関先でおれはパーカーのフードを紐で締め上げる。
「とりあえず歩くか」
「やっぱり拠点は必要だと思う」
木崎さんはポケットからネックウォーマーを取り出して首に付けた。
「拠点ねえ。この辺住宅地だし電車でどっか、って、動いてないよな」
「それ、わたしに訊いたの?2、3日前に止まったものが今動いてる可能性ってある?」
「ああ、うん。ごめん……」
今は、えー、18時か。何時に拠点は見つかるんだろう。というか何をもって拠点とするんだろう。
おれは自分の腰と歩くとすぐに痛くなるふくらはぎに不安を覚えながら、木崎さんと並んで歩き出した。




