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第11話 腰、コシダ


 どっちって訊かれて言うと思ってんのか?おれは怜子さんを抱えている木崎さんに、行こう、と囁く。


「うん、わかった」

 木崎さんは戸惑う怜子さんを引きずりながら廊下に向かう。


「連れて行かないでくれよ。その女はまだ使うんだ」

「いいだろ。本人も嫌がってる」

 おれがそう言うと同時に、こちらに歩み寄ろうとするマツザキの防護服がコシダと同様に消え去った。


 いいね、木崎さん。むかつくタイミングだ。おれは黄色のスエット(上下)となったマツザキを見てほくそ笑む。


「おい、また消えた。どういうことなんだよ?」

 大げさにお手上げの仕草をしているマツザキを無視し、おれは怜子さんの腕を掴んで廊下に出ると、後ろからコシダの声が耳に入る。


「撃たないけどよ」


 そして次の瞬間にコシダは横壁を蹴って廊下にいたおれたちを飛び越し、玄関を背にしてこちらに向き直った。


「二司君、あいつの足」

「ああ、見たまんまっぽいけど」

「じゃあ、使うよね」

「そうだな。あとはタイミングを」


 目の前に立つコシダの右下肢は、左の1.5倍程度に膨れ上がっていた。


「お前らなんの話だ?こっちは聞きたいことあるって言ったよな」

 

 そう告げたコシダが腰を落とし、右足に重心を持っていった瞬間、ば、か、と口を動かした木崎さんが無効化を発動。バランスを崩したコシダはその場で派手に転び、おれたちは走って玄関から外に出た。



 家の敷地外、歩道に出たおれは横を走る下着姿の怜子さんを見て少し後悔した。


 さすがに下着はきついよな。外は既に日が落ち肌寒く、降り続く雨がさらに体温を奪う。


「木崎さん。とりあえず裏から戻る形でさっきの家にいってそ」

 

 おい、もういんのかよ。コシダが横に立ったのを理解したと同時に、おれは腰部に強い衝撃を受け、あ、おれの腰無くなった。そう思った次の瞬間、歩道にいたおれは道路中央まで吹っ飛ばされた。


「おい、お前か?さっきの変な能力は」

 おれが状況を把握するため必死に頭を動かしていると、おれの上に馬乗りになったコシダは銃を取り出しておれの口にねじ込んだ。


「あ、ご、ああ」

 喉の奥に銃口が当たり、おれは吐きそうになるのを必死でこらえながら、木崎さんと怜子さんが視界から消えたのを確認した。


「まあいい。さっきマツザキにも確認をとった。女のほうだけ生きてればいいとさ」


 鉄が水の逆があってよかった、さらに言うと雨でよかった。

 

 おれが銃を噛み能力を発動すると、銃身が水に変わり、口にいくつかの部品が残る。


「は?なんだ、こ」

 銃を持っていた手に視線を移すコシダ。その隙におれは右手で水溜まりに触れ、ナイフ状の鉄を作り、馬乗りになっているコシダの腹部に突き刺した。


 コシダは一瞬何が起こったのか状況を飲み込めていないようだったが、ゆっくりと下を向いた後、何をした!と叫ぶ。


 体をずらしてコシダから逃れたおれは、口の中に残る部品を吐き出し、よたよたと歩き出す。


 くそ、だめだ。おれはその場に崩れ落ちる。


 腰がまだ戻ってこねえ。感覚はあるんだけど抜けてる感じが。でも2人はどっかに行ったな、それもよかった。あとはここを何とか乗り切れば。


 おれは再び水溜まりに触れ、1m程度の鉄パイプを作って握りしめると、おい、があがごら!コシダが声を上げながら立ち上がる。


「お前、何の、能力?何で急に」

 わき腹を押さえながらおれをにらむコシダの右足が膨れある。


 あいつの能力は右足の筋力とかその辺の強化だろう。さっきも右足で蹴られた。ということは右で踏み出して左を軸に?でも結局体幹が普通っぽいからそこまでの力は出ないような。


「その持ってるのは。そうかお前、武器を」

 コシダはそう言いながら腰を落とす。

 

 あの溜めるような動作。さっきからやってるけど意味あんのか?

 おれが片手を膝について何とか立ち上がった時、予想通りコシダは右足で地面を蹴り一瞬で間を詰めると、おれは視界の端にコシダの足が見えた瞬間、腰の状態から素早くしゃがむことができないと判断し、すとん、と尻もちをつく形で足を避ける。


 右足が空振りする形になったコシダは一瞬よろけた後、そのまま強引に体制を立て直す。

 

 そこは転べよ、くそ。というか色んなところが痛てえ。おれは座ったまま後方に逃げていると、コシダはにやりと笑い、こちらに向かって一歩踏み出す。


 しかし木崎さんの実験は意味があったな。おれは鉄パイプを左手に持ち替えて靴下と一緒に靴を脱ぎ、コシダに投げつけた。


「ああ?お前、何してんだ?」

 コシダを狙った靴は大きく逸れ、それを目で追ったコシダは呆れた顔でこちらを見た。


 おれは体を倒し半ば仰向けになった状態で、右手で持った鉄パイプを振り上げる。


「くだらねえ。おれはお前を、踏み潰して。戻ればいいだけだ。おれは戻れば」

 そう自分に言い聞かせるように呟くコシダの右足はさらに膨張した。


 やっぱりイメージが大事なんだよ。こういう形を作りたいって。それと触るのは手じゃなくてもいいんだ。肘だろうが、歯だろうが、


 足だろうが。

 

 おれはコシダの意識が少しでも鉄パイプに向くことを期待しながら体勢を変え、右足でコシダの左足を狙う。

 コシダはぎりぎりでおれの狙いに気付いたようだが、おれの顔面を狙いを定めて右足を振り上げた。


 同時に、同時だ。いや違う、先に作るイメージを。


 おれは鉄パイプに足の甲で触れ水にし、その水をそのまま右足と一体化するような形状、小型の斧を足首に装着するイメージで鉄を生成。

 そしてその足でコシダの左ふくらはぎ付近を力の限り払うと、肉や筋を切った後、ガツンという骨に当たる感触があり、コシダは大きな悲鳴と共にその場に倒れ込んだ。



 くそ、なんだよこの骨の気持ち悪い感じは。それにさっきの腹のとこ。あんなのはもう。連続変換は出来たが、でもこんな。


 おれは叫び声を上げ続けるコシダと、その体を流れる血から目を逸らし、嫌な感触が残る右足の鉄を戻し立ち上がる。


 だけど、こいつを置いといて、とりあえず木崎さんを。とは思わない。能力がある以上、こいつがどうなるかわからないし、後で出てくるのはしんどい。でも、それを踏まえても早く木崎さん達を探すべきなんじゃないか。いや、違うな。殺したくないんだ。びびってるんだよ、おれは。このまま出血して死んでくれればって思ってる。でも、そう思うのが普通っていうか、それが無くなったら終わりだろ。大体、おれ1人ならいいんだ、おれのことだから。だけど他の2人がまだ生きたいんだったらおれは。だめだ、こういう決断を人のせいにしては。おれの意志でやらないと。


 おれは服に付いた血を見た後、左足を押さえて横たわり叫び続けているコシダに近寄る。


「お前、足を。おれの足を!」


 おれはコシダを無視して、ゆっくりとしゃがみコシダの頭部に触れる。


 内側に向かうこのやり方はやったことないが。おれはコシダの頭部を流れる周辺の水を使い、人差し指からコシダの頭に向かって鉄を生成。

 

 なんとも言えない骨と肉を貫通する感触が指に残り、コシダは動かなくなった。



 おれは大きく息を吐いた後、立ち上がり、軽く腰を左右に回して状態を確認。走れないが歩けなくはないと判断し、木崎さん達を探すため慎重に足を進めた。


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