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第10話 コシダマツザキ

 

 おれと木崎さんが隣家の寝室で息を殺して様子をうかがっていると、車から降りた3人はおれの家の玄関で一度立ち止った後、押し出されるように1人が先に家の中に入った。

 そして数分後、先に入った1人が戻り残りの2人に何かを伝えてから、今度は3人揃って中に入った。



「二司君。こっちで見れるかも」

 木崎さんはシーサーの置物に隠した端末からの映像を、自分の端末に表示させた。


 リビングの隅に置いた端末からの映像は、かなりクリアかつ部屋の広範囲を映しており、現在1人が室内を物色し残りの2人が対面で立話をしている。

 

 そっか、こういう感じね。その映像を見たおれは複雑な気持ちになった。

 

 やってる事は同じだ。おれも勝手に靴のまま入って、なんかいいものあったら持っていこうとすらしてた。

 あいつらがどんなやつらかは知らん。知らんけどやはり自分の家でやられるとかなりくる、それだけになんか、ん?


 自戒に夢中になっていたおれが映像に視線を戻すと、対面で話していた内の1人が防護服を脱ぎ始めていた。


「あれ?高橋怜子さんじゃない?」

 木崎さんはモニターの映像を拡大する。


「そうだな。来てたんだ、い、え、あれ銃?」


 怜子さんの前に立つ男は銃口を怜子さんに向けており、上下繋ぎの防護服を脱いだ怜子さんはがたがたと震えながらその場に座り込んだ。

 

 おお、ここは大丈夫そうだな。怜子さんの前に立つ男が口元のガードを上げて言ったため端末が音声を拾う。


 それを見たもう1人の男は、自分のこめかみを指した後、怜子さんの前に立つ男を指差す。


「あれなに?」

「ああ、怜子さんの前に立つ男を指差したやつ?」

「そう。なんかやってたけどハンドサインかな」

「見た感じ単純に、お前馬鹿か?かな」


 しかし怜子さんはどういう状況なんだ。というかなんであいつらあんな。


 画面の向こうの怜子さんは口元のガードを上げた男の前で一瞬棒立ちになった後、上半身の服に手をかけ、さらにその勢いで下半身も脱ぎ下着のみとなった。


「なあ、木崎さん……。なんかよくわからないけど、これはさすがに」

「わかってる。でもまだ」

 

 木崎さんは見たことのない険しい表情で端末を凝視していたが、おれは現状に耐え切れず立ち上がった。


「ねえ、二司君待って。せめて相手の能力、いや意図だけでも」

「それもわかるけどさ。おれなんて少し後か、もう少し後に死ぬだけだし。それならより良い方向を選んでその過程で、っていう」

「そんなことを今言わないでくれる?」

 木崎さんはさらに厳しさを増した目でおれを見た。


「あ、でも拳銃っぽいのあったけどおれの能力なら」

「銃弾って多分鉛だから普通に死ぬよ」

「……そっか。それならそれで。ごめん、それはまあちょっと想定外だけど。あとしいて言えば、あの服着てるのが気になる。あいつら行っちゃったらわかんないから。この理由をおまけに付けよう」


 はあ。木崎さんは大げさにため息をついて自分の首元をマッサージした。


「わかった。行く、わたしも行く。変に隠れたほうが面倒だから玄関から」

「いいよ、じゃあ」


 おれが先に廊下に出るドアに向かうと、木崎さんは端末を自分のポケットに入れながら、二司君は、と後ろから呟く。


「そんなにあの人を助けたいの?」

「まあね、出来るなら」

「そう。わかった」

 木崎さんはジャージのジッパーを上げた。



 玄関のドアを開けたおれは、状況を把握していながらも知らないふりをするというかなり抵抗がある行為。つまり、あれ、怜子さん?来てるのー?と大声で室内に向けて言った。


 横にいた木崎さんが一瞬横目でおれを見て視線を戻すと、銃を持っていた男がやってきて、

「おい、お前ら服無しか?」

 驚いた様子でこちらを見た。


 思ったより若いな。防護服により判断は難しいがおれの目には20歳前後に見えた。


「服?それより怜子さんはいるのか」

「ああ、向こうにいるわ」

 男は振り返って歩き出した。


 おれはかなり迷ったが靴のまま家に入り、木崎さんも無言でおれに続いた。



「マツザキ、いたぞ」

 リビングに入った男がそう言うと、怜子さんが顔を上げる。


「え、来てくれた、の……?」

 怜子さんはうずくまったまま、不安そうな顔でおれと木崎さんを交互に見た。


「試し用は肌も大丈夫だし、こいつらも普通だ。早く口を開けろ」

 

 銃を持った男はそう言ってソファーに腰掛け、それを見たおれと木崎さんは怜子さんの横に移動し、大変でしたね、大丈夫ですか、と2人で声を掛ける。

 

 マツザキと呼ばれた男は、銃の男と同様に口元を開けた後、目が合ったおれに、きみたち服は?と尋ねてきた。


 また服かよ。こっちも銃の男と同じぐらいだな。20歳前後、いや10代後半?まあ20歳前後も10代後半と言われれば。まあとりあえず年齢はいいや。能力としては……。だめだ、銃自体が能力の可能性もあるし、今の時点では広すぎて。おれは一旦能力について考えるのを止めた。


「おれたちは持っていない。さっきも聞かれたけどそれ必要なのか?」

 取り繕っても意味がないと思ったおれは素直に返した。 


「なるほど、そうか。あ、面倒だから一応説明すると、タカハシだよね、そこの女。要は地雷原を先に歩かせるみたいな使い方だよ。他に意味はない。悪いとは思うけどね。だって今はこんな事態だし、おれとコシダの」

「おい、マツザキ。もういいだろ」

 ソファーに座っていた男、コシダは拳銃を右手の中でくるくると回す。


「あー、わかったよ。コシダとおれが聞きたいのはさあ。なんで君たちがこれまで無事だったかっていうことだけで」

 

 マツザキがそう言った瞬間、コシダの防護服が文字通り消え、グレーのスエット(上下)姿になる。


 2人は一瞬体を硬直させた後、コシダはおれに銃口を向け、マツザキは右の手の平を開く。


 こいつらの防護服は能力で作られてたのか。おれは木崎さんが能力を使ったことに気付いた。

 でも銃は消えない。あれは本物というか銃としての機能しかないってことね。それに銃じゃない方、マツザキは右手を使うのか?でも、あんまり捉われないようにしないとな。


「なあ、もうこれ以上はいいだろ?こっちは別にお前らを今どうこうしようというわけじゃ」

 おれは出来る限り含みを持たせ言った。


「よくねえなあ。おれの服どうした?」

 そう言って引き金に指を掛けたコシダを制すように、まあ、待て。とマツザキが割って入る。


「撃つなコシダ。もったいない」

 

 おれとコシダの中間に立ったマツザキはぐるりと首を回した。


「で、いまのどっち?」


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