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悪役令嬢は大嫌いな残念王子に籠絡される  作者: 黒猫かりん
第2章 ときめき学園ラブリー生活
24/84

24 未来の主人 ※バージル目線


 俺はバージル=バジョット。バジョット伯爵家の4男である。


 バジョット伯爵家は、何故か男が生まれることが多く、俺が生まれた時も、両親はまた男かとがっかりしたらしい。酷い話だ。


 そんな訳で、俺は男兄弟に囲まれて育った。


 俺の父は、ある伯爵家の二男で、国王陛下の近衛頭として身を立てて一代限りの爵位を賜っている。息子である私達兄弟は、そんな父親を尊敬して、小さい頃からずっと、チャンバラごっこならぬ兵士の真似事をして遊んでいた。

 そして、成長しても日がな毎日行っていた訓練ごっこをやめなかったものだから、相当に腕が上がっていたらしい。

 腕試しに、兄弟全員で王都祭りの格闘大会少年の部に出てみたら、軒並み上位を攫ってしまい、バジョット伯爵家の兄弟は腕っぷしが凄いと有名になってしまった。




 そんなある日、王宮から、この国の第一王子のラファエル殿下と一緒に、兵隊訓練の授業を受けないか、との誘いがきた。


 なんでも、第一王子たっての希望らしい。第一王子は割となんでも優秀にこなしてしまうので、各分野でライバルとなれる優秀と思しき令息を集めているんだとか。


 その話を聞いて、両親は喜んで、俺に参加してこいと命じてきた。

 どうやら、優秀さを見せれば側近候補になれるだろうということで、親世代の貴族達は、声をかけられるかけられないに関わらず、こぞって自分達の息子を差し出しているらしい。特に、第一王子と同じ歳だと、将来セイントルキア学園に同学年で通える分有利と考えられているらしく、我がバジョット伯爵家においては、第一王子と同じ歳の俺に白羽の矢が立ったようだ。


「――どの科目でも優秀ねえ。ジル、お前、ラファエル殿下がどこまでできる奴なのか試してこいよ」


 そう俺にそそのかしたのは、二番目の兄だったか、三番目の兄だったか。

 別に、言われなくてもそのつもりだった。


 バジョット伯爵領から王都までは遠い。毎日、授業一つのために領地と王都を往復することはできないのだ。だから、第一王子とやらのために、数ヶ月単位で王都に滞在することになる。そしてそれは、他の呼び出された令息達もおおよそ同じだった。

 貴族の令息は通常、セイントルキア学園に通うまでは、自分の家の領地で過ごすものだ。各家で家庭教師を雇い、領地のことを勉強しながら、家族で過ごす。要するにその期間を、第一王子のために短くしなければならない。


 それに、呼び出された令息達は、全ての授業を一緒に受ける訳ではなく、得意分野の授業だけを第一王子と共に受けるのだと聞いている。何やら、どの科目も進度が早すぎて、全ての授業を一緒に受けられる者はおそらくいないだろうという理由だった。理由はともかく、呼び出された令息達は、自分達の学習のために、別途家庭教師を雇わなければならない。その費用は王家が負担するとのことだったが、それにしても一大事業である。


 第一王子は、そこまでして令息を集める価値がある奴なのだろうか。


 俺だけではなく、呼び出された令息達は一様にそう思っていたらしい。

 だから、俺達の第一王子を見る目は、非常に厳しかった。



「初めまして、バジョット卿」


 初めて会った第一王子は、ふわふわの金髪に深緑色の目をした、スラリとした男だった。

 ある程度鍛えてはいるようで、筋肉がない訳ではなかったが、我が家の基準からすると少し細すぎる。いかにも女性受けしそうな爽やかな笑顔の男だった。


「皆、僕のために集まってくれてありがとう。ちょっと大袈裟になりすぎてて、正直びっくりしてるんだけど。試験運用ということで、とりあえず2ヶ月、一緒に授業を受けてみてほしい。その後は、各自の希望に任せるから」


 そうは言われても、俺達は家族の期待を背負っているのだ。このままあなたに気に入られて、側近候補になってこいと、どの親も目をギラつかせている。


 そんな俺達の思いをよそに、訓練講師が手を叩いた。


「まずは、集まった皆の実力を見せてもらう。目の前で手合わせ訓練をしてもらおうか」


 そう言うと、講師が対戦の組み合わせを決めていった。

 なんと、俺の相手は第一王子殿下本人だった。


「……先生、なんでこんな格差マッチにするんですか。バジョット卿、めちゃくちゃ強そうなんですけど」

「殿下のために集まったんですから、こうするのが一番納得がいくでしょう?」


 にやにや笑っている講師に、木刀を構えながらげんなりした顔の第一王子。


 なんだ、もしかして第一王子が勝つとでも思っているのか?


 正直いらっとして、俺は手を抜く気が全くなくなってしまう。


「勝利条件は?」

「相手が負けたと思った時か、私が判断した時にしましょう」

「はあ……」


 そうして、やる気のない顔の第一王子との対戦が始まった。


 俺は手に持った木刀で慎重に打ち込みを入れながら、相手の様子を伺う。


 確かに、よく鍛えている。動きを読もうとしても、上手く重心移動を見せないように工夫しているし、力の差を分かっているのか、できるだけ俺の打ち込みを受けないように、避けに徹している。第一王子が避ける度に、周りの令息達から歓声が上がったり、「バージル、そこだいけ!」などの声援が上がったり、意外と盛り上がってきた。


「殿下、避けてばかりでは負けですよ」

「だから、格差ありすぎだって! 全然力が違うじゃないか!」


 やいのやいの言ってくる講師に、第一王子が割と必死の形相で叫んでいる。

 俺は、その第一王子の態度に、仄かな苛立ちを感じた。


「――へえ、まだ喋る余裕があるんですね」

「ちょっ……」


 俺はそのまま、一歩踏み込んだ。


 カン! という音と共に、第一王子の剣が吹き飛ぶ。


 もうこれで十分だろう。






 そう油断した一瞬、第一王子の目つきがぎらりと変わった。



「え」



 ――気がつくと、空を仰いでいた。


 いつのまにか俺の剣を奪っていた第一王子は、ふう、と息を吐きながら、その剣先を俺の喉元に突きつけている。



「……僕の勝ちでいい?」



 しん、としていた。

 俺も含め、皆何が起こったのか、理解できていないようだった。 



「――そうですね。殿下の勝ちです」



 講師の言葉に、ようやく、わっと歓声が上がる。


 俺はまだ呆然としていて、何が起こったのか理解できなかった。

 講師が近づいてきて、苦笑しながら説明してくれる。


「バジョット卿。殿下の剣を飛ばして油断しましたね? その隙をついて、殿下があなたの右手側から、手首を掴んで足を払ったんですよ」


 第一王子も――殿下も近づいてきて、にこにこ笑いながら俺に手を差し出した。


「力の差は歴然だったからね、奇襲しかないかなって。油断してくれてよかった。初見殺しの技だから、もう君に勝てるチャンスはないだろうなぁ」


 柔道を齧っててよかった……という呟きの意味は分からなかったけれども、殿下を見て俺は、顔に熱が籠るのを感じる。


 事前の二人の会話を聞いて、殿下が勝ち目がないと思っていないことを知っていたのに。それを聞いて、もう手を抜かないとか思ってたくせに、俺は結局奢っていたのだ。こんな細腕の奴に、負ける訳はないと侮っていた。


「バジョット卿?」

「いえ、その……油断した自分が恥ずかしくて。――完敗です、殿下」


 そう言って差し出された手を取ると、殿下は目を瞬いて、そして、心から嬉しそうに笑った。


「参ったな。本当にもう勝ち目がなさそうだ」

「そうですか? ではせっかくなので、試してみてもいいですか」

「え」


 笑顔のまま固まる殿下に、俺はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。


「俺……私は、バジョット伯爵家の息子代表でここにきました。無惨に負けただけとあっては、兄達や弟達に顔向けできないのです。殿下の慈悲に縋りたく、是非」

「そ、そんな悪い顔をして情に縋れると思うなよ!? 他の生徒の対戦もあるし、だめですよね先生?」

「いいんじゃないですか、面白そうだし」

「先生!?」


 その後、結局3回ほど殿下と打ち合ったけれども、全て俺の圧勝だった。

 けれども、もう殿下を侮る目をした令息は一人もいなかった。むしろ、自分達より筋力に劣る殿下を、伸び代ある後輩を見つけたような目で見ていた。

 俺との対戦を終えた殿下はぐったりしていたけれども、俺達の目線に気づいた後は、今後の自分の命運に気がついたのか、青い顔をしていた。



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