4 猫問題
その翌朝。
私はいつものように学校で、ホームルーム前に美加子たちと駄弁っていたんだけど。
「おはよ~、はぁ……」
仲良しの一人、亜希がなんだかぐったりくたびれたみたいにして、チャイムが鳴るギリギリで教室に入って来た。
「おはよう、どうしたの?」
「なんか朝から疲れてる?」
私と美加子が口々に尋ねると、亜希が「聞いてよぉ!」と泣きついてきた。
「ウチの店に夜中に猫が入って、うるさかったのなんの!
それに悪戯して回って店の中がぐっちゃぐちゃ!
私も寝不足な上に、朝早くから片付けさせられたぁ!」
「うわぁ」
「大変そう」
私と美加子は、驚いたのと可哀想なのとで、表情に困る。
亜希の家は、家族で食堂をしているんだけど。
そのお店の中で猫が暴れまわって、朝から家族全員でてんやわんやしたんだって。
相手が猫なもんで衛生上の問題で業者に消毒を頼んだから、今日は営業できなそうだとのこと。
うわぁ、大変そうだなぁ。
私が亜希に同情していると、美加子が「よーしよーし、なぐさめてしんぜよう」と言いながら亜希の頭を撫でていた。
それにしても、なんか最近聞いたような話だけど。
あ! もしかして昨日雅貴が言っていた話の猫だったりする?
「ねえ、最近その猫の悪戯って、多いのかな?」
私の質問に、美加子が首をひねる。
「あ~、そうね、そう言えばよく聞くかも、猫の悪戯」
「そうなの?」
「うん、ウチの近所の家が、キレイにしているお庭をぐっちゃぐちゃにされて怒ってた。
他でも、たまに似たような話を聞くかな」
美加子がそう説明してくれる。
っていうか、美加子が知っていることをなんで私が知らないんだ。
いや、わかっているって。
夜が忙しいから家族とのおしゃべりも早々に切り上げているから、こういうのを聞き漏らしているんだよね、たぶん。
くうっ、時間が足りない!
一日が二十四時間しかないって短くない!?
「それ、ウチのと同じ猫なのかなぁ?」
「それは、捕まえてみないとわからないんじゃない?」
亜希と美加子がそう言いあっているうちに担任教師がやってきて、それぞれ自分の席へと散る。
「出欠とるぞー」
担任の話を聞き流しながら、私は考える。
私ってば、雅貴からそんなサイアク猫と一緒にされかけたの?
冗談じゃないんだけど!
私はいつもお行儀よく散歩しているし、余所様のお宅に迷惑なんてかけたことないやい!
そんな紛らわしい猫がいると、ひょっとしたら私の夜散歩が邪魔されちゃうかもしれない。
猫ってだけで疑いをかけられて、物を投げられたりとか、ありそうじゃない?
全く、世の中の大半の大人しい猫たちには、いい迷惑だわ!
ようし、こうなったら私がその猫を捕まえて、変な疑いを晴らしてやる!
私がそんな決意を固めているうちに、いつの間にか授業が始まっていて。
先生に名前を呼ばれているのにまるっと無視してめちゃめちゃ叱られたのは、家族や雅貴には知られなくないかな。
それから時間が過ぎた。
私は今、夜の雅貴のお屋敷にいる。
いつもなら、ここでまったりと結構長居をするところだ。
なにせここへ立ち寄る目的の一つが「私と雅貴とのふれあい」なわけで、そのために執事さんとメイドさんが、私を出来る限り長く留めようとして、ホットミルクとお菓子でもてなしてくれるの。
まあその当の雅貴は、私が持ち込んだお母さんの巻物にかかりっきりなんだけどね。
私はたまにお母さんについての情報を喋るだけ。
ねえ、これってふれあえているの?
こんな風に過ごすのがいつもだけれど、今日はちょっと違うのだ!
「あのね、今日はちょっと用事があって、早く帰らなきゃいけないの」
「まあ、そうなのですか?」
私をブラッシング中のメイドさんが、残念そうにする。
「ごめんね?」
私はメイドさんに謝りながら、ブラッシングが終わったところで貰ったお菓子をムシャ! と一気に頬張る。
だってお残しは申し訳ないし、もったいないじゃん!
……けど、頬張り過ぎてちょっとむせた、ミルクミルク。
ホットミルクで喉を潤したし、さて行くぞ!
「じゃあね、雅貴!」
「……うん」
雅貴に一応帰る挨拶をすると、顔を巻物から上げないままに生返事をされた。
ねえ、それってそんなに面白い?
私、妖術っていうのは使いたいんだけど、中身が謎文字過ぎて頭が痛くなってくるんだよね。
とにかく挨拶もしたから、私はとっとと廊下へと出ていく。
「坊ちゃま、もう少し熱心に弥奈様をお引止めくださいませ!
ろくに会話もせずにいて、きっと弥奈様は寂しがっておられますよ!」
メイドさんのそんな怒鳴り声が聞こえてきたけど、雅貴がなにか言い返したりするのは聞こえて来ない。
きっと巻物を読んでいるんだろう。
私としては、雅貴が熱心に巻物を読んでくれれば、早く術が使えるようになるかもだから、全然いいんだけどね!




