3 あやかし語
こうして私がウマウマとホットミルクを飲んでいる間に、雅貴がお母さんの巻物をスルスルと広げている。
「ねえ、読める?」
「もちろんだ。
ウチの一族に残されていたものと、同じ文字だ。
恐らくあやかし同士のコミュニケーションで使っていた文字だろうと、俺は推測している」
私が口周りを牛乳まみれにしつつも尋ねると、雅貴は巻物から目を離さないままそう答えた。
なんと、つまりはやっぱりあやかし語だったのだ!
それにしても、私には謎模様にしか見えないあの本の中身を読めるなんて、すごいな雅貴!
そんなに優秀だったら、きっとこの巻物の術なんかもパパっとわかっちゃうかも!?
私がそんな期待とホットミルクで胸とお腹が膨れさせてまったりしていると、やがて雅貴が巻物から顔を上げた。
「まだ断片的にしか読み取れないが、石動家にあった資料よりもずっと実用的だ。
素晴らしいぞ弥奈!」
若干興奮したような雅貴に、私は「そんなにスゴいものなの?」って思って覗こうと、雅貴の座るソファの背もたれの上にピョイって飛び乗る。
そんな私に雅貴は全く気付かない。
「コレは読破し甲斐があるというもの、これまでいくつカスのような資料を掴まされてきたか……!」
嬉しそうな雅貴に、私は「じゃあじゃあ!」と声を上げる。
「しばらくその巻物をこのお屋敷に置いておくからさ、私にも使えそうな術を見つけておいてくれたら嬉しいな!」
私は巻物の中身がわかるっていうので、なんだかテンションがあがっちゃって、気が付いたらそんなことをお願いしていた。
だってこれで私にも、猫になる以外の術が使えるようになるんだよ!?
興奮してくるよね!
「持ち帰らないのか?」
これを聞いた雅貴が不思議そうに尋ねてくるのに、私は巻物をここへ置いておく理由を話す。
そう、楽をして術を知りたいだけじゃないのよ。
「だって、最近弟が漫画目当てで、私がいない時に部屋に入ってくるの。
だから置いておくとなんか危なっかしくって」
一応ね、見つかりにくい場所にと思って、机の引き出しの一番奥に隠してはいるんだけど。
どういう拍子に見つかるか、わからないじゃない?
「そんなもの、触れられなくする術をかければいい……ああ、それがまだできんのか」
雅貴は解決策を口にして、すぐに自分で否定した。
え、そんな術があるの?
だったら内緒にしたいものとかを全部、その術にかけてやるんだけど。
で、結局引き受けてくれるのかなぁ?
私が首を傾げて答えを待っていると。
「興味があるから、引き受けてやってもいい」
やった、これで術を使えるようになる!
お母さんみたいなあやかしへ、まず一歩前進だよ!
私が背もたれの上でピョンピョンしながら喜んでいると、雅貴に「うっとうしい!」って文句言われた。
せっかくやる気になってくれている雅貴に拗ねられては困るんで、私は大人しくソファの背もたれから床に降りる。
そうすると、雅貴が「そうだ」となにかを思い出したように呟いた。
「弥奈。お前もしや最近猫の姿で悪さをしてはいないだろうな?」
なにそれ⁉ ちょっと、私をなんだと思っているの!?
「私、そんなことしないもん!
私はいつもお行儀よくお散歩していますぅ!」
「とはいえ、我が家内不法侵入したがな」
言い返す私に、雅貴があの件を蒸し返す。
「それは、空き家だと思ったんだもん!」
「空き家でも、断りなく立ち入れば立派な犯罪だ」
私の言い訳に、雅貴が「フン」と鼻を鳴らす。
「うぐぅ、でもでも、謝ったじゃん!」
私は尻尾をビッタンビッタンと床に打ち付けながら、頑張って反論する。
そんな私を、雅貴がジロリと見下ろしてくる。
「とにかく。怪しげな猫の噂を聞いた。
くれぐれも間違われるなよ。
悪戯猫が伴侶だなど、断じて許さんからな」
命令口調で言われたのに、私はこれ以上なにか言い返せず、「気を付ける」とだけ言う。
全くもう、悪戯猫のあたりにイラっとするべきなのか、伴侶って言われたことにドキドキするべきなのか。
私ってばホント、忙しいんだよ。




