6 似ている同士
「キャンセル、キャンセルを求めたい!
結婚があるなら、離婚だってあるよね!?」
私がそれでも悪あがきをしようとするのに、石動は「ふん」と鼻を鳴らす。
「通常の婚姻であればな。
だが、我々は媛君直々に言われたんだぞ?
『違えれば呪いを授ける』と、弥奈だって聞いただろう」
……そうだったっけ?
そのあたり、あんまり覚えていないや。
首を捻る私に、石動が語る。
「媛君の呪いとは凄まじいもの。
一族の歴史として語り継がれているが、口にするのも恐ろしい……」
え、そうなの?
そんなに怖いことされるの?
ねえ、それってどんな?
あんまり怖いと聞きたくないけど、聞かないのも怖いんだよぅ……!
つまり、離婚(この言い方も、結婚したつもりがないからどうかと思うんだけど)しようと思ったら、大きなリスクがあるってことで。
そうまでして離婚するより、媛君とやらに従う方がいいって、石動は考えているみたいだ。
こんなの、こんなのってないよ!
「結婚って、夢と希望が詰まっているのにぃ!」
私が床の上でジタバタするのを、石動が鬱陶しそうに見ている。
「俺だって文句はあるさ、よりによってなんでこんな猫なんかと婚姻を結ばねばならないのか」
「猫なのは、石動がなれっていったんじゃんか!」
私が元から猫だったみたいに言うな!
でもでも、なんで私なの?
「私、石動サンのところの媛君なんて知らないよ?
そういうの、同じ一族とやらからお相手が出るものなんじゃないの?」
この私の意見に、全力で嫌そうな顔だった石動が眉を上げる。
くっ、イケメンだとそんな仕草も様になるんだな!? なんか腹立つぅ!
そんな一人でジタジタしている私に、石動が言うには。
「知らない?
石動の名はともかくとして、あの社に満ちる妖気に、あやかしでありながらお前はなんとも思わなかったのか?」
「……? なんともって、なにが?」
私は石動が言いたいことがわからない。しいて言えば、あの掛け軸の絵はなんだろうって思ったくらいかな。
きょとんとしている私に、石動が「馬鹿な、なんという鈍さ……」って愕然としている。
え、なんなの? 私のなにが鈍いの?
「始祖の姿を映すことができるというのに?
いや、だからこそ力に鈍いのか?」
「ねぇねぇ、だからなんのことぉ?」
一人ブツブツ言っている石動に、私はしびれを切らして問い詰める。
これに、石動が疲れたような顔で目を合わせた。
「そもそもだ。
弥奈の一族には『血の誓約』が伝わっていないのか?」
こう尋ねられて、私はちょっとだけ言葉に詰まる。
「お母さんに教わったのは、この猫になる術だけだもん……小さい頃に死んじゃったから」
そう話した私は、しょんぼりと項垂れる。
私はあやかしを、お母さんしか知らない。
他にもあやかしがいるって言うのも聞いたことがない。
もしかしたらいつか話してくれるつもりだったのかもしれないけれど、少なくとも幼い私には話さなかった。
「……この猫になるのが上手にできたら、新しい術を教えてもらうはずだったの」
私がなんでかこんな誰にも言ったことのない話をボソボソとするのに、石動は「そうか」と頷くと、私を床から拾い上げて、自分の膝の上に乗せた。
この部屋の絨毯だって寒くはなかったけど、石動の膝の上は温かかった。
「始祖返りを見事にしてみせるのに、他の事に対して無知そうなことが不思議だったが、そういうことか」
石動が私の頭をそっと撫でるのを、私は黙って受け入れる。
お母さんがあやかしだって言う話を、今初めて誰かにしている。
そう思うと、感激するのとお母さんが懐かしくなったのとで、なんだか胸がいっぱいになってきた。
そんなちょっぴりメソメソしている私を、石動は黙って膝の上に置いていたけど、やがてボソリと言う。
「ならば、立場は俺と似たようなものか」
「そうなの?」
メソメソに釣られてグーンと下がっていた頭を、私はグッと上げて石動を見ると、アイツは「フン」って感じに笑った。
「ああ、俺もあやかしの妖術を知り尽くしているわけではない。
我が一族のほとんどはとうの昔に始祖の姿を失ってしまった、妖術など持たないほぼ人間だからな」
ほぼ人間って、もうあやかしとしての力がないってこと?




