プロローグ
この街には、夜にだけ現れる願いをかなえてくれる不思議な猫がいる。
その正体は……私なんだけどねっ!
最初に、私のことを自己紹介!
私は水城弥奈、皆は弥奈って呼ぶの。
明日にK中学に入学する新一年生よ。
現在、一軒家でお父さんと弟との三人暮らし中だ。
勉強は大の苦手で、その代わり体育は得意。
髪を長くしているのがうざったくって短くしているのと、ちょっと気が短くってケンカっ早いところがあるせいで、まわりからは「男勝り」って言われることが多いかも。
そんな私だけど、人には言えない秘密があって。
実は私、あやかしなんだ!
……といってもね? 本当のところ、大したことができるわけじゃないんだよね。
私のお母さんってご先祖様があやかしな家系だったんだけど、色々教えてくれるはずだったあやかしの先生であるそのお母さんが、私の小さい頃に死んじゃったから。
元々あんまり身体が強くなかったらしいお母さんは、私の弟を生んでから体調が戻らなくって、風邪をこじらせてそのまま……ってこと。
お母さんがいなくなっちゃったのはすごく悲しかったけど、正直てんやわんやしていて悲しいどころじゃなかった。
なにせ生まれたばかりの弟の世話を誰がするのか? っていう問題が起きちゃって。
まだ小さかった私にも、子育ての役目が舞い込んできたんだから!
ゴホン! そのことはもういいのよ。
そう、そのせいで、私はお母さんからあやかしの術ってやつをちゃんと教えてもらえていないってことなの。
お母さんのお父さんとお兄さんっていう人とは会ったことはあるけど、その人たちはあやかしじゃあなかった。
なんでも、あやかしの力は女にしかないものなんだってさ。
だからお母さんも、病気でわたしが生まれる前に死んじゃったおばあちゃんから教えられたって言ってた。
そんなわけだから、私に残されたあやかしの妖術を扱う方法は、お母さんから託された古ーい巻物しかないってこと。
でもこれがね、文字とかが謎すぎて全く読めないの。
だって、絶対に日本語じゃないもの!
かといってテレビでたまに見る他の国の言葉っぽくもない、あやかし語だよ、あやかし語!
けどね、それでもお母さんから唯一「これだけ」って教えてもらったのがあって、それは猫に化ける術。
猫の姿は、ご先祖様のものなんだって。
ご先祖様はどうやら化け猫のあやかしだったみたいだよ。
それも受け継ぐのが女限定ってことは、メス猫のあやかしだったんじゃないかなぁ?
この猫化の術はそれからかなり使いこんだから、今でもかなり自信があるよ。
なにせ未だに本物の猫とは違うかも? って、誰かに疑われたことがないからね!
この猫の姿で夜に散歩するのが、私のお気に入りの時間なの。
ちなみに、お父さんと弟はあやかしの存在すら知らないし、私が猫に化けられるっていうことも気づいていない。
それはお母さんのお父さんとお兄さん――お祖父ちゃんと伯父さんも同じだ。
だから私も、猫になって家から出るのにも気を使うのよ。
けど今にして思えば、その日は散歩なんてしなきゃよかった、と私はあの時のことを思い出す。




