【ヴィオル視点】討伐の前に
その週の無の日、俺は再びセレン嬢を我が家へ招いていた。
残念ながら他に安心してセレン嬢を連れて行ける場所を確保できなかったので仕方がない。セレン嬢も少しは慣れてくれたようなのでよしとしよう。
セレン嬢が着替えている間に手早くお茶の用意をする。いつも彼女の部屋で美味い菓子を振る舞ってくれることへの感謝の気持ちだ。
ただ、先日セレン嬢は太ったと嘆いていたから、あまり甘さを感じないものを用意しようと思う。喜んで貰えるといいのだが。
「ヴィオル様……?」
キッチンで仕上げの作業をしていたら、セレン嬢がおずおずと顔を出す。
「ああ、着替え終わったのか」
「はい。……何をなさっているのです?」
「ああ、デザートを作っていた。見るか?」
「えっ? 作っ……?」
驚いたような声を上げるセレン嬢を伴って、そのまま俺はリビングへと戻る。キッチンで作ってから持っていこうと思っていたが、目の前で作った方が良さそうだ。
「セレン嬢、そこのティーセットをテーブルに運んでくれるか?」
「はい。ヴィオル様はデザートを作ることも出来るのですか?」
「まさか。俺にそんな才能はない。だが、混ぜることくらいは出来るからな」
きょとんとした顔のセレン嬢に器の中身を見せてやる。
「食ったことはあるだろう? ヨーグルトだ」
「ええ、栄養豊富で美肌効果もあると名高いでしょう? よく食べますわ」
「そのヨーグルトに砂糖をちょっととフルーツをざっくり切ったのを入れて混ぜる」
「綺麗……! ヨーグルトの白にフルーツの色が映えますわね!」
「で、これを冷やす」
俺はヨーグルトの上に手をかざし、一気に魔術で凍らせる。
「キャッ!?」
空気までが局所的に凍り付いて、俺の手と器の間の空気がキラキラと光を反射して綺麗だ。驚くセレン嬢の目の前で、一瞬でフローズンヨーグルトが出来上がった。
「あとは切って皿に盛るだけだ」
サクサクっと切ってセレン嬢の皿に盛ってやれば、セレン嬢は目を輝かせてフローズンヨーグルトを見つめている。
「断面から色々なフルーツが見えて、とても華やかですわ!」
「混ぜるだけなのに結構見栄えがいいだろう? 健康と美容にもいいらしいし、食ってみないか?」
「ぜひいただきますわ! 凍らせたデザートなんて滅多に食べられませんもの。凍らせる設備を持っている方自体が少ないというのに、ヴィオル様にかかるとなんでも簡単なのですね」
なにがおかしいのかくすくすと笑いながら、セレン嬢は即席フローズンヨーグルトを頬張った。幸せそうに目を細めているところを見るに、どうやら気に入ってくれたようだ。
「美味しい……! 甘すぎなくてすごくさっぱりしたお味だわ。ほのかに甘いのはフルーツの甘味なのかしら」
「ああ、桃が入っているから、多分それじゃないか?」
「まさかこんなに美味しいデザートを、ヴィオル様が手ずから作ってくださるなんて思いませんでしたわ」
「混ぜただけだがな。いつも美味いものを食わせてもらっている礼だ」
「そういえばヴィーはどこに行ってしまったのかしら。さっきから姿が見えなくて」
来たか。
いつか問われると思っていた。
今後同じ質問が出ないように、もっともらしい事を言わねばなるまい。俺はコホンとひとつ咳払いをして重々しく告げる。
「ヴィーには俺の仕事を代行して貰っている。俺がセレン嬢と出かける時には、これから多分そうなる。さすがに俺と同スピードでは出来ないからな、今頃必死で頑張っている事だろう」
「そう……ですわね。ヴィオル様はお忙しい身ですもの。わたくし、出来るだけ早く独り立ち出来るように頑張りますわ……!」
「ああ、頑張れ。気合充分なようだからな、食ったら行くか」
「はい!」
やる気に拍車がかかったらしいセレン嬢の様子を見て、俺は内心胸を撫で下ろした。どうやらうまくごまかされてくれたらしい。
そんなこんなで家を出て市場までくると、俺は意識して歩く速度を落とす。なんせ前回はセレン嬢が男たちに絡まれたり、そもそも討伐用の防具などを買うというミッションがあったせいで、他の店に立ち寄る暇などなかった。
特級魔術師になったら、こういう店にもお世話になるかもしれない。市場の雰囲気にも慣れておいた方がいいだろうし、買うという行為自体にも慣れておくべきだろう。そうでないと生活自体が成り立たなくなってしまう。
「セレン嬢、今日は少し時間に余裕がある。そこら辺の店で気になるものがあったら見て、買い物なんかもしてみればいい」
ふと思い出して、俺は自分のウエストポーチをまさぐった。
「セレン嬢、手のひらを上にして両手を出せ」
「はい」
その手にジャラジャラと小銭を落とす。
「前回ケッツィを倒した報奨金、つまり君が稼いだ君の金だ、好きに使うがいい」
「わたくしが……稼いだお金」
初めてですわ、とセレン嬢は心底嬉しそうに微笑んだ。その顔は眩しいくらいに輝いている。
分かる、自分で稼いだ金って嬉しいよな。
「さあ、店は無数にある。食い物でもアクセサリーでも雑貨でも生活用品でも、大概のものは揃っているからな、こうやってぶらぶら歩きながら店を流し見て、気に入った物があったら立ち止まってゆっくりと検分する。懐事情を勘案して買うか買わないか決める、それだけだ」
「……はい!」
早くもセレン嬢の瞳は立ち並ぶ店の方へ向けられていた。
気に入りの品が見つかるといいのだが。




