【9巻発売記念SS】黒猫は天使に所望される
「ジャンは天才だな……」
「うふふ、お顔が蕩けてしまいそう。きっと気に入っていただけると思いました」
「いや、本当にすごいぞ」
「はい、もうひとつどうぞ」
差し出されたクッキーに思わずあむっと噛みついてもぐもぐし、またも蕩ける甘さにノックダウンされた。
「セレンもひとつ食べて見てくれ。本当に美味いから……!!」
「ふふ、はい。ではひとついただきますね」
セレンはどうやら俺がスイーツを食べている姿が人の時も猫の時も面白いようで、俺が食べているといつもにこにこ笑っているし、自分が食べるのを忘れて俺をじっと見ていたりする。
ちょっと恥ずかしいし、むしろ一緒に食って感想を言い合いたい俺は、いつもこうしてセレンに「食べてみて欲しい」と促すことになってしまう。
「まぁ、本当。サクサクなのに柔らかい……! しかも焼いてあるからかアンルージャムの水分が飛んで濃厚になっているのがことさらに味わい深いですね」
そして、促されたセレンは、いつも美味しそうに食した後、思わず頷きたくなるような感想を言ってくれるから余計に嬉しくなってしまうんだよな。
「うむ! このしっとり系のクッキーとよく合っていると思う」
「美味しいですね。ストレートの紅茶と合わせれば、いくらでも食べてしまえそう」
二人して微笑み合っていたときだ。
「あーーーーーーー!!!!!」
突然、可愛らしい元気な声が響き渡った。
「まぁ、レアリーが起きてしまったみたい」
慌ててセレンが立ち上がれば、レアリーのベビーベッドの脇で丸くなって眠っていたリゼも飛び起きた。
レアリーの声に驚いたのか、淡いピンクのふさふさしっぽがいつもよりもさらに丸くデカくなっている。
「あうーーー!!! あーーー!!!! あうっ」
何を言っているのかはさっぱり分からないが、その大きな黒い瞳が俺をまっすぐに見つめている事だけは確かだ。
「ヴィーと遊びたいのかしら」
「やっぱりそう思うか?」
セレンやリゼはいつも傍に居てくれていつでも遊べるだろうが、レアリーから見たら黒猫ヴィーは本当にたまにしか姿を表さないレアキャラだ。
「あうぅ、うー」
俺が全然近づかないから、レアリーが不機嫌そうな声を出し始めた。
しかめっつらも可愛い。
すると、リゼがトトトト……と近づいてきて、俺を鼻で押してレアリーの方に追いやろうとしてきた。
どうやらレアリーと遊んでやれ、と言いたいらしい。
「ヴィー、ちょっとだけお願いできる?」
セレンに顔の前で可愛く手を合わせてお願いされたら、さすがに断れない。




