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【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


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【ヴィオル視点】この世の天国

「やっと……つむじ風っぽいものが出来ましたわ……!」



セレン嬢からそんな言葉が絞り出されたのは、白々と夜が明けてきた時分のことだった。



「やったじゃないか……!」



俺の口からも弱々しい声が漏れる。


力強く褒めてやりたいところだが、すでにそんな元気など残っていなかった。


前回ウィンドカッターがものの一時間程度で習得できたものだから、それよりも初歩の魔術である『操風』など、瞬殺なんじゃないかと勝手に思っていたわけだが、これが意外と時間がかかった。


そういえば、最初に教えた疲労回復の魔術もこんな感じで覚えるのに一晩かかったんだったな。その後の成長と集中力が目覚ましすぎてもう忘れかけていた。どうやらセレン嬢は形を明確にイメージできないものを魔術として発動するのが苦手なようだ。


ウインドカッターは風の刃という明確に想像できるものがあるのがよかったんだろうな、多分。


だが、感覚を掴むのに時間がかかった疲労回復の魔術だって、今やこっちが引くくらいに習熟しつつある。『操風』もコツさえ掴めばきっとあとは早いだろう。取りあえず、なんとかつむじ風っぽいのが出せるところまで行けたんだから良しとしよう。



「ごめんなさい、ヴィー。私ったら、我がままを言ってしまって」



やっと我に返ったらしいセレン嬢が、泣きそうな顔で謝ってくる。卑怯だ。そんな可愛らしい顔で謝られたら、怒るに怒れないではないか。


さっきまで寝ろと言っても頑としてきかず、もう一回だけ、をエンドレスで繰り返していた練習の鬼はもう去っていったらしい。気がついたら空が白んでいて、俺を朝まで練習に付き合わせてしまったことを理解して、今更申し訳ない気持ちに襲われているんだろう。


まったく……今までもこんな調子でしょっちゅう朝まで頑張っていたんだろうなぁ。若い。



「ふん、今日は甘いものはないのか?」


「も、もちろんあるわ! 今日は新作だって、料理長がとても自信ありげだったのよ」


「それで許してやる。なんせセレン嬢のところのパティシエが作るものはどれも絶品だからな」


「ありがとう……! そう言って貰えると嬉しいわ。最近わたくしが色々とリクエストするものだから、料理長がお菓子作りに目覚めたらしくて、張り切ってこれまでにないものを作ってくれるようになったの。ヴィーが喜んでくれるなら、作った人もきっと嬉しいわ」



花が綻ぶように、嬉しそうにセレン嬢が笑う。


いつものようにベッドサイドのテーブルから小さなバスケットを取ってきて、セレン嬢は俺の目の前にバスケットを置いてくれる。フタを開ける前からもう、漂う匂いだけで幸福感が半端ないんだが!



「なんと美味そうな匂い……!」


「うふふ、ヴィーったらお鼻もお耳もおヒゲもピクピク動いているわ。そんなに美味しそうな匂いなの?」



くすくすと笑いながらセレン嬢がバスケットのフタを開けると、中からは見たことがないデザートが出てきた。



「土台はタルトのようだが……匂い的にチーズではないよな?」



もっと甘い……バニラのような匂いがする。それにこれは、カラメルの匂いか? ちょっと焦げたような匂いも混ざって絶妙に食欲を刺激する。思わずすんすんと鼻を鳴らしてしまう。なんという魅惑の香り……!


セレン嬢がタルトを俺の鼻先に持ち上げてくれたとき、プルン、とタルトの中身が揺れた気がして俺の目は釘付けになる。淡い黄色で、このプルプル感溢れる断面は見たことがある……これはまさか。



「まぁ珍しい。料理長からのメモまでついているわ。このまえチーズタルトがとても好評だったから、新たなタルトを考案してみたと書いてあるわね。ええと、焼きプリンのタルトですって。ほら見て、このカラメルソースをかけて食べるのだそうよ」



て、天才か……!


美味しいに決まっている……!



「生みたての卵とジャーズ産生乳100%を用いたなめらかでコクのあるプリン生地をサクサクのタルトに流し込み仕上げました。ほろ苦いカラメルソースをトッピングすることでプリンの優しい甘みを一層引き立てます……ですって」



料理長の熱の入ったメモを読み上げていたセレン嬢は、ふと目を上げて俺を見ると、目を丸くした。



「ヴィーったら、なんて顔をしているの。よだれが垂れてしまいそうよ」



吹き出している暇があったら早く食べさせて欲しい。今日は俺だって頑張った筈だ。セレン嬢の手を控えめにちょいちょいと触ると、「はいはい」とセレン嬢が笑いながらカラメルソースをかけてくれた。


そのまま指でタルトをつまんで、食べやすいポジションに持ってきてくれる。


たまらず俺はタルトに噛み付いた。



はぐ、と歯を立てた時の感覚は、どう表現すれば良いのだろう。カラメルのとろりとしたほろ苦さ、プリンの柔らかさと滑らかな口当たり、そして最後に訪れるタルトのサクサク感。味も食感も全てが調和している。



「可愛い……」



セレン嬢が何やら呟いて、俺の背中を愛しそうに撫でる。


料理長渾身の極上デザートを食しながら、優しく撫でて貰うというこの世の天国に、一日の疲れが吹っ飛ぶ思いだった。

今週は本職が激務で更新が遅くなりがちでごめんなさい。


来週はここまでじゃないはず……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴィーが可愛すぎて可愛すぎてかわいい…!そして焼きプリンタルトが食べたくなってきました…これは飯テロ…美味しいものを食べれてしかも可愛い子になでなでしてもらいながらって…この25歳、最高に…
[一言] スイーツにかぶり付く猫…シュールだよねww そして目覚めた料理長!(笑) 本格スイーツ小説になる日も近い?(笑)
[一言] 焼きプリンタルトどっかに売ってないかな~ 無性に食べたくなりました。
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