【セレン視点】さ、触ってもいいでしょうか
「ヴィオル様」
「ん?」
「考えたのですけれど……さっきリミッターのお話の時に、『魔力暴発として抑制すべき基準を設ける』と仰っていましたよね? もしかして、リミッターを改良することで、瞬間移動も抑制できるのではないでしょうか」
わたくしの投げかけに、ヴィオル様が僅かに目を見開いた。
そして、しばしそのまま考えていたかと思うと、短く「できるかもしれない」と呟く。
「だが、難しいのはどれくらいで放出魔力を抑制するかだな。レアリーが試行錯誤している魔術の芽も、俺達が摘み取ってしまうのは可哀相な気がするし」
「はい。わたくしも同感ですわ。ですから、危険が少ない程度に抑制できればと思うのです。これは仮説なのですが、瞬間移動の距離によっても放出する魔力が違うのではないでしょうか」
「そうかも知れんな。昨日はあの後、瞬間移動に挑戦しているようだったが、不発だった」
「わたくしが見る限り、この部屋の中での小規模な瞬間移動は一日のうちで何度か行う事ができているようなのです。つまり、結界を破るほどの距離を瞬間移動すると、かなり魔力を消耗するのではないかと」
「ほう、それは面白い。距離によって違うのか」
「多分、ですが」
「今なら魔力測定器で測る事ができる。レアリーに瞬間移動を発動させることはできるか?」
そう問われて、わたくしはうーん……と唸った。
「今はリゼのしっぽに夢中になっているから、無理かも……。これまでの傾向を見る限り、レアリーが瞬間移動をするのはハイハイでもっと早く進みたい時か誰かに会いたい時、あとはすごく興味を引かれるものがある時なのです」
「リゼに協力して貰うか……と思ったが、本気で寝ているな」
「朝からずっとレアリーと追いかけっこして遊んでくれましたがら疲れているのでしょう。リゼは本当にレアリーのいい遊び相手になってくれていて」
「それは寝かせておいてやりたいな」
リゼのしっぽで遊ぶレアリーをしばらく優しい目で見ていたヴィオル様は、ふと思いついたようにこう言った。
「よし。では俺がひと肌脱いでみよう」
「え?」
一瞬で黒猫に姿を変えて、ヴィオル様がうーん、とノビをする。
「まぁ、久しぶり」
「うむ。この姿もなかなかいいな。ノビをすると気持ちいい」
「さ、触ってもいいでしょうか」
あい変わらずツヤツヤで美しい毛並みを見ると、触らずにはいられない。
「まぁいいが」
「ヴィー~~~!!! やっぱり可愛い!!!」
「うおっ」
小さな身体を抱き上げて、思いっきり頬ずりするビロードのような肌触りはやっぱり最高で、小さなお手々でたしたしとタップしてくるのも懐かしくて愛らしい。
「くっ……くすぐったい!!!」
「ああ~~~リゼとは違うつるんとしたしっぽも可愛い~」
「ううむ、いつもに比べてびっくりするくらい積極的だな」
「うふふ、猫ちゃんの姿だと照れがないからでしょうか。……あ」
「む?」
久しぶりすぎるヴィーの姿に、ついついぎゅうぎゅうに抱きしめてはしゃいでいたら、レアリーにびっくりした顔で見られていた。
「レアリーがこっちを見ています」
「おっ、興味を持ってくれたか。セレン、魔力測定器を頼んだぞ。魔術使用時の魔力を測るのはこの青ボタンだ。最大魔力ではなく、練られた魔力の変動を計測できる」
「はい!」
レアリーに照準を合わせてボタンを押してみると、数値が十五~二十の間でうろうろしている。
ただ、残念ながらわたくしにはそれが普通の数値なのかどうかすら分からない。
「ヴィオル様、数値が十五~二十の間で上下しているのですけれど」
「なるほど結構多いな。最大魔力が多い上に魔力の制御ができていないから仕方がないが」
「多いのですね」
「多いな。魔力の制御ができていれば概ね五前後だ。魔術を使う時は魔力が練られて放出されるから、一時的に大きな数値になる。ウインドカッタ―で七十程度、トルネードだと五、六百くらいが平均的だな」
「という事は魔術によって一定ではないということですか?」
「うむ。効率よく魔術を練れると同じ魔術でも数値が低くなる。その分魔術を多く展開できるから、ロスなく魔術を展開できる方がいいが……まぁ、冒険者だと割と重要かもな」
「なるほど……!」
またひとつ勉強になってしまった。
「ふふ、なんだかヴィーに教えて貰っていた頃を思い出すわ」
「俺もだ。懐かしいな」
顔を見合わせて笑いあう。
ヴィーのしっぽが照れくさそうに揺れているのが可愛かった。
「おっと、脱線してしまったな。とりあえずレアリーの興味を引いてくる」
「頑張って、ヴィー!」
わたくしの腕からひらりと飛び降りて、ヴィーがトトトトト、とレアリーに近づくと、レアリーの目がキラキラと輝いた。
「きゃふっ、あー!!!!」
「おお、気に入って貰えたようだな」
「あう?」
黒猫からヴィオル様の声が聞こえて驚いたのか、きょとんとした顔をするレアリー。
それを気にすることなく走り寄ったヴィーは、レアリーのぷくぷくほっぺに頬ずりした。
「きゃうっ」
嬉しそうに笑って、レアリーが両手をぶんぶんと振ってヴィーを叩こうとする。
「うおっ!」
ひらりと避けるヴィー。
尻尾を掴もうとしたり叩こうとしたり、まだまだ力の入れ方が分からないが故のそれなりに力の籠もったレアリーの攻撃を、ヴィーはひらりひらりと避けながら距離を取っていく。
「これは……リゼも大変だな」
「はい。とても忍耐強いですよ」
「リゼにおいしいおやつを買ってやろう」
そんな軽口を叩きながらも、しっぽを降ってみたりレアリーが伸ばした手にタッチしてまた飛び退いたりと、しっかりとレアリーの注意をひくヴィーはさすがだ。
すっかりヴィーに興味津々で、その姿を追ってハイハイを始めたレアリー。




