【ヴィオル視点】やっぱりセレンも光ったか?
「可愛いなぁ」
そんな声がそこかしこから聞こえる。皆思うことは同じらしい。
「焦らなくていいのよ。ゆっくり……そう、偉いわ、レアリー」
セレンに呼びかけられて、レアリーがさらに速度をあげようと頑張る。
「あーーー!!!」
途端、さっきのようにレアリーの魔力が膨れ上がった。
「おおっ!」
「これは……」
「もしかして、レアリーの魔力が大きくなりました?」
「うむ。コンタール、やっぱりセレンも光ったか?」
「はい。ばっちり」
「そうか……! コンタール、君のおかげでレアリーが何をしているのか、その一端が理解できたかも知れない。感謝する」
「本当ですか! 俺の『目』が必要になったらいつでも言ってください。こんな風に新たな発見があるかも知れないし」
「うむ、その時は頼む」
盛り上がる俺達とは逆に、レアリーは悔しそうにバタバタし始めた。
「あう~~~!!!」
「レアリー、大丈夫よ」
セレンが立ち上がってレアリーの傍に移動する。
けれど、もうちょっと、という位置で立ち止まり膝をついてレアリーへ手を差し伸べた。
「頑張って。レアリーなら魔術なんて使わなくてもできるわ。さぁいらっしゃい」
「あう……」
差し伸べられた手とセレンをジッと見つめていたレアリーが、じわりと動き始めたかと思ったらセレンへと懸命に手を伸ばして起き上がろうと頑張っている。
「おお……」
もしかして立ち上がろうとしているのではなかろうか。
そう思ったら、思わずこっちが息を呑んでしまう。
つかまり立ちはたまにできるんだと分かってはいるが、まだまだその勇姿はレアだ。
俺も息を詰めて見守っているが、その場にいる全員が、声も発せずに黙ってレアリーとセレンを見つめていた。
「うー!」
「立ちたいの?」
そう言うと、セレンは床に横座りして穏やかに見守る姿勢になった。
それを見たレアリーはずりずりとセレンに近寄ってセレンの膝あたりに小さな手を伸ばす。
セレンの膝につかまって、レアリーが腕に力を入れるのが分かる。
体重を腕の方にのせて、お尻があがりぷるぷる足を震わせながら立ち上がろうとするのがなんとも危なっかしくて自分の拳にも力が入る。
セレンの膝に手をついたまま、真剣な顔で何とか立ち上がるレアリー。
慎重に体重を移動して、よろけない体勢を探っているみたいだ。
赤子ですらこうして、自ら試行錯誤して立つ技術を身につけていく。
それはなんだか、新鮮な感動だった。
何度もセレンの膝から手を離そうとしては、よろけて手を突く。
頑張れ。
頑張れ。
応援することしかできなくて、手に汗を握ってただただ見守る。
「……!!!」
ついにレアリーの手が、セレンの膝から離れた。
お、おお……!!!
一、二、三……
そこでよろけて、再びセレンの膝に手をついたレアリーは、セレンを見上げてにっっこおぉぉぉと眩いばかりの笑顔を見せた。
「まぁレアリー! 頑張ったわね!」
「あうー!!!」
やり遂げた! とでも言いたげないい笑顔のレアリーは、それから何度かセレンの膝から手を離しては立ってみようとする。
思わず俺達も話していたことを忘れて応援してしまったわけだが、最長記録は八秒だった。
「いやぁ、なんかいいもん見たな~」
「神々しかったですねぇ。セレンさんが聖母に見えました」
「レアリーちゃん、頑張ったな!」
いつ転ぶかとハラハラしたが、よろけても尻餅をついても諦めずに立ち上がっては笑うレアリーの姿には俺まで誇らしい気持ちになった。
「いやぁ、貴重な成長の証を見守る、いい時間でした」
「なんか分かんないけど元気でましたね」
ディストとコンタールが言えば、フハラシャ王子達も顔を見合わせて微笑み合っている。
「みるみるつかまり立ちが上手になっていきますね。あれは足腰が丈夫になりそうだ」
「レアリーは頑張り屋さんなんだよ。赤ちゃんなのに集中力もなかなかだろう?」
いかにも武人らしい着眼点のアレックスはいいとして、なぜフハラシャ王子が自慢げに言うのか。父としてはちょっと腑に落ちないんだが。
なんだか複雑な心境になってしまった。
しかし俺のそんな心境には気づいていないらしいフハラシャ王子は、なおもアレックスやシタスに得意げな顔でレアリー自慢を繰り広げている。
一方のレアリーは、たくさん魔力も使って、立っちの練習もたくさん頑張ったからかすでにおねむの様子で、セレンの腕の中でうとうとし始めていた。
今日は色々あったもんな……。
指をしゃぶりながら天使のように愛らしく眠るレアリーを、フハラシャ王子とシタスが覗き込み、感歎の声をあげる。
「かわいー……」
「でしょう? つかまり立ちにチャレンジしてる時はなかなか勇ましい顔してたと思うけど、今はただただ可愛くて、もう天使だよね」
「だなぁ。フハラシャ王子がレアリーちゃんのところによく遊びに行くの、分かる気がしてきた。オレも今度一緒に行こうかな」
シタスはそんな事を言っているけれど、割と短時間で飽きてしまうのではなかろうか。
なんせ経験豊富なキャロルさん曰く、フハラシャ王子のように自分の子ではないのに延々と赤子の相手をしてにこにこしていられる男性は割と少ないらしい。
俺も邸の男性陣もレアリーの笑顔を見ているだけで幸せ、という感じだからあまりピンとこないが、男は親になっても赤ちゃんを疎ましく思ったり興味を持たないヤツも多いのだとか。
キャロルさんの話から考えるに、シタスも長時間は厳しいだろう。
それでも、そんな風に言ってくれるだけでもありがたい。
嬉しい気持ちで皆がわいわいと話しているのを見ていたら、セレンがチラリと俺を見る。




