【セレン視点】その笑顔を守っていきたい
「レアリーは!?」
開口一番そう叫んで、すぐにフハラシャ王子と遊んでいるレアリーが目に入ったのだろう、大きな息を漏らしながら、ソファへともたれかかる。
脱力する気持ち、本当にわかります。
「ヴィオル師団長、お疲れのところ悪いんですけど」
「ああ、シタス。フハラシャ王子とレアリーを連れてきてくれたんだな、ありがとう」
「いや、それがわけが分からなくて」
「無事に討伐が終わってオレ達ひと足先に魔術師棟に帰ろうとして飛んでたんですけど、ほんと何の前触れもなく突然、飛行艇の結界が破られたんです。で、それとほぼ同時にレアリーちゃんが現れて。ほんと何が起こったんだか意味分かんないんですけど」
わたくしとヴィオル様は顔を見合わせて頷き合う。
さすがに目の前でその事象を見てしまった以上、何もなかったことにはできないもの。
「それは本当にすまなかった」
「いやまぁ、ヴィオル師団長もレアリーちゃんを探してたみたいだから、ここに連れてきて正解でしたけど」
「もしかして討伐からの帰りにそのままここに来る事になってしまった感じか?」
「いえ、ヴィオル師団長の執務室に直行したんですけど、ディスト副師団長が、とにかくすぐにヴィオル師団長の邸へ向かってくれって言うもんで」
「そうか、ディストが」
レアリーが消えた事を知っているディストが、気を利かせてくれたんだろう。ありがたい。
「レアリーを連れてきてくれて本当に感謝している。何が起こったのかすごく気になっていると思うが、いったんは業務に戻ってくれ。ディストやコンタールにも今回の事の子細を説明する必要があると思うから、纏めて話をしようと思う」
「了解です。フハラシャ王子とアレックスさんはどうします?」
「俺が魔術師棟へ戻る時に一緒にお連れする」
「なるほど。じゃ、先に戻ってますね!」
そう言ってシタスさんは軽やかに帰って行った。
あとに残されたのは、レアリーと楽しく遊ぶフハラシャ王子と物問いたげなアレックスさん。そして心底安心した様子の邸の皆。
とにかくケガもなく元気で帰ってきてくれて良かったけれど、まさかすぎるところに現れたものだわ。
けれど、フハラシャ王子のお膝に現れたという事は。
「もしかして、結界を破って瞬間移動してしまうほど、フハラシャ王子と遊びたかったということでしょうか……」
「そうかもしれんな。そういわれれば、キチュルの森に討伐に行く事が決まってから、打ち合わせや機械の改良もあって、フハラシャ王子がしばらく来ていなかったからな」
レアリーはさっきと変わらずなんとも幸せそうに「あー!」「うー!」「あい!」とよく分からない声を発しながら積み木を掴んではフハラシャ王子に渡しているし、王子は王子でにこにこと微笑んだまま、「ありがとう」「綺麗だね」「わぁ、これは変わった形だ」なんていちいち反応を返しながら受け取って、建物のように積み上げている。
「ふふ、レアリーったら嬉しそう」
レアリーはフハラシャ王子が大のお気に入りで、いつだってこんなふうに優しく笑いかけてくれる王子様に夢中なのだ。
フハラシャ王子もレアリーをとても可愛がってくれていて、ヴィオル様なんてちょっと嫉妬している様子なのが意外でとても面白い。
「なんだか面白くない」
だなんて、らしくない事を呟く程度には、二人の仲の良さが悔しいらしい。
「まぁヴィオル様ったら。レアリーがこんなに小さな頃からそんな風に嫉妬していたら、レアリーが誰かのお嫁さんになると決まったら、きっと大変でしょうね」
「嫁……!」
絶望するようなお顔になってしまった。
「義父上もこんな気持ちだったのだろうか。悪い事をした……」
なんて言い出すから、ついに笑ってしまった。
よほど悲しかったらしい。
「お疲れになったでしょう。お茶とお菓子をお持ちしました」
気が利くリンスが温かいお茶と摘まみやすいクッキーを持って来てくれた。
なんだかすごく気疲れしたから、カップから立ち上る湯気がすごく魅力的に見える。
「リンス、悪いのだけれど全員分カップを用意してくれるかしら。皆も疲れたでしょう? 皆でゆっくりお茶しましょう」
とりあえずはレアリーが無事だった。
それだけで充分ですもの。
あんなに皆に心配をかけたというのに、当のレアリーは何事もなかったかのようにご機嫌で。その笑顔を守っていきたいと改めて思った。




