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【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


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【セレン視点】結界すら超えて

「ヴィオル様! ヴィオル様! 申し訳ありません、ヴィオル様……!!!」


 いつも身につけているピアスへと魔力を通し、ヴィオル様へと呼びかける。


「!? セレンか!? どうした!?」


 声に焦燥が漏れてしまったのだろう、ヴィオル様もすぐに反応してくださった。


「ヴィオル様、レアリーが……結界を破ってしまったようで」


「何!?」


 ヴィオル様から驚愕の声が上がる。


 当たり前だ。


 ヴィオル様の結界が破られるだなんて、わたくしだって考えていなかった。


 だって、つい先日強化して貰ったばかりだというのに。


「レアリーは!?」


「わたくしの目の前で消えてしまって、今、全員で邸の中を探しております」


 リゼまで走り回ってはくんくんとあちこち匂いを嗅いだりしてくれている。


 皆が慌てているのが分かるのだろう、賢い子だ。


「けれどまだ見つからなくて……」


「邸の外も見回った方がいい。以前消えた時に、徐々に距離を伸ばしているようだと言っていただろう?」


「確かに!」


「俺もすぐに戻る。皆、落ち着いて。とにかく手分けをして探してくれ!」


「けれど……今日は、無理なのでは」


 フハラシャ王子を魔獣討伐に連れて行く日だと言っていた。


 第三魔術師団としても重要な日の筈だ。


「大丈夫だ。実際にフハラシャ王子をキチュルの森にお連れするのは調査チームと魔道具開発チームの混合チームだし、もう出発している。何かあったら通信がある筈だから心配いらない」


「そう……なのですね」


 ホッとして、つい気が抜けたような声が出た。


 通信機の向こうでは、ヴィオル様が副師団長のディスト様と、側付きのコンタールさんに事情を話して外出する旨を告げているのが聞こえてくる。


 その声を聴きながら屋敷内を飛び回り、皆と会うたびに視線を交わすけれど、必死な顔で首を横に振る姿を見れば、言葉を交わさずともレアリーがまだ見つからない事が容易にわかる。


 本当に、今度こそ邸の外に出ているのかも知れない。


 ヴィオル様の結界を破ってしまうほどなのだから、レアリーがもし本当に『瞬間移動』やそれに近い能力を持っているのだとしたら、その移動先は邸の中だけに限定できないだろう。


「わたくし、邸の外を見てくるわ……!」


 言いおいて、そのまま『飛行』で外へと飛び出る。


 大丈夫、そんなに遠くに行っているはずがない、という気持ちと、どれくらい遠くに移動できるか分からないじゃないの、と込み上げてくるような不安がせめぎ合って、焦燥感でどうにかなってしまいそう。


「どこにいるの、レアリー……!!!」


 わたくし達の邸など、庭といってもたいした広さはない。

 

 丁寧に見てもさほどの時間をかけずに邸の外にはいない事が分かって、わたくしはまたすぐに邸の中に取って返す。


 皆もカーテンの裏、クローゼットや棚の中、引き出しや小さな扉の中まで丁寧に開けて探してくれているけれど見つからなくて。


「……っ、そうだわ、上……」


 飛びながら見ていると、皆一様に目線から下を探しがちだということに気が付いた。


 もしそれより上に瞬間移動していたら?


 落ちてしまったらより危険だ。


 わたくしは慌てて上の方を見て回る。


 棚の上はもちろん、まさかとは思いつつもカーテンレールやシャンデリアの上まで。


「いない……レアリー」


 邸中を飛び回ったけれど見つからなくて、どんどん焦燥感が膨れ上がってくる。


「セレン様!」


「! リンス、レアリーは?」


「それが、どこにも見つからなくて……」


「わたくしも、庭も上の方も探したけれど、いないの」


 不安で涙がにじんできたところに、耳元に急に息遣いが聞こえて、わたくしはハッとした。


「セレン、聞こえるか!?」


「ヴィオル様!」


「どうだ? レアリーは見つかったか!?」


「それが、どこにもいなくて……! 邸の中にも、庭にも、どこにも……もしかして、本当に見当もつかないところに行ってしまったのかも」


「落ち着いて。俺も今そっちに向かっている」


「ヴィオル様……!」


「深呼吸だ。慌てても事態は好転しない。落ち着いて対策を考えよう」


「はい……」


 ヴィオル様の冷静な声でわたくしにも少し冷静さが戻ってきたのか、ようやく空気が肺に入ってくる。


 いつの間にか呼吸まで浅くなってしまっていたらしい。


「レアリーが邸の中にいないのは確かなんだな?」


「はい。これだけ探していないのですもの、邸の敷地内にはいないと思います。しかもわたくしの目の前で消えたのです」


「だとしたら、本当に邸外の場所に瞬間移動してしまった可能性が高い」


「はい……」


「だが、さすがにやみくもに移動したわけではないと信じたいが……セレン、以前移動したい地点にマーカーを打つように、自分の魔力を配置することもできるのでは、と言っていたな」


「はい、可能性としてはあると思います」


「もしくは誰かの魔力を目標に移動しているのか……任意の場所に移動できるとなると厄介だが、レアリーが行った事がある場所や会った事がある人物なら特定できる」


「そこを、虱潰しに探せば……!」


 ヴィオル様の言葉に希望が見えて、わたくしは必死で今までレアリーが訪れた事がある場所を思い出す。


 わたくしの実家である公爵邸、ヴィオル様のご実家、市場や公園、魔術師棟にも連れて行ったし、そもそも産院にも何度か足を運んだ。


「時間がもったいないので、移動しながら考えます!」


 わたくしは窓から飛び出した。


「待てセレン! どこへ行くつもりだ!」


「まずはわたくしの実家である公爵邸に。レアリーが行きたいところや会いたい人のところへ飛んだ可能性もあるし、何度も行ったことがある場所かもしれない。どっちにしろ、あの子が行く可能性があるところへ少しでも早く……!」


「分かった。俺は市場や公園を見回ってから、俺の実家にも行ってみる」


「お願いします!」


「セレン、とにかく落ち着いて安全を心がけてくれ。逸る気持ちは分かるが、『飛行』は繊細な魔術だ。君の気持ちが乱れすぎると危険が大きい」


「……はい」


本当だ。


 今までにないくらい、飛行が安定していない。そんな事にも気が付かなかった。


「ありがとうございます、ヴィオル様。確かにわたくし、飛行がまったく安定していませんでした……こんな事、今までなかったのに」


「それだけ必死という事だ。急がないといけないのは間違いない。だが、魔術を扱う以上、精神はできるだけ安定させるように努力するんだ。自分と他者の命にかかわる」


「はい……!」


 自分のふがいなさにじわ、と涙が浮かんだけれど、泣いている場合じゃない事なんて誰よりもよく分かっている。


 精神を集中させて飛行を安定させると、一気にスピードが上がる。


 結局はそれが一番早くもあるのだと理解して、逸る気持ちを抑えながらわたくしは一生懸命に精神集中に努めるのだった。


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