真夜中のお茶会
「はぁ……」
わたくしはベッドに突っ伏して、深いため息をついた。
今日はいったいなんだったのかしら。こんなに疲れる夜会なんて初めてだわ。
たくさん踊ったのも疲れた原因ではあるけれど、なによりもそのあとの様々な方から投げられる質問責めに答えるのが大変だった。
誰もが興味深々のお顔であれやこれやと聞いてくるけれど、わたくしに答えられることなんて本当にごく僅かなのですもの。第一どうして急にあんなにたくさんの方と踊ることになったのかなんて、わたくしが聞きたいくらいだというのに。
ようやくテーブルに戻ってひと息つこうと思ったのに、幾重もの人垣に囲まれて困り果てていたわたくしを救ってくれたのは、なんとヘリオス殿下だった。
「セレン、大丈夫か?」
そう声をかけてヘリオス殿下はわたくしを人垣から連れ出してくれる。さすがにヘリオス殿下との間に割って入ってまで何かを聞こうという猛者はいないようで、わたくしはやっと安堵の息をついた。
「あまりに質問責めにあっているようだから、ついしゃしゃり出てきてしまった」
「ありがとうございます、本当に助かりましたわ」
「さすがに疲れているようだな」
「はい。皆さま話題に飢えていらしたようで、勢いに圧倒されてしまいました。……ですが聞かれたところで、わたくしにもなぜ今日はこんなにダンスに誘われているのかなんて分かろう筈もないのですけれど」
「少し顔が赤い。バルコニーで夜風にでも当たるか? ああでも、あれだけ踊っていたのだから座りたいよな」
「はい、とっても。ですが皆さまの視線がすごくて落ち着かないでしょうね」
座ってお話ししたいのはやまやまだけれど、背中にまで感じるくらいに視線が痛い。今日はもう、誰となにをしていても注目されてしまうこと請け合いだわ。
労ってくれるヘリオス殿下に甘えることにして、わたくしは夜会を早々に辞することとなった。
そうしてやっと邸へとたどり着いたのがついさっきの話だ。
早い帰邸に驚くリンスにドレスを脱がせて貰って部屋着に着替えたら、立っているのも嫌になってしまった。そのまま自室のベッドへ飛び込んで、わたくしはゆっくりと体を伸ばす。
こんな時、ヴィーみたいにノビが出来れば気持ちいいだろうに……なんて羨ましく思ってしまう。
可愛い足の先から柔軟性に富んだしなやかな体、そしてしっぽの先までが順繰りにノビていくのは、見ていても気持ちがいいものだ。さすがにヴィーのようには出来ないけれど、わたくしもうーん、と大きくノビをする。すると、体のあちこちがバキバキと音を立てた。
どうやら随分と緊張して、体が固まっていたみたい。
ああ、このまま寝てしまってはいけないわ。せめてお風呂に入ってから寝ないと。そう思うのに、緊張がほぐれた体は容赦なくわたくしを眠りの淵へと誘う。
「セレン様」
控えめなノックの音に、わたくしは目を開く。いつのまにか寝てしまっていたみたい。
「……なあに?」
「マリエッタ様が訪ねておいでですが、お断りしましょうか?」
わたくしが寝ていたことが声色で分かったのだろう、リンスが気を遣ってくれたけれど、むしろ起こしてくれて助かった。あのまま寝てしまうのはさすがに避けたいもの。
それに、夜会後にこうしてマリエッタが訪ねてくれるのはもはや恒例だ。
お互いに夜会で見聞きしたことを、紅茶と軽めのおやつを食べながら情報交換するこの小さなお茶会は、わたくしにとっても楽しみな時間となっている。
「いいえ、通してちょうだい」
「かしこまりました」
すぐに扉が開けられて、マリエッタが軽い足取りで入ってくる。
マリエッタったらわたくしよりもずっとたくさん踊っていたというのに、本当に体力があるのね。わたくしなんて、疲労回復の魔術をかけていたというのに、気疲れだけはどうにもならなかった。
「マリエッタは元気ね」
「これくらい踊るのは毎回のことだもの」
屈託なく笑ったマリエッタは、リンスが用意してくれた紅茶とおやつにさっそく手を伸ばす。
「ありがとう、リンス。夜会って踊ってばっかりで食べる暇がないから、どうしてもお腹が空くのよね。でもこんな時間に食べたら太っちゃう」
言いながらも、スコーンの手が伸びているあたり、本当にお腹が空いているのだろう。
「あれだけ踊れば少々食べたって平気ではないかしら」
「だといいけど。それよりもお姉様、今日はすごかったじゃない! 噂で持ちきりだったわよ」
やっぱり……とつい苦い顔になってしまう。
わたくしはわりとすぐに帰ったけれど、それで噂がなくなる訳ではないものね。しばらくは探りを入れてくる方たちのお相手をせざるを得ないだろう。
「明日からが大変だわ」
「仕方ないわよ。だってヴィオル魔術師団長も、ボーデン宰相も、リース様も、マシュロ様も。どなたも滅多に踊らないって有名ですもの。あの方たち、とっても人気があるのよ」
「そうなのね。確かにわたくしも、あの方達が踊ったところってあまり見た覚えがないわ」
「でしょう? お姉様が独り占めしているってみんなほぞを噛んでいて、私、痛快だったわ!」
楽しそうにマリエッタが笑う。
マリエッタはいつでも笑顔ね。その屈託のない笑顔を見ると、なぜか元気が出てくるから不思議だ。
「ねえお姉様」
「なあに?」
「あの人たちをダンスフロアに引っ張り出すだなんて、お姉様ったらどんな魔法を使ったの?」
殿下視点を入れるか散々迷って、こっちからにしました。殿下視点はあと数話待ってね。
あ、あと……ボーデン様の髪の毛はまだフサフサですよ、念のため(^^)
ボーデン様のお父様の頭髪が逃亡癖があったので、ボーデン様はもしや……と心配しているだけなのです。




