何が起こっているの……!?
宰相様が目線で指す先を見てみたら、早くもヘリオス殿下はたくさんの女性たちに囲まれていて、今まさにその中のひとりと踊りはじめようというところだった。
良かった、ヘリオス殿下とヴィオル様が気まずい雰囲気になっていたら、わたくしの方がいたたまれないもの。ホッと息をついたら、宰相様が面白そうにわたくしに囁く。
「ね、大丈夫だろう? それよりほら、君がいたテーブルを見てご覧。今迂闊にあの席に戻ったりしたら大変だよ」
確かにお友達の令嬢たち含めどなたも興味津々の顔で、踊る人々ごしにわたくしを見ている。テーブルに戻ったら質問攻めにあうこと間違いなしだ。
ということは。
「ヴィオル様は大丈夫かしら」
ヘリオス殿下は他の女性と踊っているから、たくさんの方に囲まれて質問攻め、なんてことにはならないだろうけれど、ヴィオル様はあしらいも苦手そうで心配だわ。
そんな懸念を宰相様は一笑に付す。
「ああ、大丈夫。こういう時のあいつの話しかけるなオーラは並じゃないから。もし話しかけられても黙殺もしくは一刀両断なんじゃないかな?」
既にヴィオル様の居場所も捕捉済みだったらしい宰相様が目線で指す先には、黒ずくめのヴィオル様が立っている。でも、確かに。ヴィオル様は壁に寄り掛かったまま目を閉じていて、不思議なことに周囲の方々はチラチラとヴィオル様を見ているけれど、無理に話しかけてはいないみたい。
「ね、不思議だろう? なにか魔術でも使ってるんじゃないかってくらい、話しかけられないんだ。アイツに聞いてもはぐらかされるんだけどね」
うーん……なんだかヴィオル様から怖いオーラを感じるけれど、それが魔術なのかただの不機嫌オーラなのかはわたくしの少ない経験値では判別がつかない。
とりあえずは、ヴィオル様が困っていないのなら、それでいいわ。
「いつの間にかいなくなるのも得意だから、嫌になれば私の執務室にでもさっさと逃げ込むさ。あいつとリースが入れるようにはしてあるし」
「まあ、宰相様はヴィオル様と本当に仲がいいんですのね」
「ボーデンでいい。ヴィオルとは学生時代からの悪友なんだよ。しかしセレン嬢もやるねぇ。あいつのあんなにあけすけな笑顔なんて、私でも片手で数えられる程度しか見たことがないというのに」
「やはり、レアなのですね……!」
そうでないと、もっとたくさんの令嬢がきっと恋に落ちてしまうだろう。それはなぜだか……なぜだか、嫌だわ。
それからボーデン様は、学生時代のヴィオル様の逸話を面白おかしく語ってくれて、わたくしはとても楽しくボーデン様とのダンスを終えることができた。
ダンスがうまくて、お話も楽しくて、機転もきく。真面目な顔でいつも難しいお話をしている印象だったボーデン様の新たな側面を知ることができて、わたくしにとってはとても楽しい時間だった。
「ボーデン様、お気遣いありがとうございました」
「どう致しまして。また踊ってくれるかい?」
「もちろんですわ」
どう考えてもヴィオル様の窮地を救いに現れただけなのだろうボーデン様の社交辞令的発言に、感謝を込めた笑顔を返していたら、横からスッと指の長い綺麗な手が差し出された。
「僕とも踊ってくれないか?」
「リース様」
びっくりして、わたくしはただただリース様を見上げた。だってリース様はこれまで、わたくし同様会話や食事を楽しむことを専門にしていて、踊っているところなんて見たことがないのですもの。
「実はこう見えて、けっこう踊れるんだよ」
「知りませんでしたわ」
「ちゃんと教育は与えてあるんだ、たまには成果を見たいものだね。セレン嬢、良ければ踊ってやってくれないか」
こんなにダンスを踊ることなんてなかったものだから少し疲れてきていたけれど、ボーデン様の頼みでは断ることなんてできるわけがない。
わたくしが手をとると、リース様は嬉しそうに微笑んだ。
音楽とともに、リース様の緩やかなリードでダンスが始まる。ボーデン様とは正反対の、穏やかな時間はそれはそれで心地よかった。サロンでも会話をすることが多いリース様だからこそ、肩肘を張る必要もない。ダンスもまったく一緒で、まるでわたくしのペースに合わせてくれているかのように踊りやすかった。
会話もそう。あえてさっきのヴィオル様やヘリオス殿下のことにも、以前気にしているようだった魔術のことにも触れてこない。他愛もない話をしながらゆったりと踊る時間は、わたくしを落ち着かせてくれた。
リース様とのダンスが終わろうという頃、今度はあっちからこっちから、手が差しのべられる。
どうして、急に。今日は一体、何が起こっているの……? 思いがけないことに言葉を失うわたくしの横で、リース様が苦笑する。
「どうやらセレン嬢も誘っていいんだと認識されてしまったみたいだね」
「まぁ……」
わたくし別に、今までもダメだなんてひとことも言ったことが無いのだけれど。
不思議に思ったけれど手を差し伸べてくれた方々の顔ぶれを見て納得した。この方々、わたくしがダンスの指導を手伝ったことがある方がほとんどだわ。きっと、まだご自身のダンスに自信が無くて、わたくしなら指導の延長上で、と思ってくれたのだろう。
「おっ、マシュロ。お前もか」
「え? マシュロ様?」
リース様が笑いを含んだ声で言うものだから、つられて目をあげたら、確かにそこにはマシュロ様の姿があった。
これは、意外すぎるわ。マシュロ様はダンスは嫌いだと言っていなかったかしら。
「マシュロ様、気をつかわなくていいのです。わたくしもそろそろ疲れてきましたし」
わたくしがそう口にした途端、マシュロ様の口がぐいっとへの字に曲がった。
「俺とは踊れないって言うのかよ。リースとは踊ったじゃないか……!」
それは、まぁ、そうですけれど。
俯くマシュロ様がなぜか涙目に見えて、強く断ることができない。
なぜ、涙目?
なにがなんだか分からない、そう思いつつ疲労回復の魔術を高出力で展開してから、わたくしはおずおずとマシュロ様の手を取った。
10万字!!!
昨日ははからずも行け行けヴィオル派の殿下ヘイトを煽ってしまった…。
そしてまさか過激派と穏健派があろうとは(笑)
皆様、次の夜会もお楽しみに(*^ω^*)




