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【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


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【ヴィオル視点】ついにこの日が

新たな手法を生み出したセレン嬢に敬意を表し、今日はもうウインドカッターに専念してもらうことに決めた。なんせ魔術は発想は良くても常に一定以上のクオリティで実現できないとあまり意味がない。


せっかく閃いたものなら、感覚を掴めるまで体に覚えさせる必要がある。


初級の魔術であるウインドカッターもこれだけの枚数を出し続ければ、中級クラスの魔力の減り方をするのは仕方がないことだ。普通だと集中力も続かない。


しかしそこはセレン嬢。


そもそも魔力もAAランクでたっぷりあるし、集中力なんか多分表すならばSSクラスとかそんな感じだ、多分。時間いっぱい、思う存分ウインドカッターを練習しまくっていた。


いっぽう俺はクッションの上でまあるくなったまま、セレン嬢を見守るだけ。楽でいいがとにかく眠い。なんせ今日は朝からずっと踊りっぱなしの怒鳴られっぱなしだ。精神的疲労はピークだった。


ウトウトしかけてハッとして起きる。


またウトウトしかけて、ビクッとして飛び起きる。


……なんてことをしていたら、ついにセレン嬢に笑われてしまった。



「ヴィーったら、なんだかお疲れね。お耳やしっぽが眠たいって言ってるわ」


「すまん……」



うなだれる俺の鼻をセレン嬢はチョンとつついて、楽しそうに笑った。



「いいのよ、もうそろそろ終わらないといけない時間だもの。でも……どうしようかしら」


「何だ?」


「今日はチーズタルトを用意したのよ。食べる元気があるかしら」


「あるに決まっている!」



思わず立ち上がってしまった。いやしかし、チーズタルトだぞ!? それは食わねば、心残りで寝られないではないか!



「ふふ、良かった。ほら、上にもチーズが粉雪のようにふんわりとかかっているでしょう? 口当たりがとてもまろやかで、ヴィーに食べさせてあげたいと思っていたの」



これは、なんと美味そうな……!!!


ショートケーキほどの大きさに切られたチーズケーキをセレン嬢が指先で持ち上げて、食べやすいように口元に持ってきてくれる。鼻腔をくすぐるクリームチーズの香りがたまらない。


はく、と口に含めばふんわりクリーミーなチーズムースがとろりと口の中でとろけて、濃厚でなめらかな食感とともに芳醇な香りがフワッと鼻を抜ける。しかもこの土台のクッキータルトがまた絶品だ。サクサクなのにしっとりしてるってどういうことだ。


公爵家のパティシエ……天才か!



「美味しい?」



嬉しそうにそう尋ねるセレン嬢に、ひとまずコクコクと頷きながら、俺はただただその素晴らしいチーズタルトを堪能した。




そんな幸せな時間が夢だったのかと思うほどに、翌日とその翌々日はまさに地獄だった。


魔術師団の業務をこなし、定時の鐘とともに迎えにくるブレーズ伯に連れ去られてダンスに勤しみ、夕飯も食わずに宵九つの鐘でセレン嬢の窓辺に現れる。


幸いセレン嬢が、結界さえ張ってしまえばあとは見守るだけでぐんぐん成長してくれる優秀な生徒だったからなんとかこなせたものの、さすがに疲れた。


まさか壁番の方が楽だと思う日が来るとはな。


そんなこんなでいよいよ次の無の曜日、夜会が行われる当日を迎えた時には、この身を削るような日々からこれでやっと解放されると感じて感無量だった。


いや、ブレーズ伯にはちゃんと感謝しているが。


無の曜日は学園も休みだから、本来ならば朝からセレン嬢の特訓につきあってもいいわけだが、今日はセレン嬢との合意のもと、特訓も休みにしておいた。


なんせ女性にとって夜会の準備は大事だ。やれ髪を巻かねばだの、肌の手入れだの爪の手入れだの、化粧だのドレスアップだの、女性の部下曰く、とにかく時間がかかるらしい。


俺はもちろん準備なんか一時間もありゃあ終わる。


ゆえに久しぶりに昼までたっぷり眠ってすっきりした頭と体で夜会に挑むことができそうだ。


一着しか持っていないまさに一張羅に袖を通し、踊るときに邪魔にならないように髪を首の後ろで一つに纏めれば準備完了だ。予約しておいた馬車に乗り込んで会場へと向かう。


受付を済ませるために会場のロビーに久々に足を踏み入れると、開け放たれた扉のむこうから熱気が伝わってきた。今日も夜会は大盛況らしい。


なにげなく目をやれば、令嬢達の色とりどりのドレスが華やかに会場を彩り、談笑する声がさざめく以前と変わらない夜会の光景が広がっている。おお、美味そうな匂いもしているな。セレン嬢と踊った後はちょっと美味いものを食ってから帰ってもいいかもしれない。


夜会は面倒でキライだが、ここで出る食事とデザートは一級品だ。ちょっと楽しみになってきた。


いやいや、まずはやるべきことをやってからだな。


扉をぬけて会場へ入ると、周囲がざわつき始めた。俺がくるといつものことだ。多分、滅多に夜会に顔を出さないから、物珍しくて噂するんだろう。これはいちいち気にしたら負けだ。


かけられる声を適当にかわしながら、俺はどんどん中央へと進んでいく。


まだ夜会は始まったばかりの時刻だ。そろそろダンスが始まる頃のはず。ダンスが始まる前までに、セレン嬢の姿が見える場所まで移動しておきたかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず、餌付けはされましたね(笑)
[良い点] 船を漕ぐ黒猫、絶対可愛い [気になる点] 果たしてヴィオル様は美味しいものを口にできるのか。 フラグでは?と思ってしまいました。
[一言] 公爵家のパティシエー!お店出してくれー食べたすぎる〜!!!!
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