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【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


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【ヘリオス視点】違うんだ……!

特級魔術師になるための試験にエントリーした、真顔でそんな事を言うセレンの顔を思わず凝視する。


冗談を言っているようにも見えないが、あり得なさ過ぎてうまく頭が処理出来ない。



「……いや、待ってくれ……なぜ? どういう、事だ……?」



なぜセレンがそんなものにエントリーする必要があるのか。意味が分からない。


混乱する僕に、セレンはさらにこう言った。



「実は二ヶ月前、サロンの扉の前で……わたくし、聞いてしまったのです。わたくしよりもマリエッタの方が妃に相応しいと……誰かがヘリオス殿下に進言しているのを」


「……?」



二ヶ月前……?


僕は記憶を掘り返す。そんな系統の話なら、間違いなくマシュロ達が言い出しているに違いない。他の誰が聞いても「そんなワケがあるまい」と一笑にふされるだろう内容だが、マシュロ達は本気でそう思っているのか、僕にも何度かそんな事を言ってきていた。


反論すればするほど声を荒げて主張を強くするものだから、この頃では流すようにしていたのだが……それをセレンに聞かれてしまっていたとは不覚だ。


苦い気持ちで僕は唇を噛んだ。



「多分、声からしてマシュロ様ではないかと思うのですけれど……『ヘリオス殿下はマリエッタを正妃にすべきだと進言した方がいい』との勧めに、ヘリオス殿下は『出来るわけがない、下手をすれば自分の方が廃嫡される』と答えておいででした」


「!」


「情け無いことに、あの時初めてヘリオス殿下がわたくしとの婚約を厭う気持ちがある事を知って……わたくし、本当に申し訳ない事をしていたのだと気付いたのです」


「! 違う! あれは、違うんだ……!」



血の気が引いた。


驚き過ぎてうまく言葉がでない。


マシュロ達の主張に真面目に相手をするのが面倒だったとはいえ、なんて馬鹿な返しをしたんだ、僕は……!


確かにセレンに特別な感情を抱くようになったのは、一緒に出掛けたりするようになったここひと月くらいの話だ。それまでは、いつか共に国を支えていく頼もしい同志という感覚の方が強かったとは思う。


それでも……誓ったっていい、セレンとの婚約を厭う気持ちなんて小指の爪の先ほどもなかった。


マシュロ達を刺激しないように軽く流したつもりの発言は、まったく想定外のところでセレンを傷つけていたのだ。本当に申し訳なさそうに微笑むセレンに、僕は慌てて言い募る。



「あれは話を合わせただけで、本心じゃないんだ! 気分を害したのなら謝る……!」


「気分を害するだなんて……ヘリオス殿下のお気持ちにも気付かず、申し訳なかったのはこちらの方です」



違うんだ。


違うんだ……!


同じ言葉だけが頭をぐるぐると回っている。セレンが申し訳なく思う必要など何ひとつない。どう言えばこれが誤解だと分かってもらえるのか……僕は途方にくれた。



「今時婚約者などという古い考え方に縛られる必要などなかったのですわ。先日サロンでもお話ししたとおり、ヘリオス殿下はこの国を背負って立つお方。ヘリオス殿下が共に歩みたいと思えるお方を選ぶべきですもの」


「……!」



僕は思わず息を呑む。確かにセレンはそんな風に言っていた。


あの時……なぜ急にセレンはこんな事を言い出すんだろうとは思った。しかも、『僕らの次代には、婚約者を定めなくてもいいのかも』と言った僕の言葉に、セレンは『次代を待つ必要もないのでは』と答えたのだ。


聞きようによっては、今からでも僕とセレンの婚約を解消した方がいい、そうとられてもおかしくない発言だった。僕だって違和感を感じたのだ。


ただ、迂闊に皆がいるところで言葉の意味を追求するのは危険な気がして、僕は流す事にしたんだ。


セレンとの婚約を僕が厭うていると思って、セレンはあんな事を言ったというのか。


セレンは、僕との婚約を解消することはやぶさかではない、むしろそうすべきではないかと言わんばかりの事をサロンの皆の前で言った。つまりセレンは、僕が婚約を解消したいと言ったなら、即座に受け入れる用意があるということだろう。目眩がする。



「ヘリオス殿下から進言しにくいのであれば、わたくしが。そもそもはそう思って特級魔術師を目指したのですわ。試験に受かりさえすれば、自動的に婚約は解消されるでしょう?」



ぞっとした。


受け入れる用意があるなんてものじゃない。むしろセレンは、積極的に婚約を解消するための手段を考えていたのだ。特級魔術師になれれば、確かに自動的に婚約は解消される。無条件で確実に婚約を解消するならばこれ以上にいい方法などないだろう。


無論、特級魔術師といえば難関中の難関だ。なりたいと希望したところでエントリーに辿り着く事すら出来る筈もないのだが。


そこまで考えて、はたと気が付いた。



「待ってくれ……さっき、エントリーしたと言わなかったか?」


「はい」



嘘だろう!?


魔術学校にすら行っていないセレンがエントリー出来る筈がない。いや、それよりもだ。もしもそれが本当ならば、なぜそんな平気な顔をしていられるんだ。



「受かったらどうするんだ! 本当に婚約が解消されてしまう……! そんな風に思っていたなら、なぜ……! なぜエントリーする前に僕に問うてくれなかったんだ」

ヘリオス視点です。次回も続きますよ(^^)

賛否両論あるでしょうが、ヘリオスの心情を丁寧に追ってみたいなと思っています。


このところ更新頻度がだいぶ落ちていたので、来週からは少しスピード上げていきたいです……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘリオスも問題だらけだけど、セレンも思い込みが激しすぎるし、2人とも相当コンプレックス強いですもんね。たぶん何もなく結婚してもすれ違った気がします。 ヘリオスはセレンが優秀すぎて、王太子の…
[一言] いつも思いますが、この作者は天才では・・・ 視点切り替えのタイミングと各キャラ個性をここまで引き出せるのは凄い。納得の書籍化とコミカライズです。
[良い点] 殿下視点待ってました。 自分の失言の結果に慄くがいい! [気になる点] 公爵父がセレンも真に受ける必要がなかったとか言ってたけど、必死に自分の責務を果たそうと努力をしてたのに、寄ってた…
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