表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

162/622

【ヴィオル視点】気迫の戦い

危険ではあるが、同時にこの戦い方はセレン嬢の大きな武器にもなるものだ。やみくもに止めるべきではないと。


セレン嬢が現状使える中級魔術はウインドボムだけだ。ほかで加点ができるとはいえ、以前セレン嬢が心配していたように基礎点が低くなってしまう可能性は大いにある。


だが、この空を自由に飛ぶような独自の魔術を開発し自在に使いこなしているとなれば、その基礎点は大きく跳ね上がるだろう。なんせ空を飛ぶというのは難易度が高すぎて、まだ魔術学校で教えられるほど確立されている魔術などないからだ。


俺がこうして見守っている今ならば、いざとなれば俺が助けてやることもできる。



「……」



俺は密かに唾をのみ、セレン嬢の戦い方を見守ることにした。



「来た……!」



セレン嬢が小さく声をあげ、急に空で旋回する。同時に、セレン嬢が今までいた場所に何か液体がかかり、次いでその場所からはジュッという嫌な音と共にもうもうと煙があがる。


酸か……?


嫌な予感がしたのとほぼ同時に、周囲からギチギチという歯をこすり合わせるような不快な音が鳴り響く。あちらからこちらから聞こえるその音は、単純に遭遇した敵の数の多さを物語っていた。



「アシッドアントか、面倒な」



俺は小さく舌打ちした。


酸を吐きつけて攻撃してくるのも厄介だが、仲間を呼んで数が増えていくのもこいつを相手にしたくないポイントだ。後ろ足で立ち上がると俺の胸あたりくらいまであるなかなかの体長で、装甲もそれなりに固い。


一匹程度ならばたいしたことはないが、その組織力と強力な酸、数を盾にしたしつこさで中級魔獣の中でも戦いにくいとされている。集団に出会ってしまった場合、剣だけだとそれこそ死を覚悟しないとならない難敵だ。


昆虫だけに火に弱いから、俺のように火の魔術……それも範囲の広い魔術を使えるのならば戦いやすいのだが、風の魔術だと少々分が悪い。


まぁ、とはいえ俺のように結界内でウインドボムを炸裂させれば倒せない敵ではないのだ。セレン嬢の機転に期待したい。


俺は隠密系の魔術で身を隠し、戦闘の行方を見守ることにした。



「こんなに……怖い」



セレン嬢の呟きが聞こえて見上げると、カートで空に浮いたまま、セレン嬢は顔を青くしていた。


確かにセレン嬢を見上げて一斉にギチギチと威嚇するアシッドアントは、どんどんと数を増やし、今や二十を数えるほどになっている。


こうなってくると、セレン嬢が空に逃げられる状況になっていて良かったと言わざるを得ない。これだけの数に周囲を囲まれれば、さすがに恐怖の方が先に立ってしまうだろう。


心配になってしまうが、セレン嬢はどうやら覚悟を決めたようで唇を引き結び、カートの上でアシッドアント達に向けて右手を突き出した。



「落ち着いて……きっとできるわ」



自分に言い聞かせるように小さくつぶやいて、セレン嬢が魔術を展開する。


見る間にうじゃうじゃと集まる赤褐色の蟻たちを囲むように風壁が展開され、俺が想像したようにその中にウインドボムが叩き込まれる。これまでの教えを忠実に守る、お手本通りの戦い方だ。うむ、悪くない。


その時、チリ、と嫌な魔力を感じて俺は空を仰ぎ見た。



「セレン嬢! 右!」


「きゃあっ!?」



突然飛びかかってきた何かを、すんでのところでセレン嬢が躱す。その何かは器用に木の幹を蹴って、再びセレン嬢へと躍りかかった。



「く……っ」



セレン嬢の手からウインドカッターが放たれて、その何かに命中する。力を失った何かは、紙切れのようにアシッドアント達の墓場へと落ちていった。



「あっ」



突然飛びかかってきた魔獣はなんとか仕留めたものの、不安定な体勢からウインドカッターを矢継ぎ早に放った反動で、セレン嬢の体が大きく傾ぐ。



「セレン嬢!」



カートからいったんは転落したものの、セレン嬢の体は腕一本でなんとかカートに繋ぎ止められていた。


良かった。


俺も思わず息をつく。とっさにアシッドアントたちの頭上に結界を張ったが、そこまで落ちることもなく持ち堪えることができたようだ。


しかしあの細腕でそう長く自分の重さを支えることはできまい。さすがにこのままでは分が悪いが……。そう考えながら見上げる俺の目の端に、不気味に蠢く



「セレン嬢、まだだ!」



木を幹を伝って、生き残ったアシッドアント達がセレン嬢に迫ろうとしていた。動くことすら難しいだろうセレン嬢など、格好の餌食だ。たまらずおれは火炎をぶっぱなそうと空に手をかざした。



「ヴィオル様! 待って……!」



セレン嬢の声にすんでのところで踏みとどまる。



「わたくしが!」



言うが早いか、セレン嬢はカートに腕一本でぶら下がった不安定極まりない姿勢から、ウインドカッターを放った。



「おお」



やるではないか。真っ青な顔をしているというのに、セレン嬢は突風で自分の体を持ち上げてひらりとカートに飛び乗り足場を確保したかと思ったら、一気に攻撃に転じた。なおも木を伝って飛び掛かってくるアシッドアント達を空中でひらりひらりと躱しては、落下していくのを上から確実に仕留めていた。


セレン嬢から見下ろす景色は、今頃アシッドアントの屍だらけになっているだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【第五回ネット小説大賞入賞作品】

『シナリオ通りに退場したのに、いまさらなんの御用ですか?』

【★個人出版】読んでみて気に入ったらぜひお買い上げください♡

『出戻り聖女の忘れられない恋』
― 新着の感想 ―
[一言] 蝶の様に舞い蜂の様に刺すって感じですね!
[一言] ヴィオル様の音声入り。 これは…使えるのか?(笑)
[一言] 何とか勝ったな 頑張ったなセレン けどヴィオルの声入っちゃったからこれは使えないね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ