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【書籍化&コミカライズ】地味姫と黒猫の、円満な婚約破棄  作者: 真弓りの


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【ヴィオル視点】酔った

記録玉にうっかり俺の声や姿が映ったりしようものなら、確実に提出できないものになってしまう。戦闘が始まった際のさりげない離脱方法を密かに考えていたら、チリ、と首のあたりに刺々しい魔力が纏わりついてくる。


ああ、魔獣か。


それを感知してほどなく、セレン嬢がカートをゆっくりと着陸させた。どうやら飛びながらでもちゃんと魔獣の魔力を感じとることができたようだ。そして、戦闘になるとちゃんと降りて戦うんだということに妙な安心感を覚えた。


さっきから器用に木々の枝の間を縫って飛んでいてすごいとは思うが、さすがに飛ぶのだけでもかなり繊細な魔力の調整が必要なはずだ。これに加えて攻撃系の魔術を使ったり、魔獣からの攻撃を避けたりするのは難しいだろう。


カートから降りて冷静に記録玉を起動させ、ウルフ数匹と戦うセレン嬢の姿は既に危なげなく、俺も安心して見ていられるレベルになっている。わずか数回で本当に驚くほど短期間で成長したものだ。


それもこれも、特級魔術師になるんだという彼女の決意が固いゆえの結果なんだろう。



「終わりました」


「うむ、もうウルフ三頭程度ならなんら問題ないな。ウインドカッターの刃数も増えているし、着実に実力が上がっている」


「……はい!」



俺の評価に満面の笑みで応えたセレン嬢は、明らかにうきうきとした様子でカートに手をかける。セレン嬢に新たな記録球を渡すと、目をキラキラさせてこう言った。



「わたくし、頑張りますわ!」


「うむ、この調子で頑張ってくれ」


「はい! 乗ってくださいませ!」



まだカートで移動するつもりなのか……と思ったが、実際カートで飛ぶ方が圧倒的に早いのは間違いない。なんせこれまで森の中は足場が悪すぎて風による加速も使いにくいものだから普通に歩くしかなかった。カートで進めば森の中域にもすぐに到達できるだろう。



「では、行きますわ」


「ああ」



ふわっと浮き上がるカートは、もはや動きが自然すぎて違和感すら感じない。森の中を木を避けながら進むうちに、セレン嬢の操風技術はめきめきと上がっているようだった。



「少し速度を上げます」



セレン嬢の宣言とともに、カートの速度がくいっと上がる。内心「おっ」と思った。


さっきより、急に森を進む速度が上がっている。いやいや、そんな速度で飛ばしたら、枝がこみあう森の中、避けきれなくなるではないか。


その不安はあっという間に現実になり一瞬で目の前に太い枝が迫ってきて、俺は若干焦った。



「セレン嬢、危ない! 枝が」


「大丈夫」



落ち着いた声でセレン嬢がそう言った瞬間、目の前にあった枝が吹っ飛んだ。



「えっ……」


「ウインドカッターで切って、風で飛ばしました」


「マジか」



進行方向の枝がばっさばっさと切り落とされて、目の前にすかっとした空間が作られていく。まるで森の中に道が現れるみたいだ。



「ヴィオル様、少し荒い飛び方を試してみたいのですが、よろしいでしょうか」


「構わん」



というか、ここまでだって充分に荒い飛び方だったと思うぞ。まぁ言わないが。



「では」


「うわっ」



急に旋回して、俺は驚きのあまりカートの取っ手をぎゅっと掴んだ。



「きゃっ」


「す、すまん!」



足を踏ん張って前傾姿勢になったら、自然セレン嬢に密着する形になってしまった。本当にすまない。



「だ、大丈夫です……」



良かった、どうやら怒ってはいないらしい。


セレン嬢の返事にホッとすると同時に、いやでも、こんなにくねくね急カーブばかりで飛ばれたら、誰でもこうなるぞ多分、と思い直す。


これに懲りておとなしく飛んでくれるかと思いきや、その後もセレン嬢はこれまでのかっ飛ばし方が彼女なりの安全運転だったのだと感じられるほどに高度を頻繁に変えてみたり、旋回を繰り返してみたりとかなりワイルドな飛び方を披露してくれたのだった。



「大丈夫ですか?」


「ちょっと落ち着いてきた」



結果俺は船で酷く揺られたときのように気分が悪くなっていた。セレン嬢が気づいてくれて、今はゆっくりと低空飛行しながら飯を食うのに良さそうな場所を探してくれている。そろそろ昼飯でも食おうかという時間になってくれてある意味助かった。


なんて呑気なことを考えていた俺の全身に、先ほどのウルフとは比べ物にならないレベルの刺すような魔力が襲ってきた。この強さは、確実に中級の魔獣だ。


同じく魔力を感じ取ったらしいセレン嬢が、カートを滑らかに地面へと着陸させる。いつ接地したかが特定できないくらいにソフトタッチだったのが印象的だった。



「ヴィオル様、降りてくださいませ」


「ああ」



俺がカートを降りた途端、なぜかカートが浮き上がり俺から一気に距離をとる。



「セレン嬢?」


「このまま戦います。記録を始めますわ」


「……っ」



記録玉が光り始めて、俺が言葉を発するのを抑制してくる。


このままって。カートに乗ったまま戦うというのか。


中級の魔獣と戦うのは経験の浅いセレン嬢にとって全身全霊をかけて行っても危険な行為なのだ。そもそもが危険を回避するために防護壁は張りっぱなしだ。攻撃系の魔術に加えカートを操るなど、一度に扱う魔術が多すぎて、逆に咄嗟の判断力が鈍る可能性が少なくない。


だが。


俺は思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石のヴィオル様も乗り物酔いには勝てないらしい(笑)
[一言] セレン嬢、君ならできる。 ヤれる。
[一言] いろは坂どころじゃないじゃないですか!……と、思ったら。 ヴィオル様ふつーに気持ち悪くなってるw ですよねー。操者でなければ、どっち方向に振り回されるか分からないから……。 そして最後まで読…
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